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66 八咫烏(1)
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八咫烏は三本脚の黒い鳥で、竜人が特別な時にしか使わない伝達手段だ。主に各地の竜官に急を報せる時に使われる。
その八咫烏がレト王国に飛来したという。
報せはすぐに竜官から国王へ伝えられ――王妃と三王子も呼び出され、玉座の間に集まった。
五分で済む話に三十分もかかったのは、王妃がヒステリーを起こしたからだ。
「どんなヒステリーだったか、想像できる」
ヴェルティスがアイスハーブティーを淹れてくれたので、茶杯に口を付けた。すっきりした味わいの中に、甘さと好きな香りが混ざる。カモミールも入れてくれたらしい。
「どうして第三王子が、何故自分の王子ではないのか。おおかたそんなところだろ?」
「うん」
部屋に戻って最初に、ふたりにはツガイのことを告げた。なんとも言えない反応をされたが、気持ちはわからないでもない。
ひとつには、レーファが政略結婚の道具にされずに済んだこと。これは喜ばしい。
ふたつめは、ツガイとして皇国に赴くにあたり、現時点でまったく詳細がわからないこと。なにしろ旅立ちの日程すらわからない。が、これは後日きちんと使者が来るらしい。
みっつめは、王宮を出るまでは王妃の嫌がらせがありそうだということ。
よっつめは、消極的かつ希望的観測で、ラージュナが本当に結婚を申し出てくれるのではないかと思っていたこと。
「ラージュナ様が迎えて下さるとばかり思ってたからなァ……」
「俺も。あれだけレーファを可愛がって、特別扱いしてくれてたのに……」
「……竜人にも失恋ってあるのかねェ……」
「それはわからないけど……レーファにとっても残念に違いないよな」
「オレ?」
ぼんやりしているところに急に話を振られて振り返る。
「だって、見知らぬ竜王より十年以上傍にいてくれた竜人のほうがいいだろう?」
「おまけにその竜人には娶るとまで言われていたんだしなァ」
それはそうだ。
愛してくれていたかはともかく、可愛がってくれたラージュナへの想いはたしかにある。
(でも……こうなることはわかってたし)
元々レーファが誰を好きになろうと、白竜王のツガイになることは避けられないことだ。
ラージュナが帰国してから希望を捨てて覚悟を決めてきたとはいえ、本当に心残りがないのかと問われると、返事に窮してしまう。
「竜人に嫁ぐことは栄誉に違いねェ」
それが竜王ともなれば最高の栄誉といえるし、ツガイは夫婦以上の意味を持つ。皇国内でも扱いは一段変わるというが、ヒトはどうなるのだろう。ヒトとツガイの実例が少ないらしいから、その時にならないとわからない。
――というのがサンディラとヴェルティスの見解だが、何度も何度も何十回も皇国へ行ったレーファにしてみれば慣れたものだし、落ち着きもしてしまう。なるべく不自然にならないようにはしておきたいけれど。
「とりあえず、荷物の選別をしようか。持っていきたいものからピックアップして荷造りしておかないとね」
「どれだけ持っていけるか……」
「俺たちも一緒に行けりゃいいんだが……」
「他王国だと俺たちふたりくらい全然余裕なんだけどなー」
わいわい騒ぎながら、服は量が多すぎるから私物から、と話がまとまっていった。
その八咫烏がレト王国に飛来したという。
報せはすぐに竜官から国王へ伝えられ――王妃と三王子も呼び出され、玉座の間に集まった。
五分で済む話に三十分もかかったのは、王妃がヒステリーを起こしたからだ。
「どんなヒステリーだったか、想像できる」
ヴェルティスがアイスハーブティーを淹れてくれたので、茶杯に口を付けた。すっきりした味わいの中に、甘さと好きな香りが混ざる。カモミールも入れてくれたらしい。
「どうして第三王子が、何故自分の王子ではないのか。おおかたそんなところだろ?」
「うん」
部屋に戻って最初に、ふたりにはツガイのことを告げた。なんとも言えない反応をされたが、気持ちはわからないでもない。
ひとつには、レーファが政略結婚の道具にされずに済んだこと。これは喜ばしい。
ふたつめは、ツガイとして皇国に赴くにあたり、現時点でまったく詳細がわからないこと。なにしろ旅立ちの日程すらわからない。が、これは後日きちんと使者が来るらしい。
みっつめは、王宮を出るまでは王妃の嫌がらせがありそうだということ。
よっつめは、消極的かつ希望的観測で、ラージュナが本当に結婚を申し出てくれるのではないかと思っていたこと。
「ラージュナ様が迎えて下さるとばかり思ってたからなァ……」
「俺も。あれだけレーファを可愛がって、特別扱いしてくれてたのに……」
「……竜人にも失恋ってあるのかねェ……」
「それはわからないけど……レーファにとっても残念に違いないよな」
「オレ?」
ぼんやりしているところに急に話を振られて振り返る。
「だって、見知らぬ竜王より十年以上傍にいてくれた竜人のほうがいいだろう?」
「おまけにその竜人には娶るとまで言われていたんだしなァ」
それはそうだ。
愛してくれていたかはともかく、可愛がってくれたラージュナへの想いはたしかにある。
(でも……こうなることはわかってたし)
元々レーファが誰を好きになろうと、白竜王のツガイになることは避けられないことだ。
ラージュナが帰国してから希望を捨てて覚悟を決めてきたとはいえ、本当に心残りがないのかと問われると、返事に窮してしまう。
「竜人に嫁ぐことは栄誉に違いねェ」
それが竜王ともなれば最高の栄誉といえるし、ツガイは夫婦以上の意味を持つ。皇国内でも扱いは一段変わるというが、ヒトはどうなるのだろう。ヒトとツガイの実例が少ないらしいから、その時にならないとわからない。
――というのがサンディラとヴェルティスの見解だが、何度も何度も何十回も皇国へ行ったレーファにしてみれば慣れたものだし、落ち着きもしてしまう。なるべく不自然にならないようにはしておきたいけれど。
「とりあえず、荷物の選別をしようか。持っていきたいものからピックアップして荷造りしておかないとね」
「どれだけ持っていけるか……」
「俺たちも一緒に行けりゃいいんだが……」
「他王国だと俺たちふたりくらい全然余裕なんだけどなー」
わいわい騒ぎながら、服は量が多すぎるから私物から、と話がまとまっていった。
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