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62 成人の儀の後(3)
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「っ!」
突然視界に逆さまに現れたラージュナの顔に心底から驚き、慌てた結果――浅瀬だというのに溺れそうになった。
じたばたとみっともなくもがき、ラージュナに腕を掴まれて川から引き上げられ、片腕で抱き上げられてしまった。
拒否したくても、噎せていてはうまく話せない。
「……大丈夫か?」
「ごほっ、……っ、は……、……なんで、ここに?」
まったく大丈夫ではないが、詰まりながら問う。誰にも行き先は言わなかったはずだが、どうしてここがわかったのだろう。たまたま散歩でもしていたのだろうか。
(せめてもっと早く声をかけてくれればよかったのに)
そうであればみっともないところを見せずに済んだ。助けてもらったが少しは恨む気持ちもある。
ラージュナはレーファを抱えたまま見上げてきた。
「おまえの従者から、おまえの行きそうなところを聞いた。探してくれようとしたようだが、待つ時間も無駄だろう。直接来た」
「…………」
これは絶対にヴェルティスは悪くない。悪くないのだが、恨んでしまうのも仕方がない。
タイミングの問題だったと思い込むことにした。
「見事に当たったというわけ……」
はあ、と溜息を吐く。ようやく呼吸が落ち着いた。
「そういうことになる。……何をしていた?」
「見てそのままだよ。川に浸かっていたんだ。……涼を取りたくて」
「何か呟いていたようだったが、悩み事か?」
一体いつから見ていたのだろう。冷や汗が出そうなところ、表情を繕いつつ小首を傾げる。
「悩み事というか……祈りや願い、のほうが近い気がする」
「そうか……」
ラージュナは一度目を伏せたが、もう一度目線をあげるとレーファを見つめる。
「俺にできることはあるか?」
「……もしも、の話だけど」
わずかの間に考え込んでから、思い切って口を開く。言えば、そうしてもらえるのではないかと少しくらいは思った。
小さくても、希望は持っていたいから。
「もし、オレが皇国へ行くようなことがあれば。……また、会ってくれるかな」
「ああ。必ずそうしよう」
即答に、胸のつかえが下りたように気持ちが軽くなる。
「……よかった」
これで、少なくとも今生の楽しみを見出せることになる。あとは黒竜王と友人になれるように頑張るだけだ。
心が落ち着くと、今の自分の状態がじわじわと恥ずかしくなってきた。
成人した男が、竜人に子どものように抱き上げられている。誰かに見られたらどう言い訳をすればいいのだろう。
突然視界に逆さまに現れたラージュナの顔に心底から驚き、慌てた結果――浅瀬だというのに溺れそうになった。
じたばたとみっともなくもがき、ラージュナに腕を掴まれて川から引き上げられ、片腕で抱き上げられてしまった。
拒否したくても、噎せていてはうまく話せない。
「……大丈夫か?」
「ごほっ、……っ、は……、……なんで、ここに?」
まったく大丈夫ではないが、詰まりながら問う。誰にも行き先は言わなかったはずだが、どうしてここがわかったのだろう。たまたま散歩でもしていたのだろうか。
(せめてもっと早く声をかけてくれればよかったのに)
そうであればみっともないところを見せずに済んだ。助けてもらったが少しは恨む気持ちもある。
ラージュナはレーファを抱えたまま見上げてきた。
「おまえの従者から、おまえの行きそうなところを聞いた。探してくれようとしたようだが、待つ時間も無駄だろう。直接来た」
「…………」
これは絶対にヴェルティスは悪くない。悪くないのだが、恨んでしまうのも仕方がない。
タイミングの問題だったと思い込むことにした。
「見事に当たったというわけ……」
はあ、と溜息を吐く。ようやく呼吸が落ち着いた。
「そういうことになる。……何をしていた?」
「見てそのままだよ。川に浸かっていたんだ。……涼を取りたくて」
「何か呟いていたようだったが、悩み事か?」
一体いつから見ていたのだろう。冷や汗が出そうなところ、表情を繕いつつ小首を傾げる。
「悩み事というか……祈りや願い、のほうが近い気がする」
「そうか……」
ラージュナは一度目を伏せたが、もう一度目線をあげるとレーファを見つめる。
「俺にできることはあるか?」
「……もしも、の話だけど」
わずかの間に考え込んでから、思い切って口を開く。言えば、そうしてもらえるのではないかと少しくらいは思った。
小さくても、希望は持っていたいから。
「もし、オレが皇国へ行くようなことがあれば。……また、会ってくれるかな」
「ああ。必ずそうしよう」
即答に、胸のつかえが下りたように気持ちが軽くなる。
「……よかった」
これで、少なくとも今生の楽しみを見出せることになる。あとは黒竜王と友人になれるように頑張るだけだ。
心が落ち着くと、今の自分の状態がじわじわと恥ずかしくなってきた。
成人した男が、竜人に子どものように抱き上げられている。誰かに見られたらどう言い訳をすればいいのだろう。
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