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78 目合わせの儀(7)
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俯いたまま、心に蟠っていたことを吐露していく。
「あなたのツガイとして、皇国へ行くのはわかっていたけど……でも、ラージュナ様とこのまま一緒にいられたらって……義兄上に愛妾になればいいって言われた時、娶るって、冗談でもないって言ってくれたのが、すごく、嬉しくて……」
父である王にまで手を回してくれた事実も、泣けるほど嬉しかった。本当にこのまま娶られたいと思った。
胸の奥から、ぐっと感情がこみ上げてくる。
暴れ出しそうなそれを抑えても、涙までは抑えきれなかった。
「そうだったらいいのにって思ったんだ。白竜王は……あなたは、オレに冷たくて……興味もなさそうで。ひとつ前の時は、歩み寄ってくれていたような雰囲気はあったけれど……何考えてるかわからないし……何も言ってくれなかったのは、いつも一緒だ」
「……レーファ……」
「…………名前も、呼んでくれなかった。……呼んでくれたのは、ラージュナ様だ」
視界が滲んで歪む。一度流れてしまえば、止められなかった。
泣きたかったわけではない。
いや、泣きたかったのかもしれない。
(些細なことでも……会話を、したかった)
そうして、白竜王のツガイとして選ばれた自分の、存在の意味を知りたかった。
本当にここに――皇国に、白竜王の傍に、いていいのだと言われたかった。
必要とされたかった。
「……すみません。あなたは、前生の記憶があるのですね」
「ぜんぶ、じゃ……ない、けど……っ」
しゃくりあげながら、目許を擦る。
清潤の腕が躊躇いがちに回され、緩く、包み込むように抱きしめられる。余計に涙は溢れるが、腕を振りほどくような真似はしなかった。
「何度謝っても足りないでしょうが、何度も何度もイヤな思いをさせてしまって……すみませんでした」
抱きしめられる腕に力が篭もる。
ずっとこんな暖かさを求めてきた。与えてくれたのはラージュナだと思っていたが、本当は清潤だったなんて。
――ずっと与えてくれない人だったなんて!
(なんで……なんで)
しばらくそのまま嗚咽を漏らしていたが、徐々に落ち着いてくると顔を上げるのが恥ずかしくなってきた。
声をあげて泣くなど母が亡くなって以来ではないだろうか。
幼子でもあるまいに、みっともなく泣いて――あやされている。
恥ずかしくないわけがない。
(……顔、上げられない)
今はとんでもなく醜い顔をしているに違いない。清潤だけではなく、誰にも見せられない顔だ。
「あなたのツガイとして、皇国へ行くのはわかっていたけど……でも、ラージュナ様とこのまま一緒にいられたらって……義兄上に愛妾になればいいって言われた時、娶るって、冗談でもないって言ってくれたのが、すごく、嬉しくて……」
父である王にまで手を回してくれた事実も、泣けるほど嬉しかった。本当にこのまま娶られたいと思った。
胸の奥から、ぐっと感情がこみ上げてくる。
暴れ出しそうなそれを抑えても、涙までは抑えきれなかった。
「そうだったらいいのにって思ったんだ。白竜王は……あなたは、オレに冷たくて……興味もなさそうで。ひとつ前の時は、歩み寄ってくれていたような雰囲気はあったけれど……何考えてるかわからないし……何も言ってくれなかったのは、いつも一緒だ」
「……レーファ……」
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泣きたかったわけではない。
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本当にここに――皇国に、白竜王の傍に、いていいのだと言われたかった。
必要とされたかった。
「……すみません。あなたは、前生の記憶があるのですね」
「ぜんぶ、じゃ……ない、けど……っ」
しゃくりあげながら、目許を擦る。
清潤の腕が躊躇いがちに回され、緩く、包み込むように抱きしめられる。余計に涙は溢れるが、腕を振りほどくような真似はしなかった。
「何度謝っても足りないでしょうが、何度も何度もイヤな思いをさせてしまって……すみませんでした」
抱きしめられる腕に力が篭もる。
ずっとこんな暖かさを求めてきた。与えてくれたのはラージュナだと思っていたが、本当は清潤だったなんて。
――ずっと与えてくれない人だったなんて!
(なんで……なんで)
しばらくそのまま嗚咽を漏らしていたが、徐々に落ち着いてくると顔を上げるのが恥ずかしくなってきた。
声をあげて泣くなど母が亡くなって以来ではないだろうか。
幼子でもあるまいに、みっともなく泣いて――あやされている。
恥ずかしくないわけがない。
(……顔、上げられない)
今はとんでもなく醜い顔をしているに違いない。清潤だけではなく、誰にも見せられない顔だ。
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