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38 おいでませ生誕祭(1)
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二週間が経ち、今日はいよいよレーファの生誕祭。
サンディラとヴェルティスの他、いつも世話になっている侍女や料理番も招いてのささやかな宴は昼餉時から夕餉時まで続く。第一王子や第二王子の生誕祭が三日がかりで近隣諸国の使節も来ることを考えれば、ささやかすぎるほどささやかだった。
そうして、この日ばかりはレーファの好物ばかりがテーブルに並ぶ。皆、椅子に座り慣れていないから、いつかラージュナに贈られた新しい大きな絨毯を広げ、そこに料理と取り皿を並べた大きな膳を各自に用意し、好きに食べる。
飲み物は果実のジュース、果実酒、穀物酒など、様々にあった。これは料理番が張り切って用意してくれたものだ。レーファは好き嫌いなく食事を平らげるから、料理番の評判も良いお陰。
王妃の嫌がらせだろう、レーファたちの分として用意されている食糧たちはいつもより少なかったり新鮮なものが少なかったりしたが、ヴェルティスが街で仕入れたり、王妃のことをよく思っていない食料庫担当者が融通してくれたりして、かえって豪勢なものになった。
わざわざ王妃本人が見に来るわけでもないが、王妃付きの侍従や侍女が様子を窺いに来る気配はあっても、誰も気にしなかった。
昼餉が一息ついたら、皆さまざまなプレゼントをレーファに贈る。どんなささやかなものでも、レーファは喜んで受け取った。
侍女からは精緻な刺繍が施されたハンカチやサッシュ、料理番からは特別献立メニュー表とオーダーチケット十枚綴り、サンディラからは緩やかなカーブのあるナイフ、ヴェルティスからは螺鈿が美しい万年筆と筆のセット。
どれも贈り主の性格が出ているし、レーファを喜ばせようとしてくれているのがわかる。長く使えるものも多かった。
そんなふうに盛り上がっているところ、突然部屋を訪れた人物がいた。
ラージュナだ。
さすがに皆慌て、平服する。サンディラやヴェルティスはともかく、侍女や料理番など、竜人に対する礼儀など心得てはいない。失礼があっては罰されるのではないかと、沈黙の中に混乱があった。
だがラージュナはあくまでラージュナで、マイペースだった。
「楽にしていい。宴だろう、不敬は問わぬ。部屋から去る必要もない」
「ありがとうございます、ラージュナさま」
受け答えるべきなのは自分だとわかっているので、レーファは深く一礼する。
「御用でしたら、うけたまわります」
「俺も参加して良いか?」
この竜人はどうしていつもこう火種を投下していくのが上手いのだろう。
否やがあるはずもない。
「……もちろんです。私のとなりに座をごよういしますので、おまちください」
座を素早く用意するのはヴェルティスだ。侍女より速く動けたのは、単純にラージュナに対する耐性の問題だろう。
サンディラとヴェルティスの他、いつも世話になっている侍女や料理番も招いてのささやかな宴は昼餉時から夕餉時まで続く。第一王子や第二王子の生誕祭が三日がかりで近隣諸国の使節も来ることを考えれば、ささやかすぎるほどささやかだった。
そうして、この日ばかりはレーファの好物ばかりがテーブルに並ぶ。皆、椅子に座り慣れていないから、いつかラージュナに贈られた新しい大きな絨毯を広げ、そこに料理と取り皿を並べた大きな膳を各自に用意し、好きに食べる。
飲み物は果実のジュース、果実酒、穀物酒など、様々にあった。これは料理番が張り切って用意してくれたものだ。レーファは好き嫌いなく食事を平らげるから、料理番の評判も良いお陰。
王妃の嫌がらせだろう、レーファたちの分として用意されている食糧たちはいつもより少なかったり新鮮なものが少なかったりしたが、ヴェルティスが街で仕入れたり、王妃のことをよく思っていない食料庫担当者が融通してくれたりして、かえって豪勢なものになった。
わざわざ王妃本人が見に来るわけでもないが、王妃付きの侍従や侍女が様子を窺いに来る気配はあっても、誰も気にしなかった。
昼餉が一息ついたら、皆さまざまなプレゼントをレーファに贈る。どんなささやかなものでも、レーファは喜んで受け取った。
侍女からは精緻な刺繍が施されたハンカチやサッシュ、料理番からは特別献立メニュー表とオーダーチケット十枚綴り、サンディラからは緩やかなカーブのあるナイフ、ヴェルティスからは螺鈿が美しい万年筆と筆のセット。
どれも贈り主の性格が出ているし、レーファを喜ばせようとしてくれているのがわかる。長く使えるものも多かった。
そんなふうに盛り上がっているところ、突然部屋を訪れた人物がいた。
ラージュナだ。
さすがに皆慌て、平服する。サンディラやヴェルティスはともかく、侍女や料理番など、竜人に対する礼儀など心得てはいない。失礼があっては罰されるのではないかと、沈黙の中に混乱があった。
だがラージュナはあくまでラージュナで、マイペースだった。
「楽にしていい。宴だろう、不敬は問わぬ。部屋から去る必要もない」
「ありがとうございます、ラージュナさま」
受け答えるべきなのは自分だとわかっているので、レーファは深く一礼する。
「御用でしたら、うけたまわります」
「俺も参加して良いか?」
この竜人はどうしていつもこう火種を投下していくのが上手いのだろう。
否やがあるはずもない。
「……もちろんです。私のとなりに座をごよういしますので、おまちください」
座を素早く用意するのはヴェルティスだ。侍女より速く動けたのは、単純にラージュナに対する耐性の問題だろう。
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