上 下
54 / 160

54 義兄(5)

しおりを挟む
「なんで義兄上がいきなりバカなこと言いだしたんだと思う?」

 レーファの問いにサンディラが手を挙げて発言した。

「バカだからだと思う」
「法の編み目を抜けたと思ったんでしょうね。……勉強不足とかではなく、本当にバカなんだと思うけど」

 直球過ぎるサンディラの回答に間髪入れず、ヴェルティスが隣で苦笑した。フォローではない。むしろ王太子を突き落としている。

 今はラージュナの部屋から戻り、三人でのんびりお茶をしているところだ。

 レーファはラージュナのところでお茶も菓子も頂いているから控えめだが、持たされた土産をふたりが食べている。茶はミルクで煮出してスパイスを何種類か混ぜたチャイを、背の高い取っ手のついた陶器のグラスで飲む。
 デザートは旬の果実のタルトと、レト王国では珍しいチョコレートだった。暑さでも溶けにくいらしい。どこからどう手を回して取り寄せたのかはわからないが、ラージュナは珍しい菓子をどこからともなく手に入れては、こっそりと三人に食べさせてくれた。
 そのお陰もあるのか、サンディラとヴェルティスからの好感度もかなり高い。

「法の編み目を、なんで潜ろうと思ったかなぁ……」

 はぁ、と深い深い溜息を吐いたレーファに、ふたりは顔を見合わせてから真顔になった。

「率直に言っていいか?」
「なに、サンディラ」

 座卓にべったりと胸を付けたまま、顔だけ上げてサンディラを見る。

「ひとつの原因は、おまえの見た目だ」
「見た目?」

 首を傾げると、サンディラだけでなくヴェルティスまで頷いた。

「小さい頃から愛らしくて可愛らしくて、神の愛し子とはこういうことかって感じだったけど、今はそっちの可愛さが少し下がって美人度が増したってこと」

 ヴェルティスの注釈に、レーファは首を傾げる。

「オレは特に変わったと思わないけど……」
「十歳を超えたあたりから、どんどん綺麗になっていってるぞ。ローツィ様に瓜二つになるんだろうなと思えるくらいだ」

 この面子の中でレーファの母のことをよく知っているのは、護衛だったサンディラだけだ。ヴェルティスも覚えているだろうが、彼はどちらかといえばレーファの面倒を見てくれていた。

 その母に似てきたとサンディラが言うのであれば、きっと似ているのだろう。

 記憶の中の母はずいぶん姿がぼんやりとしてきたが、美しい人だったと思う。いつも笑顔で、抱き上げてくれる腕は強く、優しかった。そうして、いつも花の香りがしていた。
 レーファは今までにあの花と同じ花の匂いを嗅いだことがない。なんという花だったのか、聞いておけばよかったと悔やんでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...