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57 義兄……(1)

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 その日の夜のこと。


 昼のこともあり、レーファは暗い部屋、寝台の上で寝付けない時間を過ごしていた。
 細い月が出ていたが、灯りのほとんどは星だけだ。

(……?)

 気のせいだろうか。
 レーファは違和感を――何者かの気配を察知した。

(……まさか王妃が……?)

 王太子が恥をかかされたと思って、刺客でも送り込んできたのか。さすがに今までこんな直接的であからさまな行動を仕掛けてきたことはないが、考えられなくはない。
 起きていることを悟られないように気配を探る。

(たぶん……サンディラは気付いてるはず……)

 レーファに何かあった日の後は遅くまで張り番をしてくれるのが常だ。だから今はもう部屋の中にいてくれているのかもしれないが、こういう時のサンディラの気配をレーファが感じたことは一度もない。気配を消すのが巧いからだ。

 その点、この侵入者はレーファに対してバレているのだから、仮に刺客だったとしても三流だと言えるだろう。

 いつも何かの時のために備えているナイフ。いつかサンディラから贈られた護身用のものだが、使う時が来たのだろうか。

 緊張感が高まる。

(…………でも、殺気じゃない……?)

 そういう気配を感じるのが下手なだけかもしれない、と気を取り直すと、上掛けがめくられた。

(…………??)

 ナイフか剣で刺すなら、間違いなく上掛けの上からだろう。返り血を浴びずに済むからだ。では今、上掛けをめくられたのはどういう意味があるのか――。

「ぐあっ!?」
「大人しくしろ!」

 サンディラが闖入者を取り押さえる。
 若干タイミングが遅かったのは、サンディラも相手の目的を図りかねたのかもしれない。
 すぐに部屋にあかりが灯される。ヴェルティスも控えてくれていたらしく、すぐに傍へと来てくれた。

「レーファ、大丈夫かっ?」
「オレは大丈夫だけど……」

 取り押さえられた人物は、と姿を見れば、誰の目にも意外な人物だった。

「あ……義兄上……?」
「王太子殿下ぁ……?」

 ヴェルティスと素っ頓狂な声を上げてしまった。
 顔を覗き込んだサンディラが「……ほんとだ……」と呟く。さすがに捕縛の手は緩められた。

「義兄上、いらしてくださるなら先触れをお出しいただけましたら、きちんとお迎えいたしましたのに」
「ああ、いや……うん……まあ、そう……だな……」

 歯切れの悪い、煮え切らない返事。
 どこか、叱られる前の子どものような態度を感じさせる。
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