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50 義兄(1)

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 レーファの剣術の稽古は幼い頃から続いていて、この日は奥庭で行っていた。いるのはせいぜい王宮の護衛騎士たちだけで、他人の目を気にする必要がない。見られたところで害はないが、王妃のところに話が行くのは面倒だとは思う。

 剣術の師はサンディラだ。

 だから騎士たちのように型にはまった剣ではなく、型破りでも臨機応変に対応できるための剣、実践的な剣術を教わっていた。
 彼は昔、商隊を警護する傭兵をしていて、そこで何度も盗賊を撃退した腕と実力がある。大商人の商隊を大盗賊の一団から守った腕を買われて、王宮へ高貴な方への護衛として推挙されたのだという。

 レーファが産まれた頃に亡くなった王弟の護衛から、母の護衛、レーファの護衛と主を転々としているが、本来なら王太子や王を守る近衛隊に配属されてもおかしくない腕前。だが彼は今のままのほうが気楽なのだと笑う。

「堅っ苦しいのは勘弁してほしいなァ。……おっと」

 サンディラが咳払いをして威儀をを正したのは、回廊から下りてこちらへ向かってくる義兄、立太子した第一王子に気付いたからだった。レーファは剣を納めると拱手する。

「義兄上。御用でしたらお呼びくださればこちらから参りましたのに」
「いや、構わない……」

 ちらりとサンディラを見た視線を、サンディラ自身も感じ取ったのだろう。一礼して距離を取る。
 義兄の従者は少し離れた場所に控えていた。だからサンディラもすっかり立ち去ることはしなかったのだ。義兄は気分を害すこともない。

(……なんだ?)

 義兄は心なしかそわそわとしているようにも見えた。何があるのか、と思っていると話し始めた。

「おまえに言っておこうと思ったのだ」
「はい。なんでしょう?」

 王太子はレーファと目を合わそうとしない。正確に言えば、目が合いそうになると慌てて逸らす。稽古着だから見苦しかっただろうか。思いながら言葉を待った。

「……おまえは三番目の王子だから、政略結婚に使われる可能性が高い」
「はい。心得ております」

 意外な話題から入ってきた。
 実際にそうはならなくても、心構えのひとつとしては当然持っていたものだ。

(オレに心構えを説いている……にしてはちょっと様子がおかしいな。縁談でも持って来たのかな……)

「だが、政略結婚で生まれ育った国を離れて他国で暮らすのも、心許ないだろう」
「そうですね。ですが、仕方のないことです」

 覚悟を決めているとも、諦めているとも言える。レーファの場合は皇国へ行くことを、だが。誰にも言っていないけれど。
 そうして王太子は、意外な、というより奇想天外なことを言いだした。
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