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43 狩り(2)

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 サンディラは顎のあたりを思案げに撫でた。

「まあ……今回に関しては、あの方もいらっしゃるから……その御前で何か仕掛けてくるっていうのは……普通ならな……」
「でもあの王妃なんですよ……」

 ヴェルティスの声は酔いのせいばかりではなく暗い。
 王妃がおおっぴらに何かを仕掛けてきたのは、毒を盛られたあの時くらいだ。

 他にも細かいことは色々とあった。たいていは嫌がらせと呼べる程度のものではあるのだが。

 レーファも出席しなければならない行事用の衣装がなくなっていたり、レーファたち専用の食料庫が何者かに漁られていたり、未然に防がれたが料理の中に傷んだものが混ぜられていたり、あの時のように死ぬほどではないが体調を崩すくらいの毒が盛られていたり。

 毒物に関しては、体を慣らしていたレーファにはあまり効かなかったが。

 これらのことはさすがにラージュナには黙っている。ラージュナが王妃を咎めることで、いっそう攻撃の矛先が向くことを懸念したからだ。
 ただ、何度か体調不良でお相手できなかった日があるから、深読みされていないことを祈りたい。

「さすがに戦じゃねえから、味方の矢で射られるなんてことはないだろうが……用心するにこしたこたァねえ」
「うん」

 護衛の騎士たちは何人か付けてもらえるが、基本的に頼りになるのはサンディラだ。レーファも鍛錬は積んできたが、実践は初めて。どこで何が狂うとも知れないから、サンディラの傍にいるのが正解だろう。

(周囲に気を配るのを忘れないようにしなきゃな……)

 もちろんそれはサンディラのほうが上手いが、レーファだって気を付けるに越したことはない。

 馬車の速度が落ちる。西の森の手前にある開けた草原に着いたのだ。陣幕が張られるはずの場所はすでに雑草が刈り取られている。
 ここで支度を調え、王や王太子の話を聞いてから出陣することになる。鎧や兜などは用意されていた。

 狩るのは熊や獅子や魔物など大物を第一目標とするが、ウサギや狐や狸なども捧げられた後に食べもする。狐や狸は特に毛皮の流通もあるから重宝されていた。レーファが主に狙うのはむしろこちらだ。

 万が一にも大型獣や魔物に遭遇した場合、なるべく巧く第一王子たちのほうへと誘導しなければならない。技術がいるのはこちらのほうだ。

 サンディラはともかく、狩りの経験がほとんどないレーファが役に立つことがあるのか、自分自身でも疑問に思っていた。

「オレたちは義兄上の引き立て役として頑張ろうね」

 それ以上でも以下でもない、と苦笑して、開かれた馬車のドアから降りた。
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