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75 目合わせの儀(4)

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 今まで何度もこの瞬間はあった。だからといって慣れたわけではない。顔を知っている相手だが、レーファがどうしても緊張してしまう相手でもあった。

 俯いた顔を隠していたヴェールがめくられ、そっと取り去られる。少し乾いた手のひらがレーファの頬を撫で、つられるように白竜王を見た。

 長い黒髪を緩く編んで右側へ垂らしている。白磁のような肌は自分の肌よりずっと透明感のある色で、滑らかだ。夕闇色の双眸が、レーファだけを映している。

 ずっと思っていたが、やはりラージュナと似ている。瓜二つと言っていいほど。もしかしたら双子で里子に出されでもしたのではないか。訊けそうなタイミングがあれば訊いてみようと心に決める。
 そうして、彼を見ているのは自分だけではないと気付いた。

(……見られてた)

 見つめられるのは不慣れだ。無礼にならないよう、そっと目を伏せた。

「……やはり綺麗ですね」
「……?」

 言い方が引っかかったが、彼に促されて座る。
 まだ熱い茶を彼に勧めた。

「お口に合うかは……わかりませんが」
「あなたの淹れた茶なら、問題ありません」

 やけにハッキリ言い切ってくれる。

「飲んだこともないのに、ですか?」
「ふふ」
「……!」

 笑った。
 思わず白竜王を凝視する。視線に気付いたのだろう、白竜王は目を細めて微笑んだ。見たことがない表情に目を奪われる。どうしても、ラージュナが重なった。

「……清潤せいじゅんと呼んでください、レーファ」
「あ……は、はい」
「かしこまらないでください。言葉は崩して構いません」
「そう、言われても……」

 世界で二番目に偉い竜人に言われて、すぐに頷けるほど豪胆ではない。以前もこんなやり取りがあったなら慣れもあっただろうが、こんな気遣われるような言葉をかけられるのは初めてだった。

「それとも、……」

 白竜王は少し思案げに紅茶を飲んだ。優雅な手つきでカップを置く。

「おまえには、こちらのほうが良かっただろうか?」
「……えっ?!」
「そんなに驚くこともないだろう?」

 少しゆったりとした喋り方は抑揚が抑えられているが言葉は明瞭だ。

(この、喋り方は)

 驚きすぎて紅茶を零すかと思った。慌ててカップをソーサーに戻すと、清潤の顔を見つめる。そうして、ふとあることに気付いた。

(……まさか)

 清潤が緩く髪をまとめているのに使っている組紐。色と、太さと。――見覚えがある。無意識に、手がそれへ伸びていた。
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