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58 義兄……(2)

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「何の騒ぎだ」

 ある意味、騒ぎを大きくするような人物が現れた。

「ラージュナ様。申し訳ありません、お部屋まで届くような音を立ててしまいましたか」
「いや、たまたま庭に出ていただけだ。物音が聞こえ、ここの扉が開いていたからこちらから入らせてもらったが……」
「ラージュナ様がしたことを咎める者はおりません」

 そうか、と返したラージュナは、どこかホッとした顔をしている。
 それから表情を改め、拘束はされていないものの落ち着かないでいる王太子へ冷たい視線を投げかける。

「王太子がこんな時間に何用だ?」

 第一王子である王太子が平服を着ているのに対し、レーファは夜着を着ている。レーファが寝ている、あるいは寝ようとしていたことはラージュナにもわかるだろう。

 本日二度目のラージュナの冷たい声、問いを食らい、王太子は顔を真っ青にしていた。

 けれどこれは彼の自業自得なので、同情する者は誰もいない。

「いえ、あの……その……た、たまには義弟と語り明かそうかと……」
「真夜中に真っ暗な寝所に忍び込んだくせに?」

 思わずといったようにヴェルティスが声を上げると、王太子は身を縮こまらせる。
 それでだいたい王太子の意図は察せられたのだろう。ラージュナの空気は冬空の下よりずっと冷たい。

「……昼に俺が言ったことを忘れたか?」
「いっ、いえ、滅相もございません!」
「ならば良い。二度はないと思え」
「は、はい!」

 下がれ、と手で追い払うようにすると、サンディラがすぐに脇へどく。王太子は立ち上がると、すぐさまレーファの部屋を後にした。

「……一日に二回も、ごめんね」
「おまえが謝ることではない」

 ラージュナが首を横に振る。それからレーファの頭を撫でた。

「怪我は?」
「ないよ。布団はめくられたけど……義兄上が触れるより先にサンディラが抑えてくれたし、ヴェルティスもいてくれたから」
「では、ふたりには後で酒を贈ろう。何もなくてよかった」
「あ……あの、サンディラもヴェルティスもいるから……!」

 抱きしめられるのは落ち着かない。鼓動が忙しなくなってしまうから。
 けれどいつもラージュナはそれを気にしない。
 振り返ると、いつの間にかふたりはいなくなっていた。

(サンディラ……ヴェルティス……!!)

 後で問い詰めれば気を利かせたとでも言うに違いない。

「……部屋に来るか?」
「えっ?」

 どきりと鼓動が跳ねる。
 けれどラージュナの声は落ち着いていた。

「ひとりで休むには、もう落ち着かないだろう。場所を変えて気分を切り替えるといい」

(あ……なんだ……)

 何かに誘われたのかと思った。いや誘われてはいるのだが。
 ラージュナのこの誘いに含むところはきっとないのだろう。

「じゃあ……お邪魔するよ」

 言われたとおり、今晩このままこの部屋で休むのはできそうにない。小さい頃にも何度か世話になっているし、躊躇うこともないかと考えて頷いた。
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