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64 成人の儀の後(5)

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 レーファが成人の儀を終えてすぐ、ラージュナが出立する。一ヶ月前から聞いていた決定事項だ。

 昨日の混乱がまだ抜けきっていないながら、レーファは自分でできるお礼を考え、こつこつと進めてきた。礼にするものたちの作り方は母から習っていたが、幼い頃は巧くできないでいた。

(やる気になればできるものだね)

 帰る準備で忙しいだろうラージュナに時間をもらうなら、夜がいいだろう。早寝をされてしまうかもしれないが、手紙を渡しておけばきっと起きてくれているはずだ。

 日中は日課をこなし、昼はラージュナと食べ、夕方から夜にかけて落ち着かずにまた日課をこなす。そうして寝るには早い時間を見計らってラージュナの許を訪れた。

「忙しい時に、ごめんね」
「支度は済んでいる。構わない」

 部屋へ入れてもらうと、レーファは定位置に座った。ラージュナが茶を淹れてくれるのを待つ。昼にはレーファが淹れたから、そのお返しだと知っている。

「この国でこうしておまえに茶を淹れるのも、これが最後かと思うと淋しくなる」
「オレも……もう飲めないのかって思うと淋しい。オレが淹れてもよかったのに」

 正直な心情の吐露。言ってしまうと余計に淋しさが増す気がした。

「おまえの茶は好きだった。また……いずれ淹れてもらいたい」
「……いつ淹れる機会があるんだよ」

 軽口を叩く。
 だが、笑いは歪まなかっただろうか。
 できることならいつまでもラージュナに茶を淹れたいなんて、思っているだけでもおこがましいかもしれないのに。けれどこの竜人はあっさりレーファの心を乱すようなことを言う。

「王には以前、伝えてある」
「え? 何を?」
「第三王子には結婚相手を見繕う必要がないと」
「えっ?!」

 どうしてこの竜人は爆弾発言が好きなのだろう。いや、彼自身は爆弾発言だとは思っていないのだろうが。
 注がれた茶の熱さや芳香すら感じないほど驚かされた。

「……機会があれば、淹れてくれ」

 微笑む彼は、嘘や世辞を言っているようには見えない。

「え、う……うん……」

 うまく考えを巡らせることができなかった。

(なに……なに? どういうこと? あれは冗談じゃなかった?)

 昨日の口付けのことを思い出す。揶揄ったにしては何も言わないとは思っていたが、冗談で済ませる気はなかったということだろうか。

(でもオレは……)

 この先、白竜王のツガイになる。
 覆せない未来だ。
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