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80 目合わせの儀(9)

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「う……先にくれたのはラージュナ様だから……お返ししなきゃって思っただけだし……」
「あなたにとってはただのお返しでも、私にとっては最高のお返しでした」

 微笑む清潤に、さらに撫でられる。それも気恥ずかしくて横を向いた。
 ずっと一緒にいることが不可能だということは、清潤もレーファも互いにわかっていた。

「いずれにせよ、あなたが私のところへ来てくれるということだけが楽しみでしたよ? 来てくれることはわかっていましたから、支度を調えるのも楽しみでした」
「……じゃあ、前までと違って色々手配してくれたのは」

 ツガイの報せがあった後に伴の数を増やしてくれたのも、衣装や小物をたくさん贈ってくれたのも。

(オレが皇国へ来るのを楽しみにしてくれていたから?)

 清潤は頷いた。

「あなたの国へ行ってわかったこともたくさんありました。骨が折れることも色々とありましたが……あなたのためですから。少しでも、喜んでもらいたくて」

 髪を梳くように優しく頭を撫でられる。その手はやはり、いつか同じようにしてもらったラージュナと同じだと思えて、また涙がこみ上げてきた。

「私があなたに赦してほしいと思うのは、私の身勝手です。あなたは赦さなくていい。けれど、私が今あなたを好きでいることは……否定しないでください」

 懇願するように言われるのには弱い。絆されて、すぐ赦してしまいそうになる。
 けれどそうしたくない気持ちもあった。

「…………ずるい」
「え?」

 何が、と清潤が言いかけたのを遮って、声は大きくなった。


「ラージュナ様は! オレの! 初恋だったのに!! なんで清潤なの!!」


 八つ当たりのように清潤の胸許を平手で叩く。だがこれは正当な抗議だ。自分ではそう思っている。

(顔が同じでも別人だから……って思ってたのに)

 何故か裏切られた気持ちになる。
 清潤は呆気に取られた顔をしていたが、紙を握り込むようにくしゃりと歪め――ぎゅうっとレーファを抱きしめる。

「それでは私は、私に嫉妬してしまうことになります」
「知らない! オレのせいじゃない」
「ふ、……ええ、あなたではなく、私のせいです」

 くくくと喉の奥で笑っているのが抱きしめられた腕や胸から伝わってくる。

(……オレは怒ってるのに)

 抱きしめられてあやされているのは子どもに対する態度だと思うが、抱きしめられて感じる体温も、手のひらも、指も、嫌いにはなれない。ラージュナと思えば、好きでしかない。
 わかっていようといないのであろうと、丸め込まれている気は、する。
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