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68 八咫烏(3)
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「迎宮から月之宮、白竜王宮ではフェイスヴェールなど顔を隠すものが必須となる。目合わせの儀まで人前では外さぬように。儀が終われば不要だ。……随伴の前では構わぬ。月之宮では皇国の食事を三十日間、摂ってもらう。これは潔斎と呼ぶ。これで体は皇国の者、貴人として作り替えられた、という理論だな」
三十日で一区切り、と知っていたのでレーファは頷いた。
「それから目合わせの儀があり……翌日は皇上や大公閣下たちと顔合わせ。この際、舞か楽器を披露することになるが、汝は心得があるか?」
皇上は玉皇上帝に対する尊称だ。玉皇上帝をそのまま呼ぶことはあまりない。
歌舞音曲はレーファの母も好きで、よく教わっていた。
「両方ともあります」
「ならば楽器のほうがよいかもしれぬ。皇上は音曲を愛しておられるから」
前の生までと儀式の順番が違っているような気がする。ここも変更点か、と心の中でチェックを入れる。
「承知しました」
「うむ。同じような内容を書類にして届ける。出立は迎えが来次第だが……おそらく明後日あたりには到着するだろう。それまでに荷をまとめておくように。すべてを持っていくこともできるよう、配慮と手配がなされている」
「……ありがとうございます」
(全部は……さすがにどうかと思うけど)
愛着があるものはまず間違いなく持っていきたい。すべて持っていけるのなら、前生まででは持っていけなかったものも一緒に。
大切なもので真っ先に浮かぶのは、母の形見の笛と二胡。それからラージュナにもらった様々な品物。プレゼントは厳選して持っていく必要があるかもしれないが、少なくとも茶器のセットと楽器は持っていきたいと思う。
ラージュナのことを思い出すと胸が温かくなる。彼は今、どうしているだろう。
使者の前から辞すと、自室で待ってくれていたサンディラとヴェルティスに早速話をする。ふたりはまず、自分たちがレーファと皇国に行けることを喜んでくれた。
「あの、でも好きな人とか不都合があれば、全然断ってくれていいんだよ?」
あまりにもふたりが喜ぶものだから、かえって心配になる。
「俺の主人はレーファだけだから! 誰が何と言おうとついて行く!」
「俺も、今更この国でおまえ以外に仕える相手は見つからねぇよ。惚れた女もいねえし、当然ついて行くぜ」
ハナからついて来てくれる気が満々だったらしい。これにはホッとさせられた。彼らと別れたら、淋しくなるのが目に見えていたから。そして、ふたりを連れて行けることでこの先、変わることがまだあるのだろうと想像する。
「……ああ、そうだ。着いてきてくれるなら、ふたりとも明後日の朝までに荷造りしてね。オレのはだいぶまとまってて……あとちょっと増やしたいくらいだから、ひとりでできるし」
ふたりとも一緒に皇国へ行けるという現実を、改めて荷造りするということで気付いたらしい。ふたりはあからさまにハッとした顔をしたかと思うと、がばりと立ち上がった。
「そうだな?!」
「急いで支度します!」
慌てて出て行ったふたりを見送ると、レーファは微笑んだ。
三十日で一区切り、と知っていたのでレーファは頷いた。
「それから目合わせの儀があり……翌日は皇上や大公閣下たちと顔合わせ。この際、舞か楽器を披露することになるが、汝は心得があるか?」
皇上は玉皇上帝に対する尊称だ。玉皇上帝をそのまま呼ぶことはあまりない。
歌舞音曲はレーファの母も好きで、よく教わっていた。
「両方ともあります」
「ならば楽器のほうがよいかもしれぬ。皇上は音曲を愛しておられるから」
前の生までと儀式の順番が違っているような気がする。ここも変更点か、と心の中でチェックを入れる。
「承知しました」
「うむ。同じような内容を書類にして届ける。出立は迎えが来次第だが……おそらく明後日あたりには到着するだろう。それまでに荷をまとめておくように。すべてを持っていくこともできるよう、配慮と手配がなされている」
「……ありがとうございます」
(全部は……さすがにどうかと思うけど)
愛着があるものはまず間違いなく持っていきたい。すべて持っていけるのなら、前生まででは持っていけなかったものも一緒に。
大切なもので真っ先に浮かぶのは、母の形見の笛と二胡。それからラージュナにもらった様々な品物。プレゼントは厳選して持っていく必要があるかもしれないが、少なくとも茶器のセットと楽器は持っていきたいと思う。
ラージュナのことを思い出すと胸が温かくなる。彼は今、どうしているだろう。
使者の前から辞すと、自室で待ってくれていたサンディラとヴェルティスに早速話をする。ふたりはまず、自分たちがレーファと皇国に行けることを喜んでくれた。
「あの、でも好きな人とか不都合があれば、全然断ってくれていいんだよ?」
あまりにもふたりが喜ぶものだから、かえって心配になる。
「俺の主人はレーファだけだから! 誰が何と言おうとついて行く!」
「俺も、今更この国でおまえ以外に仕える相手は見つからねぇよ。惚れた女もいねえし、当然ついて行くぜ」
ハナからついて来てくれる気が満々だったらしい。これにはホッとさせられた。彼らと別れたら、淋しくなるのが目に見えていたから。そして、ふたりを連れて行けることでこの先、変わることがまだあるのだろうと想像する。
「……ああ、そうだ。着いてきてくれるなら、ふたりとも明後日の朝までに荷造りしてね。オレのはだいぶまとまってて……あとちょっと増やしたいくらいだから、ひとりでできるし」
ふたりとも一緒に皇国へ行けるという現実を、改めて荷造りするということで気付いたらしい。ふたりはあからさまにハッとした顔をしたかと思うと、がばりと立ち上がった。
「そうだな?!」
「急いで支度します!」
慌てて出て行ったふたりを見送ると、レーファは微笑んだ。
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