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48 成長と淋しさと(1)
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それからさらに二年ほどの月日が流れた。
レーファはその時、ラージュナの部屋で茶を淹れていた。
二年前からいっそう母似の美貌に磨きがかかったレーファは、伸ばしている髪もあいまって、すれ違えば振り返って見惚れるくらいには成長していた。
自分の顔を見慣れているから、レーファは自分がそんな風に言われるほどの容姿だとは思っていない。けれど自分付ではない他所の侍女や侍従・官吏とすれ違うとものすごく視線が刺さったり、ひそひそと何か言われていることは理解している。
黒髪だった母と並べば、月と太陽のような姉弟にも見えたかもしれない、とはサンディラの言だ。
この頃にはラージュナの許しがあり、彼に対してサンディラたちに対するような砕けた口調で接していた。どうも彼はそのほうが嬉しいらしいと気付いたからだ。
天気の良いある午後。
「おまえの茶はいつ飲んでも美味い」
「ありがとう。……オレの魔術はそれしか取り柄がないから」
「卑下する必要はない。立派な取り柄だ。少なくとも、竜人なら誰もが褒めそやす」
茶をこよなく愛すると言われる竜人にそう言われるのは、ヒトとして名誉なことだ。そうでなくともラージュナに褒められるのは嬉しい。
レーファは軽く頭を下げる。
「褒めすぎだと思うけど……ありがとう」
この遣り取りも、もう何度行われただろう。週に一度、多くて三度四度とラージュナに茶を淹れてきた。そのたびに褒めてくれるのはくすぐったい。彼に対して以外はサンディラやヴェルティスに淹れる以外、まったく役に立たないから。
出会って十年以上も経ち、日々顔を見て会話をしていれば情も湧く。関係性は変わらなくとも、レーファの中で彼への気持ちは変わっていた。
レーファは自分の茶に口をつけ、ちらりとラージュナを見る。
「どうした」
「帰国するって聞いたよ」
「……ああ」
深い溜息を吐くと、ラージュナは茶杯を茶盤に置く。
「来月初めには帰る予定だ」
とすると、三週間後になるか。
過ごした月日は長かったはずなのに、いやそのせいか、途端に淋しく感じる。出会った頃は戸惑うことも困ったことも多かったけれど、慣れてしまえば楽しいことが多かった。
ラージュナの表情も全然動かないと思ったが、しばらくすれば微笑むくらいはしてくれるようになったし、厳しい顔をしていれば空気だけでなく、何に対して不快・怒っているのかを理解できた。
その厳しさがレーファに向けられたことは一度もないが。
「……淋しくなるよ」
自然と声が沈む。
レーファの気持ちが暗澹たるものになるのは仕方がない、サンディラとヴェルティス以外で初めて親しくなった人――味方と言い換えてもいい――だったから。
「そう言ってくれるのか」
「うん」
「王宮の者たちは、また違う感想を抱きそうだが」
「一緒にされちゃたまらないな……」
ラージュナの言葉に口先だけ怒っておくと、彼はくすりと笑ったようだった。
彼の笑顔は好きだ。ほとんど自分に向けられるものだから、特に。
「成人の儀はいてくれるんでしょ?」
「ああ」
「以前贈ってもらった服と、沓を使わせてもらうね」
「新しく用意するが……」
「オレの体はひとつしかないから大丈夫!」
ちゃんと拒否しておかないと大変なことになるとは、過去から学んだことだ。
レーファはその時、ラージュナの部屋で茶を淹れていた。
二年前からいっそう母似の美貌に磨きがかかったレーファは、伸ばしている髪もあいまって、すれ違えば振り返って見惚れるくらいには成長していた。
自分の顔を見慣れているから、レーファは自分がそんな風に言われるほどの容姿だとは思っていない。けれど自分付ではない他所の侍女や侍従・官吏とすれ違うとものすごく視線が刺さったり、ひそひそと何か言われていることは理解している。
黒髪だった母と並べば、月と太陽のような姉弟にも見えたかもしれない、とはサンディラの言だ。
この頃にはラージュナの許しがあり、彼に対してサンディラたちに対するような砕けた口調で接していた。どうも彼はそのほうが嬉しいらしいと気付いたからだ。
天気の良いある午後。
「おまえの茶はいつ飲んでも美味い」
「ありがとう。……オレの魔術はそれしか取り柄がないから」
「卑下する必要はない。立派な取り柄だ。少なくとも、竜人なら誰もが褒めそやす」
茶をこよなく愛すると言われる竜人にそう言われるのは、ヒトとして名誉なことだ。そうでなくともラージュナに褒められるのは嬉しい。
レーファは軽く頭を下げる。
「褒めすぎだと思うけど……ありがとう」
この遣り取りも、もう何度行われただろう。週に一度、多くて三度四度とラージュナに茶を淹れてきた。そのたびに褒めてくれるのはくすぐったい。彼に対して以外はサンディラやヴェルティスに淹れる以外、まったく役に立たないから。
出会って十年以上も経ち、日々顔を見て会話をしていれば情も湧く。関係性は変わらなくとも、レーファの中で彼への気持ちは変わっていた。
レーファは自分の茶に口をつけ、ちらりとラージュナを見る。
「どうした」
「帰国するって聞いたよ」
「……ああ」
深い溜息を吐くと、ラージュナは茶杯を茶盤に置く。
「来月初めには帰る予定だ」
とすると、三週間後になるか。
過ごした月日は長かったはずなのに、いやそのせいか、途端に淋しく感じる。出会った頃は戸惑うことも困ったことも多かったけれど、慣れてしまえば楽しいことが多かった。
ラージュナの表情も全然動かないと思ったが、しばらくすれば微笑むくらいはしてくれるようになったし、厳しい顔をしていれば空気だけでなく、何に対して不快・怒っているのかを理解できた。
その厳しさがレーファに向けられたことは一度もないが。
「……淋しくなるよ」
自然と声が沈む。
レーファの気持ちが暗澹たるものになるのは仕方がない、サンディラとヴェルティス以外で初めて親しくなった人――味方と言い換えてもいい――だったから。
「そう言ってくれるのか」
「うん」
「王宮の者たちは、また違う感想を抱きそうだが」
「一緒にされちゃたまらないな……」
ラージュナの言葉に口先だけ怒っておくと、彼はくすりと笑ったようだった。
彼の笑顔は好きだ。ほとんど自分に向けられるものだから、特に。
「成人の儀はいてくれるんでしょ?」
「ああ」
「以前贈ってもらった服と、沓を使わせてもらうね」
「新しく用意するが……」
「オレの体はひとつしかないから大丈夫!」
ちゃんと拒否しておかないと大変なことになるとは、過去から学んだことだ。
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