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65 成人の儀の後(6)
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(あ……でも、そうか……)
レーファはその事実を知っているが、ラージュナはまだ行われていない卜占の内容を知っているはずがない。
成人してから数ヶ月後に行われたと聞いたから、本当ならまだ先の話だ。
(え、じゃあ……じゃあ、ほんとに……本当にそう思ってくれてるってこと……?)
思い至ると、カッと体中が熱くなった気がした。
望まれている。ラージュナに。
(…………嬉しい、って思っていいのかな)
同時に、悲しい。
(……卜占なんて、なければ良かったのに)
大きく息を吸い、吐き出すと、レーファはじっとラージュナを見つめた。
「あなたに、渡したいものがあるんだ。……その、今までのお礼……になるかはわからないけれど」
小さな袋の中から、さらに小さな袋を取り出して差し出した。
「これは……」
「香袋。と、中に……髪をまとめる時にでも使ってくれればいいなって……」
香袋は紐付きで、巾着型だ。両側を引けば口が締まる。そこを開き、ラージュナは中に入っていた細くて長い紐を取り出した。
組紐だ。
黒地に濃い紫、銀の糸で柄が入っている。
他に小さな袋に入っているのは、カモミールの香りを凝縮した香玉。
「組紐……髪紐用か」
「ちゃんと作ったの初めてだから、不格好かもしれないけど。……袋のほうは、竜人は香袋使うこともあるって聞いたから」
聞いたのはいつだっただろう。竜官から聞いたのだ。
中に香木や花の香りを染みこませた布などを入れることがある。香水などのように直接振りかけない分、香りは控えめらしいが、香りが強いより好ましい、そんな風に言っていた。
カモミールはレーファが好きな香りだ。本当ならラージュナの好きな香りを入れたほうがいいのだろう。十数年も付き合いがあるのに彼の好きな香りが何だったかわからなかった――というのもあるが、自分の好きな香りを纏っていてほしいと思ったから、カモミールにした。
香袋をしげしげと見つめられるのも、少し恥ずかしい。
「袋の刺繍もおまえが?」
鳥と木を簡略化した図案を刺繍した。
少しばかり歪んでしまったが、初めてだからだと言い訳したい。
「……不格好だろう」
「どんな一流の職人が作った袋よりずっと価値がある。では、組紐もか」
「そう。昔、母様から作り方を習ったから。ちゃんとできるかわからなかったし、ちょっと曲がったりしてるけど……」
「使えば気にならない。ありがとう」
「あとね、もうひとつ」
「?」
膝でいざって近付く。心臓がばくばくとうるさいが、もっと近く――抱きつけるほど近くまで寄ると、思い切って体を伸ばす。
くちびるの端、頬の下のほうへと口付けた。
「……っ?!」
ラージュナが混乱とも困惑とも驚きとも、あるいはその全部が混ざったような顔をする。そんな顔は初めて見た。
「明日は! ちゃんと見送るね!」
レーファは勢いよく立ち上がると、脱兎のごとくラージュナの部屋から自室へと逃げるように帰った。
レーファはその事実を知っているが、ラージュナはまだ行われていない卜占の内容を知っているはずがない。
成人してから数ヶ月後に行われたと聞いたから、本当ならまだ先の話だ。
(え、じゃあ……じゃあ、ほんとに……本当にそう思ってくれてるってこと……?)
思い至ると、カッと体中が熱くなった気がした。
望まれている。ラージュナに。
(…………嬉しい、って思っていいのかな)
同時に、悲しい。
(……卜占なんて、なければ良かったのに)
大きく息を吸い、吐き出すと、レーファはじっとラージュナを見つめた。
「あなたに、渡したいものがあるんだ。……その、今までのお礼……になるかはわからないけれど」
小さな袋の中から、さらに小さな袋を取り出して差し出した。
「これは……」
「香袋。と、中に……髪をまとめる時にでも使ってくれればいいなって……」
香袋は紐付きで、巾着型だ。両側を引けば口が締まる。そこを開き、ラージュナは中に入っていた細くて長い紐を取り出した。
組紐だ。
黒地に濃い紫、銀の糸で柄が入っている。
他に小さな袋に入っているのは、カモミールの香りを凝縮した香玉。
「組紐……髪紐用か」
「ちゃんと作ったの初めてだから、不格好かもしれないけど。……袋のほうは、竜人は香袋使うこともあるって聞いたから」
聞いたのはいつだっただろう。竜官から聞いたのだ。
中に香木や花の香りを染みこませた布などを入れることがある。香水などのように直接振りかけない分、香りは控えめらしいが、香りが強いより好ましい、そんな風に言っていた。
カモミールはレーファが好きな香りだ。本当ならラージュナの好きな香りを入れたほうがいいのだろう。十数年も付き合いがあるのに彼の好きな香りが何だったかわからなかった――というのもあるが、自分の好きな香りを纏っていてほしいと思ったから、カモミールにした。
香袋をしげしげと見つめられるのも、少し恥ずかしい。
「袋の刺繍もおまえが?」
鳥と木を簡略化した図案を刺繍した。
少しばかり歪んでしまったが、初めてだからだと言い訳したい。
「……不格好だろう」
「どんな一流の職人が作った袋よりずっと価値がある。では、組紐もか」
「そう。昔、母様から作り方を習ったから。ちゃんとできるかわからなかったし、ちょっと曲がったりしてるけど……」
「使えば気にならない。ありがとう」
「あとね、もうひとつ」
「?」
膝でいざって近付く。心臓がばくばくとうるさいが、もっと近く――抱きつけるほど近くまで寄ると、思い切って体を伸ばす。
くちびるの端、頬の下のほうへと口付けた。
「……っ?!」
ラージュナが混乱とも困惑とも驚きとも、あるいはその全部が混ざったような顔をする。そんな顔は初めて見た。
「明日は! ちゃんと見送るね!」
レーファは勢いよく立ち上がると、脱兎のごとくラージュナの部屋から自室へと逃げるように帰った。
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