75 / 130
75 目合わせの儀(4)
しおりを挟む
今まで何度もこの瞬間はあった。だからといって慣れたわけではない。顔を知っている相手だが、レーファがどうしても緊張してしまう相手でもあった。
俯いた顔を隠していたヴェールがめくられ、そっと取り去られる。少し乾いた手のひらがレーファの頬を撫で、つられるように白竜王を見た。
長い黒髪を緩く編んで右側へ垂らしている。白磁のような肌は自分の肌よりずっと透明感のある色で、滑らかだ。夕闇色の双眸が、レーファだけを映している。
ずっと思っていたが、やはりラージュナと似ている。瓜二つと言っていいほど。もしかしたら双子で里子に出されでもしたのではないか。訊けそうなタイミングがあれば訊いてみようと心に決める。
そうして、彼を見ているのは自分だけではないと気付いた。
(……見られてた)
見つめられるのは不慣れだ。無礼にならないよう、そっと目を伏せた。
「……やはり綺麗ですね」
「……?」
言い方が引っかかったが、彼に促されて座る。
まだ熱い茶を彼に勧めた。
「お口に合うかは……わかりませんが」
「あなたの淹れた茶なら、問題ありません」
やけにハッキリ言い切ってくれる。
「飲んだこともないのに、ですか?」
「ふふ」
「……!」
笑った。
思わず白竜王を凝視する。視線に気付いたのだろう、白竜王は目を細めて微笑んだ。見たことがない表情に目を奪われる。どうしても、ラージュナが重なった。
「……清潤と呼んでください、レーファ」
「あ……は、はい」
「かしこまらないでください。言葉は崩して構いません」
「そう、言われても……」
世界で二番目に偉い竜人に言われて、すぐに頷けるほど豪胆ではない。以前もこんなやり取りがあったなら慣れもあっただろうが、こんな気遣われるような言葉をかけられるのは初めてだった。
「それとも、……」
白竜王は少し思案げに紅茶を飲んだ。優雅な手つきでカップを置く。
「おまえには、こちらのほうが良かっただろうか?」
「……えっ?!」
「そんなに驚くこともないだろう?」
少しゆったりとした喋り方は抑揚が抑えられているが言葉は明瞭だ。
(この、喋り方は)
驚きすぎて紅茶を零すかと思った。慌ててカップをソーサーに戻すと、清潤の顔を見つめる。そうして、ふとあることに気付いた。
(……まさか)
清潤が緩く髪をまとめているのに使っている組紐。色と、太さと。――見覚えがある。無意識に、手がそれへ伸びていた。
俯いた顔を隠していたヴェールがめくられ、そっと取り去られる。少し乾いた手のひらがレーファの頬を撫で、つられるように白竜王を見た。
長い黒髪を緩く編んで右側へ垂らしている。白磁のような肌は自分の肌よりずっと透明感のある色で、滑らかだ。夕闇色の双眸が、レーファだけを映している。
ずっと思っていたが、やはりラージュナと似ている。瓜二つと言っていいほど。もしかしたら双子で里子に出されでもしたのではないか。訊けそうなタイミングがあれば訊いてみようと心に決める。
そうして、彼を見ているのは自分だけではないと気付いた。
(……見られてた)
見つめられるのは不慣れだ。無礼にならないよう、そっと目を伏せた。
「……やはり綺麗ですね」
「……?」
言い方が引っかかったが、彼に促されて座る。
まだ熱い茶を彼に勧めた。
「お口に合うかは……わかりませんが」
「あなたの淹れた茶なら、問題ありません」
やけにハッキリ言い切ってくれる。
「飲んだこともないのに、ですか?」
「ふふ」
「……!」
笑った。
思わず白竜王を凝視する。視線に気付いたのだろう、白竜王は目を細めて微笑んだ。見たことがない表情に目を奪われる。どうしても、ラージュナが重なった。
「……清潤と呼んでください、レーファ」
「あ……は、はい」
「かしこまらないでください。言葉は崩して構いません」
「そう、言われても……」
世界で二番目に偉い竜人に言われて、すぐに頷けるほど豪胆ではない。以前もこんなやり取りがあったなら慣れもあっただろうが、こんな気遣われるような言葉をかけられるのは初めてだった。
「それとも、……」
白竜王は少し思案げに紅茶を飲んだ。優雅な手つきでカップを置く。
「おまえには、こちらのほうが良かっただろうか?」
「……えっ?!」
「そんなに驚くこともないだろう?」
少しゆったりとした喋り方は抑揚が抑えられているが言葉は明瞭だ。
(この、喋り方は)
驚きすぎて紅茶を零すかと思った。慌ててカップをソーサーに戻すと、清潤の顔を見つめる。そうして、ふとあることに気付いた。
(……まさか)
清潤が緩く髪をまとめているのに使っている組紐。色と、太さと。――見覚えがある。無意識に、手がそれへ伸びていた。
27
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
無気力令息は安らかに眠りたい
餅粉
BL
銃に打たれ死んだはずだった私は目を開けると
『シエル・シャーウッド,君との婚約を破棄する』
シエル・シャーウッドになっていた。
どうやら私は公爵家の醜い子らしい…。
バース性?なんだそれ?安眠できるのか?
そう,私はただ誰にも邪魔されず安らかに眠りたいだけ………。
前半オメガバーズ要素薄めかもです。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話
雪平
BL
17歳、その生涯を終えた。
転生した先は、生前妹に借りていた乙女ゲームの世界だった。
悪役令嬢の兄に転生したからには、今度こそ夢を叶えるために死亡フラグが立ちまくるメインキャラクター達を避けてひっそりと暮らしたかった。
しかし、手の甲に逆さ十字の紋様を付けて生まれて「悪魔の子だ」「恥さらし」と家族やその周辺から酷い扱いを受けていた。
しかも、逃げ出した先で出会った少年はメイン中のメインキャラクターの未来の騎士団長で…
あれ?この紋様、ヒロインのものじゃなかったっけ?
大帝国の神の子と呼ばれたこの世で唯一精霊の加護により魔法が使える冷淡(溺愛)騎士団長×悪魔の子と嫌われているが、生きるために必死な転生少年とのエロラブバトル。
「……(可愛い可愛い)」
「無表情で来ないでよ!怖い怖い!!」
脇CPはありません。
メイン中心で話が進みます。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる