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54 義兄(5)
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「なんで義兄上がいきなりバカなこと言いだしたんだと思う?」
レーファの問いにサンディラが手を挙げて発言した。
「バカだからだと思う」
「法の編み目を抜けたと思ったんでしょうね。……勉強不足とかではなく、本当にバカなんだと思うけど」
直球過ぎるサンディラの回答に間髪入れず、ヴェルティスが隣で苦笑した。フォローではない。むしろ王太子を突き落としている。
今はラージュナの部屋から戻り、三人でのんびりお茶をしているところだ。
レーファはラージュナのところでお茶も菓子も頂いているから控えめだが、持たされた土産をふたりが食べている。茶はミルクで煮出してスパイスを何種類か混ぜたチャイを、背の高い取っ手のついた陶器のグラスで飲む。
デザートは旬の果実のタルトと、レト王国では珍しいチョコレートだった。暑さでも溶けにくいらしい。どこからどう手を回して取り寄せたのかはわからないが、ラージュナは珍しい菓子をどこからともなく手に入れては、こっそりと三人に食べさせてくれた。
そのお陰もあるのか、サンディラとヴェルティスからの好感度もかなり高い。
「法の編み目を、なんで潜ろうと思ったかなぁ……」
はぁ、と深い深い溜息を吐いたレーファに、ふたりは顔を見合わせてから真顔になった。
「率直に言っていいか?」
「なに、サンディラ」
座卓にべったりと胸を付けたまま、顔だけ上げてサンディラを見る。
「ひとつの原因は、おまえの見た目だ」
「見た目?」
首を傾げると、サンディラだけでなくヴェルティスまで頷いた。
「小さい頃から愛らしくて可愛らしくて、神の愛し子とはこういうことかって感じだったけど、今はそっちの可愛さが少し下がって美人度が増したってこと」
ヴェルティスの注釈に、レーファは首を傾げる。
「オレは特に変わったと思わないけど……」
「十歳を超えたあたりから、どんどん綺麗になっていってるぞ。ローツィ様に瓜二つになるんだろうなと思えるくらいだ」
この面子の中でレーファの母のことをよく知っているのは、護衛だったサンディラだけだ。ヴェルティスも覚えているだろうが、彼はどちらかといえばレーファの面倒を見てくれていた。
その母に似てきたとサンディラが言うのであれば、きっと似ているのだろう。
記憶の中の母はずいぶん姿がぼんやりとしてきたが、美しい人だったと思う。いつも笑顔で、抱き上げてくれる腕は強く、優しかった。そうして、いつも花の香りがしていた。
レーファは今までにあの花と同じ花の匂いを嗅いだことがない。なんという花だったのか、聞いておけばよかったと悔やんでいる。
レーファの問いにサンディラが手を挙げて発言した。
「バカだからだと思う」
「法の編み目を抜けたと思ったんでしょうね。……勉強不足とかではなく、本当にバカなんだと思うけど」
直球過ぎるサンディラの回答に間髪入れず、ヴェルティスが隣で苦笑した。フォローではない。むしろ王太子を突き落としている。
今はラージュナの部屋から戻り、三人でのんびりお茶をしているところだ。
レーファはラージュナのところでお茶も菓子も頂いているから控えめだが、持たされた土産をふたりが食べている。茶はミルクで煮出してスパイスを何種類か混ぜたチャイを、背の高い取っ手のついた陶器のグラスで飲む。
デザートは旬の果実のタルトと、レト王国では珍しいチョコレートだった。暑さでも溶けにくいらしい。どこからどう手を回して取り寄せたのかはわからないが、ラージュナは珍しい菓子をどこからともなく手に入れては、こっそりと三人に食べさせてくれた。
そのお陰もあるのか、サンディラとヴェルティスからの好感度もかなり高い。
「法の編み目を、なんで潜ろうと思ったかなぁ……」
はぁ、と深い深い溜息を吐いたレーファに、ふたりは顔を見合わせてから真顔になった。
「率直に言っていいか?」
「なに、サンディラ」
座卓にべったりと胸を付けたまま、顔だけ上げてサンディラを見る。
「ひとつの原因は、おまえの見た目だ」
「見た目?」
首を傾げると、サンディラだけでなくヴェルティスまで頷いた。
「小さい頃から愛らしくて可愛らしくて、神の愛し子とはこういうことかって感じだったけど、今はそっちの可愛さが少し下がって美人度が増したってこと」
ヴェルティスの注釈に、レーファは首を傾げる。
「オレは特に変わったと思わないけど……」
「十歳を超えたあたりから、どんどん綺麗になっていってるぞ。ローツィ様に瓜二つになるんだろうなと思えるくらいだ」
この面子の中でレーファの母のことをよく知っているのは、護衛だったサンディラだけだ。ヴェルティスも覚えているだろうが、彼はどちらかといえばレーファの面倒を見てくれていた。
その母に似てきたとサンディラが言うのであれば、きっと似ているのだろう。
記憶の中の母はずいぶん姿がぼんやりとしてきたが、美しい人だったと思う。いつも笑顔で、抱き上げてくれる腕は強く、優しかった。そうして、いつも花の香りがしていた。
レーファは今までにあの花と同じ花の匂いを嗅いだことがない。なんという花だったのか、聞いておけばよかったと悔やんでいる。
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