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71 おかしい(3)

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 すっかり体をきれいにした後は、皇国らしい衣服に着替える。これはラージュナが贈ってくれていた服があり、自分である程度まで着た段階で侍女が慌てて着付けてくれた。どうやら今生ではひとりで済ませなくてよかったらしい。

(ここまで、特に今のオレが死んだ感じはなかったな)

 意識がブラックアウトしなかった。

 それに、以前なら馬車に乗って都を出た後、月之宮に到着して部屋へ入った時、湯浴みや着替えで虫や蛇が発生したが、今回は出なかった。どのタイミングでも出なかったのは、初めてではなかろうか。

 昼食、夕食ではどうだろう。

「着慣れねえ服ってのは、どうも落ち着かないな……」
「袖が長いですねえ……」
「布の枚数が多いよなァ……」

 ラージュナはサンディラとヴェルティスの皇国衣装も用意してくれていた。まさかこうなることを予測していたのか。単に偶然とは言い難い。
 本当にレーファを娶り、サンディラとヴェルティスまで迎えてくれる気があったのだろうか。

 衣服のほうは、白竜王が用意してくれた何着かの衣服を合わせれば、三十日は充分に過ごせそうだ。

(いや、それだと今の待遇がよくわからないな……)

 気があったとして、その後で白竜王のツガイだとわかったから、白竜王にいろいろとレーファの好みや何かを教えてくれた――と思うほうが自然だろうか。

(どこかでお会いできるといいんだけどな)

 彼のことを思い出すと胸が温かくなった。また会える機会があれば礼を言いたいが――最後に彼が何を自分にしたのか、自分が彼に何をしたかを思い出すと床を転げ回りたくなる。

「レーファ、どうした?」
「疲れたか?」
「……なんでもない。ご飯食べに行こう」

 ゆるく頭を振ると、ふたりを伴って食事室へと向かった。



   ++++++++++++++++++



「……おかしい……」

 寝台に仰向けで寝転がって、レーファは呟いた。
 すでに寝衣に着替えているから、このまま寝ても問題ない。

(なんで、何もないんだ……?)

 手のひらを天井に翳す。枕元の灯りだけでは部屋は薄暗いが、周囲は見えた。

(今だって……蠍とか毒蛾とか入ってきそうなのに、大丈夫そうだし……)

 月之宮に入って、二十日以上が過ぎた。
 女官長や侍女、官吏以外の竜人にはまだ会っていない。これは前回までと変わらない。だが女官長や侍女の顔ぶれが変わっているように思える。
 前の生でも何名かが変わった気がしたが、全員が変わったのは今回が初めてではないだろうか。

(何か意味がある……んだろうな)

 少なくとも彼ら彼女らの顔ぶれが変わったことで、月之宮での生活は安心できるものになった。
 この調子なら、少なくとも月之宮での三十日、残り十日ほどは安全だろうか。油断はできないけれど、女官たちの雰囲気が前までと違うから、信用してもいいと思えてしまう。少なくともレーファたちを蔑んだり嘲るような空気はないから。

「……あと十日かぁ……」

 その翌日の朝には、宮を移る。白竜王の居住、白竜王宮へ入るのだ。
 入れば入ったで、前回の生まででは実に様々な方法で死んだ。このまま無事に済まされるだろうか。

「なんとかなりますように……」

 上掛けをかぶると、横向きに寝返りを打ち、目を閉じた。
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