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88 目通りの儀(3)
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舞の時間は長くない。おそらく五分か十分ほどだっただろう。
最後に、片方の端を掴んだまま投げた比礼を引き寄せ抱きしめると、細く長い音が続いて曲が終わる。男性の正装姿で踊るのは重いし骨が折れたが、上手くできたと思う。
(……けど……)
誰も微動だにしない。
レーファが体勢を解き、拱手して一礼する。
そこでようやく清潤が拍手し、他の竜王や大公が続いて――
「姉上……ッ」
玉皇上帝はそれしか言えなくなったのではないかと思ってしまうほど噛み締めるように呟いていた。
やはり大公たちが抑えていたが、そうでなければレーファの傍に駆け寄っていたかもしれない。
それはさすがに怖かったし、この世で一番の権力者相手に振り払っていいものか迷っただろうし、そうなると清潤が何をするかわからなかったから、そうならなくてよかった。レーファは密かに大公たちに感謝しておく。
「そなたが何者であるかはともかく、儀は続ける。……皇上」
女性の大公は玉皇上帝の扱いが雑だが、先代の御代には紅竜王だった紅大公だろう。現玉皇上帝の実の姉だ。
「う、うむ。……では、素晴らしき演奏と舞の褒美に、目通りを許す」
「ありがたき幸せにございます」
レーファの隣に戻ってきていた清潤がヴェールを留めていた飾りを外し、そっとヴェールを取り去る。
ヴェールの生地は薄かったから呼吸がしにくいということはなかったが、それでも息苦しさが解消された気がしてホッと息を吐く。
清潤が優しい表情で見てくれている気配は感じていたが、今そちらをまともに見ると絶対に照れてしまうから目線を上げられない。
そうして俯いた顔を上げ、玉皇上帝を真っ直ぐに見てから拱手一礼。
「姉上!!」
またか。
何度目だ。
竜王たちや大公たちの突っ込みが聞こえるようだったが、玉皇上帝の言う姉とレーファやレーファの母にはやたらと共通点があるらしいことだけはわかった。
大公たちのほうから、レーファたちのところまで聞こえる大きな溜息が聞こえた。
「……皇上。それでは、血の検分をいたしましょう」
「今すぐ! 今すぐだ!」
「皇上」
紅大公の眉間やこめかみに、遠目からでも血管が浮いているように見えたのは気のせい、見間違いだったと思いたい。
彼女は溜息を吐いた後、レーファの傍までやってくる。背の高い細身の女性だ。少し母に似ているような気がする。
「レーファ殿。わたしは紅大公の広利だ。皇上のせいで儀式がやや混乱していることは容赦されたい」
「は、はい」
たしかにこの混乱は玉皇上帝のせいだとは思うが、それをきっぱりと言い切って咎められないあたり、やはり実の姉は強いのだろう。
場が許せば弟でありながらも最高権力者である玉皇上帝を面罵しそうな雰囲気があるが、気付かなかったことにする。
最後に、片方の端を掴んだまま投げた比礼を引き寄せ抱きしめると、細く長い音が続いて曲が終わる。男性の正装姿で踊るのは重いし骨が折れたが、上手くできたと思う。
(……けど……)
誰も微動だにしない。
レーファが体勢を解き、拱手して一礼する。
そこでようやく清潤が拍手し、他の竜王や大公が続いて――
「姉上……ッ」
玉皇上帝はそれしか言えなくなったのではないかと思ってしまうほど噛み締めるように呟いていた。
やはり大公たちが抑えていたが、そうでなければレーファの傍に駆け寄っていたかもしれない。
それはさすがに怖かったし、この世で一番の権力者相手に振り払っていいものか迷っただろうし、そうなると清潤が何をするかわからなかったから、そうならなくてよかった。レーファは密かに大公たちに感謝しておく。
「そなたが何者であるかはともかく、儀は続ける。……皇上」
女性の大公は玉皇上帝の扱いが雑だが、先代の御代には紅竜王だった紅大公だろう。現玉皇上帝の実の姉だ。
「う、うむ。……では、素晴らしき演奏と舞の褒美に、目通りを許す」
「ありがたき幸せにございます」
レーファの隣に戻ってきていた清潤がヴェールを留めていた飾りを外し、そっとヴェールを取り去る。
ヴェールの生地は薄かったから呼吸がしにくいということはなかったが、それでも息苦しさが解消された気がしてホッと息を吐く。
清潤が優しい表情で見てくれている気配は感じていたが、今そちらをまともに見ると絶対に照れてしまうから目線を上げられない。
そうして俯いた顔を上げ、玉皇上帝を真っ直ぐに見てから拱手一礼。
「姉上!!」
またか。
何度目だ。
竜王たちや大公たちの突っ込みが聞こえるようだったが、玉皇上帝の言う姉とレーファやレーファの母にはやたらと共通点があるらしいことだけはわかった。
大公たちのほうから、レーファたちのところまで聞こえる大きな溜息が聞こえた。
「……皇上。それでは、血の検分をいたしましょう」
「今すぐ! 今すぐだ!」
「皇上」
紅大公の眉間やこめかみに、遠目からでも血管が浮いているように見えたのは気のせい、見間違いだったと思いたい。
彼女は溜息を吐いた後、レーファの傍までやってくる。背の高い細身の女性だ。少し母に似ているような気がする。
「レーファ殿。わたしは紅大公の広利だ。皇上のせいで儀式がやや混乱していることは容赦されたい」
「は、はい」
たしかにこの混乱は玉皇上帝のせいだとは思うが、それをきっぱりと言い切って咎められないあたり、やはり実の姉は強いのだろう。
場が許せば弟でありながらも最高権力者である玉皇上帝を面罵しそうな雰囲気があるが、気付かなかったことにする。
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