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87 目通りの儀(2)
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「母が吹いておりましたものを、聴いて覚えました」
「……母の名は?」
「ローツィと申します」
「姉上!!」
大声かつ玉座ががたりと大きな音を立てる。
驚いたのはレーファだけではなかった。
「皇上、落ち着かれませ」
「だが今の曲は超絶技巧すぎて姉上しか吹けぬ曲であることは、大公らも存じておろう?! それに名前まで!」
ローツィは、玉皇上帝の姉が好んで使う別名だったという。清潤が使ったラージュナと同じようなものだろうか。
「似た別人という可能性がないわけではないでしょう」
「ローツィであれば笛だけというわけではありませぬ。二胡や舞も名手でしたでしょう」
男女の大公が宥める。
(この方たちは、母様のことを知ってる……?)
ヴェールの下から、失礼にならない程度に四人の貴人の様子を伺う。
大公たちの言に反応したのは清潤だった。
「レーファは二胡についても良き手を持っております。舞も一流の舞い手と並んで恥じるものではありません」
毅然と言い切る清潤の隣で、レーファは冷や汗が背を流れていくのを感じた。
(それはフォローとは言わないから!)
玉皇上帝を押し留めた大公たちまでもがレーファに視線を注ぐ。
正直、ものすごく居心地が悪い。直接視線を浴びて、顔を逸らさない自信がない。まだヴェールをかぶっていてよかったと心底から思った。
「レーファよ。そなたが舞えるものの中で、一番難しいものをこの場で舞えるか?」
この問いは聞いた覚えがある。清潤からではなく、母からだ。
答えも教わっていた。
「迦陵頻伽の声がありますれば、すなわち鳥のごとく舞いましょう」
「姉上!!」
「皇上!!!」
声は暴れる子どもを叱る親のそれだ。女性の大公の声が鋭かった。
「落ち着いてください、彼は男性です」
また立ち上がろうとした玉皇上帝は大公たちに宥められ、玉座に座り直す。
それからすぐにいくつかの楽器が持ち込まれた。これは大公らが奏する楽器らしい。この間にレーファは女官に比礼を借りる。
本来なら細い袖が二メートルほどもある衣装で舞うものだからだ。少なくとも男性の正装で舞う舞ではない。
(実際に舞ったことがあるのは、少ないけど……)
片手の数ほどだろうか。そのうち一度はラージュナの前だった。
けれど母の舞は目に、記憶にしっかり焼き付いている。
レーファの記憶力が良いからというのもあるが、母のこの舞はどの舞より美しく、魅了の魔術でもかかっているのではないかと思うほど夢中で見てしまったからだ。
(母様ほど上手に舞えるかは別として……)
この舞に曲があるとは思わなかった。そこだけが不安だ。
けれど、曲が始まってしまえばすぐに理解できた。
どこで舞い始め、回り、飛び、袖を翻し、比礼を踊らせるか。音楽の速度、拍子。すべてが舞と合致する。
「……母の名は?」
「ローツィと申します」
「姉上!!」
大声かつ玉座ががたりと大きな音を立てる。
驚いたのはレーファだけではなかった。
「皇上、落ち着かれませ」
「だが今の曲は超絶技巧すぎて姉上しか吹けぬ曲であることは、大公らも存じておろう?! それに名前まで!」
ローツィは、玉皇上帝の姉が好んで使う別名だったという。清潤が使ったラージュナと同じようなものだろうか。
「似た別人という可能性がないわけではないでしょう」
「ローツィであれば笛だけというわけではありませぬ。二胡や舞も名手でしたでしょう」
男女の大公が宥める。
(この方たちは、母様のことを知ってる……?)
ヴェールの下から、失礼にならない程度に四人の貴人の様子を伺う。
大公たちの言に反応したのは清潤だった。
「レーファは二胡についても良き手を持っております。舞も一流の舞い手と並んで恥じるものではありません」
毅然と言い切る清潤の隣で、レーファは冷や汗が背を流れていくのを感じた。
(それはフォローとは言わないから!)
玉皇上帝を押し留めた大公たちまでもがレーファに視線を注ぐ。
正直、ものすごく居心地が悪い。直接視線を浴びて、顔を逸らさない自信がない。まだヴェールをかぶっていてよかったと心底から思った。
「レーファよ。そなたが舞えるものの中で、一番難しいものをこの場で舞えるか?」
この問いは聞いた覚えがある。清潤からではなく、母からだ。
答えも教わっていた。
「迦陵頻伽の声がありますれば、すなわち鳥のごとく舞いましょう」
「姉上!!」
「皇上!!!」
声は暴れる子どもを叱る親のそれだ。女性の大公の声が鋭かった。
「落ち着いてください、彼は男性です」
また立ち上がろうとした玉皇上帝は大公たちに宥められ、玉座に座り直す。
それからすぐにいくつかの楽器が持ち込まれた。これは大公らが奏する楽器らしい。この間にレーファは女官に比礼を借りる。
本来なら細い袖が二メートルほどもある衣装で舞うものだからだ。少なくとも男性の正装で舞う舞ではない。
(実際に舞ったことがあるのは、少ないけど……)
片手の数ほどだろうか。そのうち一度はラージュナの前だった。
けれど母の舞は目に、記憶にしっかり焼き付いている。
レーファの記憶力が良いからというのもあるが、母のこの舞はどの舞より美しく、魅了の魔術でもかかっているのではないかと思うほど夢中で見てしまったからだ。
(母様ほど上手に舞えるかは別として……)
この舞に曲があるとは思わなかった。そこだけが不安だ。
けれど、曲が始まってしまえばすぐに理解できた。
どこで舞い始め、回り、飛び、袖を翻し、比礼を踊らせるか。音楽の速度、拍子。すべてが舞と合致する。
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