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53 義兄(4)
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「……あの、さっきはありがとう」
「先ほど?」
「……義兄との、話の。助け船を出してくれただろ?」
まさか王太子、義兄から愛妾の話が出るとは思わなかった。どう断っても角が立つし、そもそも断って諦めるかわからない男だし、後々でめんどくさいことになりかねない。いや、なる。イヤだったがそんな確信はあった。
(ああいうタイプは街でも見かけたけど、ほんと諦めが悪くて厄介なんだよね……)
だから圧倒的な力、反論できない身分の力で黙らせてくれたのは、本当に助かった。
(ほんとかと思っちゃったけど……)
そうだったらどんなに良かっただろう。
思っても、嘆いても、願っても、卜占は変えられない。仕方のないことなのだけれど。
「竜人に娶ってもらえるなら、ヒトとしてこの上ない栄誉だけど……さすがに冗談だとわかるよ」
そんな話が世間でまったくないわけではない。たいていの場合は愛妾としてだが、稀に正妻に収まったという話もある。だが大抵の場合は夢物語だし、同性同士となるとさらにまた夢だ。
(竜人は美しいものを見慣れているから、外見だけじゃ絶対にダメなんだよね……)
勉強も礼儀作法も人並み以上にはできるが、目立った取り柄は容姿だけというのも、なかなか残念なのではないだろうか。
けれどラージュナは静かに微笑む。
「あながち、冗談でもない」
「えっ?」
「おまえは今までに出会った竜人やヒトの中でも特に好ましい。……別れねばならぬというのを惜しいと思うくらいに。なら、連れ帰ればいいと思わないか?」
ラージュナの表情がほとんど動かないのはいつものことだが、やけに真剣な表情で、眼差しで、真っ直ぐにレーファを見つめてくる。おかげでレーファは狼狽えることになった。
「からかうのは……」
「王太子にああ言った限りには、おまえはせめて国を出なければならないだろう。あるいは結婚の申し込みが来るのが先か。その申し込み相手が俺でない可能性は、なくもない」
「……あんまり揶揄わないでほしいな。ただでさえヒトとしては栄誉すぎるし、オレが素直な性格で口が軽かったら皆に言いふらしちゃうだろ?」
わざと明るく言い、肩を竦める。
(……そうなったら、いいのに)
叶わない願いだから、想いは強くなるのだろうか。
ラージュナは少し思案げな表情をしたが、少しして手を伸ばし、レーファの頭を撫でてくれた。
「揶揄しているわけではない。だが……困らせるのも本意ではない。すまなかった」
「謝らなくていいけど……」
期待を持たせるようなことは言わないでほしい、と言えば、きっとまた謝らせてしまうだろう。そうなると揶揄されただけであることが確定しそうで、拗ねるだけになってしまう。
ラージュナが菓子の盆を勧めてくる。子どもではないが、成人の儀が終わるまでは子ども扱いされても仕方がないか、と思い直して果実のタルトを一口頬張った。
「先ほど?」
「……義兄との、話の。助け船を出してくれただろ?」
まさか王太子、義兄から愛妾の話が出るとは思わなかった。どう断っても角が立つし、そもそも断って諦めるかわからない男だし、後々でめんどくさいことになりかねない。いや、なる。イヤだったがそんな確信はあった。
(ああいうタイプは街でも見かけたけど、ほんと諦めが悪くて厄介なんだよね……)
だから圧倒的な力、反論できない身分の力で黙らせてくれたのは、本当に助かった。
(ほんとかと思っちゃったけど……)
そうだったらどんなに良かっただろう。
思っても、嘆いても、願っても、卜占は変えられない。仕方のないことなのだけれど。
「竜人に娶ってもらえるなら、ヒトとしてこの上ない栄誉だけど……さすがに冗談だとわかるよ」
そんな話が世間でまったくないわけではない。たいていの場合は愛妾としてだが、稀に正妻に収まったという話もある。だが大抵の場合は夢物語だし、同性同士となるとさらにまた夢だ。
(竜人は美しいものを見慣れているから、外見だけじゃ絶対にダメなんだよね……)
勉強も礼儀作法も人並み以上にはできるが、目立った取り柄は容姿だけというのも、なかなか残念なのではないだろうか。
けれどラージュナは静かに微笑む。
「あながち、冗談でもない」
「えっ?」
「おまえは今までに出会った竜人やヒトの中でも特に好ましい。……別れねばならぬというのを惜しいと思うくらいに。なら、連れ帰ればいいと思わないか?」
ラージュナの表情がほとんど動かないのはいつものことだが、やけに真剣な表情で、眼差しで、真っ直ぐにレーファを見つめてくる。おかげでレーファは狼狽えることになった。
「からかうのは……」
「王太子にああ言った限りには、おまえはせめて国を出なければならないだろう。あるいは結婚の申し込みが来るのが先か。その申し込み相手が俺でない可能性は、なくもない」
「……あんまり揶揄わないでほしいな。ただでさえヒトとしては栄誉すぎるし、オレが素直な性格で口が軽かったら皆に言いふらしちゃうだろ?」
わざと明るく言い、肩を竦める。
(……そうなったら、いいのに)
叶わない願いだから、想いは強くなるのだろうか。
ラージュナは少し思案げな表情をしたが、少しして手を伸ばし、レーファの頭を撫でてくれた。
「揶揄しているわけではない。だが……困らせるのも本意ではない。すまなかった」
「謝らなくていいけど……」
期待を持たせるようなことは言わないでほしい、と言えば、きっとまた謝らせてしまうだろう。そうなると揶揄されただけであることが確定しそうで、拗ねるだけになってしまう。
ラージュナが菓子の盆を勧めてくる。子どもではないが、成人の儀が終わるまでは子ども扱いされても仕方がないか、と思い直して果実のタルトを一口頬張った。
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