上 下
60 / 160

60 成人の儀の後(1)

しおりを挟む
 成人の儀は、厳かに行われた。

 基本的には神官が進行の主導権を握り、竜官は立ち会いだ。この時はラージュナも竜官とともに立ち会っていた。王太子の成人の儀や立太の儀には不参加だったと聞いている。

 竜人が参加しているというだけで、国内外を問わずレーファが特別扱いされていることがわかってしまうかもしれない。けれど後からツガイの報が届けば納得はしてくれることを期待したい。

 衣装は専用のものを着用する必要があるが、レーファのものは新調された。もちろんラージュナが手配したのだ。

 他の誰かがそうさせたのであれば王妃あたりが激しく反発したに違いないが、国一番の身分である竜人の施しとあっては反発や断るほうが非礼だと理解するくらいの頭は持ち合わせていたらしい。

 出席は近しい王族――王、王妃、他の王子だが、王妃がピリピリしているのは傍目にも明らか。誰も何も言わないのは、言えないというのもあるが、余計なとばっちりを受けるのを避けたからだ。言えるとしたら同席している竜官三人とラージュナだろうが、この四人は王妃の存在を黙殺していた。

 胸許や袖に金刺繍が入った裾の長い黒ジャケット、中の白シャツは皺ひとつないシルク。襟のあたりやボタンホールあたりには緻密な刺繍がなされ、サッシュは紗織りで縁や裾に植物や花の刺繍が入っている。

 ズボンも黒で、くるぶしのあたりで窄まった裾には、ジャケットと揃いの刺繍が入っている。モジャリと呼ばれる布製のフラットシューズにはビーズ刺繍や刺繍が鮮やかに刺され、ジャケットやズボンの黒と対比されているようだった。

 参列していた者たちは、王妃の目があるので表立っては言わないものの、第三王子の姿は物語に出てくる王子や勇者のように神々の寵愛を得た美しさや強さがある、などと囁き合ったという。

 儀式の作法はやはり皇国に倣ったものだが、各国でアレンジされている部分もある。危うげなく儀式を済ませたレーファは、正装のまま部屋に戻るとサンディラとヴェルティスに男泣きに泣かれたのだった。
 大袈裟だと笑ったが、彼らにしてみれば男親の気持ちだったのかもしれない。

(いよいよ、近付いてきた)

 レーファには覚悟を決める日でもあった。この日から数ヶ月後に、皇国から報せがやってくることを知っているからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落第騎士の拾い物

深山恐竜
BL
「オメガでございます」  ひと月前、セレガは医者から第三の性別を告知された。将来は勇猛な騎士になることを夢見ていたセレガは、この診断に絶望した。  セレガは絶望の末に”ドラゴンの巣”へ向かう。そこで彼は騎士見習いとして最期の戦いをするつもりであった。しかし、巣にはドラゴンに育てられたという男がいた。男は純粋で、無垢で、彼と交流するうちに、セレガは未来への希望を取り戻す。  ところがある日、発情したセレガは男と関係を持ってしまって……? オメガバースの設定をお借りしています。 ムーンライトノベルズにも掲載中

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

一夜限りで終わらない

ジャム
BL
ある会社員が会社の飲み会で酔っ払った帰りに行きずりでホテルに行ってしまった相手は温厚で優しい白熊獣人 でも、その正体は・・・

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

処理中です...