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74 目合わせの儀(3)

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 夕餉の後、沐浴はひとりで行う。

 ツガイになる白竜王とまだ顔を合わせていない以上、他の者たちに顔を見せるわけにはいかない。月之宮でそうだったように、丈の短いヴェールを着けたまま沐浴することもできただろうが、レーファはひとりで入ることを選んだ。
 かわりに、石けんや洗髪剤などは用意してもらい、香りが気に入ったものを選ぶ。たまたまだろうが、レーファが好きなカモミールの香りのものがあり、それにした。自分の好きな香りだが、白竜王のためにと思うと複雑な気持ちになる。

 衣服は、袖を通して前を帯であわせ、帯で留めただけのものだ。白地の生地は絹で、赤色の襟の刺繍も瀟洒ではある。国が違えば丈の長いガウンのようにみえただろう。

 下着は身に着けない。

(なんか……こういう……いかにもっていうのは……)

 繰り返している人生の中、何度袖を通しても、やはり落ち着かなくさせられた。

「……お茶の用意でもしておこうか」

 手を動かせば気が紛れる。それにお茶ならふたりで飲んでもおかしくはないはずだ。何しろ茶器は用意されているのだから。
 茶菓子もある。餡にくるみが入った饅頭と、パイ生地の菓子は見覚えがあるが、レーファが知るものと同じかは食べてみないとわからない。同じものなら甘さが控えめで、ラージュナに貰って食べた時、サンディラも好きだと言っていたなと思い出す。

 茶器は青磁のティーカップやソーサー、ティーポット。一目で高価なものとわかる。茶葉も、茶筒を開ければふんわりと清涼な香り。紅茶なのだとわかった。
 湯を沸かすための小さな火鉢が用意されており、レーファは魔法で火を熾すと小さな薬缶へ清浄な水を魔法で用意し、沸かす。

「白竜王陛下、お渡りです」

 扉の外からの声に、慌ててヴェールを直す。平常心を保ちたくて、ちょうど沸いた湯をティーポットとカップに注いで温め、温めた後は茶盤に湯を捨てた。
 茶葉をポットに入れると、湯を注ぐ。白竜王が部屋に着く頃にはカップに注げるだろう。茶を淹れる時は心が落ち着いた。

(……いざ待つとなると、時間が長く感じちゃうよね……)

 頃合いを見計らい、二つのカップへそれぞれと注ぐ。赤っぽい、澄んだ色の茶。注ぎ終わると同時に扉が開いた。白竜王が姿を現す。
 レーファはポットをテーブルに置くと、立ち上がり、緊張はしているが優雅に見えるよう礼をした。

「茶を用意してくれたのですか」

 扉が閉まると、白竜王が近付いて来る。頷くと、白竜王は雰囲気を和らげたようだった。――違和感がある。

「では、いただきましょう。あなたも一緒に。……その前に、ヴェールを外しても?」

 問いかけるのは、お決まりの文句だ。レーファはただ頷く。緊張して、声を出せてもきっと掠れていただろう。
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