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42 狩り(1)

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 何年かの時が流れた。

 愛らしかったレーファは長じて、美女と言われたらしい母によく似た美しさを備えた少年に育っていた。

 筋肉はあるが筋骨隆々というわけではなく、異国の彫刻で追求される神話や神々のような、手足も長く、若木や柳のような伸びやかな体躯は、青年になる前だけに宿る美しさにも思えた。
 長じても見る者をうっとりさせるような体になるだろうと思われる、まだ未完成の少年の体。剣の鍛錬も欠かしていないが、筋肉がつきにくい体質なのだろう。

 何故か十歳を超えてからレト王国では珍しく、肌が白くなっていった。母の肌も白玉のように美しく、透き通るようだったというし、きっとそちらによく似たのだろう。

 母に似ていないのは、髪の色くらいだろうか。母の髪は深い闇の色を凝縮させ、艶を混ぜたような黒だった。どうせ似るならそこも似たかったと思っている。

 レーファの髪は太陽のように明るい橙色だ。瞳の空色とよく合い、ひそかに太陽の愛し子と呼ぶ者もいた。





「ヴェルティス、大丈夫?」

 馬車の中、レーファが心配そうな顔で問いかける。

「だ、大丈夫です…………」

 今にも吐きそうな顔で地を這うような声で言われても、まったく説得力がない。
 ヴェルティスがグロッキーになっているのは、馬車に酔っているからだ。レーファとサンディラは大丈夫なので、個人差だろう。

「乗り慣れねえとそうなるよなァ。いっそ横になっちまったらどうだ」
「もう少しで着くと思うけど、そのほうがいいかもね」

 レーファとサンディラの勧めで座面に横になる彼に苦笑する。今のレーファは乗り慣れていない乗り物だが、レーファ自身は過去の生で何度も乗っているから、そのお陰で平気だった。あまり嬉しくない理由だが。


 三人は今、西の森へ狩りへ行くところだ。


 王家の公式行事であり、第一王子の成人の儀のひとつでもある。獲物を狩り、神に捧げることで豊穣を願い、次期王太子としての威を見せつける。。

 主役になるのは当然、第一王子だ。レーファなどは彼の引き立て役として動き回らねばならないことになる。
 王太子も大物を仕留めなければならないからきっと大変だろうが、引き立て役はその大物を用意する必要があるからもっと苦労するものだ。

「それも業腹なんだよなァ……どう考えてもレーファのほうが活躍するだろうに、ボンクラの引き立て役にならなきゃならんとは」
「それに、公式行事だからって油断はできませんよ。王妃が何を仕掛けてくるか……」

 呻くようにヴェルティスが懸念事項を口にする。レーファもそれは考えていたし、サンディラも考えていただろう。

「レーファ、離れるんじゃねえぞ」
「うん。……ヴェルティスは念のため、応急処置の用意をしておいて」
「もちろんです。……役に立たないのが一番なんですが……」

 何かあった時のために回復系の術の訓練を積んできた、とヴェルティスは言う。あまり強いものではないらしいが、深い傷でなければ大丈夫のようだから、きっと何とかなるだろう。
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