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69 おかしい(1)

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 使者の来訪から二日後。

 別れの儀の最後は街の者たちも沿道で見送ってくれる、盛大なものになった。ここで初めてレーファの顔を見た者たちの中には、時折街に遊びに来ていた少年だと気付いた者もいただろう。
 道の左右の民たちに王族らしい笑みを見せて手を振り、王都から離れてようやく一息ついた。

「この馬車、すごく快適だな」

 サンディラが座面をぽんぽんと叩く。座面は長時間座っても疲れることがなさそうで、進んでいる間も揺れがほとんど伝わってこない。三人が座っていても、窮屈さを感じさせなかった。
 ヴェルティスはやや落ち着かない様子だ。

「馬車自体、久しぶりすぎて……」
「西の森の狩り以来か。あの時はこれほどいい馬車じゃなかったし、寛いでいればいいじゃねえか。どうせ一時間で皇国に着くんだからよ」
「そりゃそうだけどね。どういう原理でそんな早く着くんだろうな……普通、馬なら国境まで数日はかかるのに」
「そのあたりは、魔術みたいな術じゃねえか?」
「だろうね。オレもそう思う」

 皇国が扱う術は道術や符術というが、なかでも符術はよく発達しているらしい。魔術とは理論が違うそうだから、そのあたりが不思議を体現しているのかもしれなかった。
 以前の生で道術を目の当たりにしたことはないから、想像も含まれるが。
 使者からもらった書類をめくる。

「皇都に入れば皇城の月之宮に案内されて、そこで三十日の潔斎……」
「潔斎って具体的に何をするんだ?」

 サンディラの問いに、レーファが簡潔に応える。

「皇国の料理しか食べられなくなるんだ。オレたちはそれで三十日後には皇国民になれる」
「料理だけで?」
「食べ物が体を作っているからね。皇国で作られた料理でできた体だってところが大切なんだろうと思うよ」
「よくわからない理論だな……」

「そのよくわからない理論のお陰で、ヒトでも皇国民になれるんだ。竜官から聞いた話だと、月之宮で潔斎するのは身分があるヒトだけで、商人なんかはそんなに厳密じゃないらしい。色んな王国の理論や書類が必ずしも通るわけじゃないから、皇国に合わせなきゃいけないんだ」

 様々な王国や帝国を統べているのが皇国だ。だから皇国の理論は支配下の王国には通じるが、王国の理論を皇国が承けてくれるかは別問題。目下の者の話を何故聞かねばならぬ、となる。
 もちろん正しい意見であれば承認されることも多いが、稀にヒトから見て正しい意見であっても、竜人からはそうではない意見もある。そのあたりは竜官が調整するようだが、調整できない時に戦争は起こるのだろう。最初の頃のレーファの生がそうだったように。

(そういえば、途中から戦乱がどうのって話はあまり聞かなくなったな……今回もそうだけど)

 思い返すと、相違点は多いのかもしれない。この馬車にしてもそうだ。一度書き出すのもいいかもしれないなと思いつつ、背もたれに凭れた。
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