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51 義兄(2)
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「ならば、おれの愛妾になれば良い」
「……は?」
気でもおかしくしたのだろうか。
(いきなり何を言い出すかと思えば……)
呆気にとられ、返す言葉を見失った。それをどう思ったのかは知らないが、王太子は話を続ける。
「おれの結婚も、いずれ王妃となる女は貴族の娘か他国の王女だろう。そこは仕方がない。だが愛妾ならば誰を迎えても構わない。そうだろう?」
超理論だ。『誰でも』は常識的に考えて兄弟姉妹ではありえない。
(……頭が痛くなってきた)
義兄の人となりは興味がなかったからよく知らなかったが、こんなに無茶苦茶を言い出す男だったのか。この男が王になった時、この国の将来が心配になる。
「あの……血の繋がった兄弟姉妹や親子の婚姻は、認められておりませんが」
異母であろうとも、父は同じなのだから婚姻できるはずがない。この国で婚姻が可能なのは、三親等以上――伯父・叔父・伯母・叔母、姪・甥からだ。それをまさか第一王子が習わないはずがない、が。
王太子の超理論が炸裂したのは一度だけではなかった。
「婚姻できないとは、妃に迎えられないということだろう? 側妃でもなく愛妾ならば婚姻関係ではないから、問題がないではないか」
「…………」
内心で頭を抱えた。これは初めてのパターンだ。さらに、この男は説得をするのがメチャクチャ大変な男だ。レーファは直感する。
まともに会話をして、まともな会話になるとは思えない。
(どうしたらいいの、これ)
愛妾でもアウトですと言っても絶対納得しない。言わなくてもわかる。
というより、レーファが応じて言質を取るまで言い合いになりかねない。
心底困り果てた時。
(……こんな時、いっそ王妃が来てくれればいいのに)
レーファとはこんなところで一度も顔を合わせたことがないから無理だろうけれど。
「王太子。ここにいるとは珍しい」
声のほうを条件反射で振り向く。ちょうどレーファの後ろからだった。
あっと声を出しそうになったのを飲み込む。
声を掛けてくれたのは、女性の竜官だった。そして――。
「ラージュナ様! 竜官閣下! ご機嫌麗しく存じます」
跪き拱手した義兄同様、流れるように挨拶をする。
「ご機嫌麗しく存じます、ラージュナ様、竜官閣下」
領土持ちの諸侯と竜官とでは皇帝から見れば序列は同じだ。けれどラージュナに関して言えば、どうも竜官がラージュナのサポートのような立ち回りをしていることが多い。
スケジュールの調整についてが一番わかりやすいが、それはラージュナがこの国に精通していないからだと、ありそうな理由は付けられる。
巧く言葉で言い表せないが、ラージュナが竜官に何かを命令をすることがあっても、竜官からラージュナに何かを命じるところは見たことがない。互いに何かを命じ合うような身分でもないはずなのに。
「御用がおありでしょうか」
「ああ。……音を聞きたい」
レーファを見ている。レーファの演奏が聴きたいということだ。
「何にしましょう。二胡でしょうか」
「では、それで。……それから王太子」
「は!」
呼ばれ、改めて姿勢を正す。
「……は?」
気でもおかしくしたのだろうか。
(いきなり何を言い出すかと思えば……)
呆気にとられ、返す言葉を見失った。それをどう思ったのかは知らないが、王太子は話を続ける。
「おれの結婚も、いずれ王妃となる女は貴族の娘か他国の王女だろう。そこは仕方がない。だが愛妾ならば誰を迎えても構わない。そうだろう?」
超理論だ。『誰でも』は常識的に考えて兄弟姉妹ではありえない。
(……頭が痛くなってきた)
義兄の人となりは興味がなかったからよく知らなかったが、こんなに無茶苦茶を言い出す男だったのか。この男が王になった時、この国の将来が心配になる。
「あの……血の繋がった兄弟姉妹や親子の婚姻は、認められておりませんが」
異母であろうとも、父は同じなのだから婚姻できるはずがない。この国で婚姻が可能なのは、三親等以上――伯父・叔父・伯母・叔母、姪・甥からだ。それをまさか第一王子が習わないはずがない、が。
王太子の超理論が炸裂したのは一度だけではなかった。
「婚姻できないとは、妃に迎えられないということだろう? 側妃でもなく愛妾ならば婚姻関係ではないから、問題がないではないか」
「…………」
内心で頭を抱えた。これは初めてのパターンだ。さらに、この男は説得をするのがメチャクチャ大変な男だ。レーファは直感する。
まともに会話をして、まともな会話になるとは思えない。
(どうしたらいいの、これ)
愛妾でもアウトですと言っても絶対納得しない。言わなくてもわかる。
というより、レーファが応じて言質を取るまで言い合いになりかねない。
心底困り果てた時。
(……こんな時、いっそ王妃が来てくれればいいのに)
レーファとはこんなところで一度も顔を合わせたことがないから無理だろうけれど。
「王太子。ここにいるとは珍しい」
声のほうを条件反射で振り向く。ちょうどレーファの後ろからだった。
あっと声を出しそうになったのを飲み込む。
声を掛けてくれたのは、女性の竜官だった。そして――。
「ラージュナ様! 竜官閣下! ご機嫌麗しく存じます」
跪き拱手した義兄同様、流れるように挨拶をする。
「ご機嫌麗しく存じます、ラージュナ様、竜官閣下」
領土持ちの諸侯と竜官とでは皇帝から見れば序列は同じだ。けれどラージュナに関して言えば、どうも竜官がラージュナのサポートのような立ち回りをしていることが多い。
スケジュールの調整についてが一番わかりやすいが、それはラージュナがこの国に精通していないからだと、ありそうな理由は付けられる。
巧く言葉で言い表せないが、ラージュナが竜官に何かを命令をすることがあっても、竜官からラージュナに何かを命じるところは見たことがない。互いに何かを命じ合うような身分でもないはずなのに。
「御用がおありでしょうか」
「ああ。……音を聞きたい」
レーファを見ている。レーファの演奏が聴きたいということだ。
「何にしましょう。二胡でしょうか」
「では、それで。……それから王太子」
「は!」
呼ばれ、改めて姿勢を正す。
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