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34 月明かりの下で(2)
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「どんな夢を?」
「いろいろです。……あらゆる方法で、おとなの私が死ぬ夢です」
「……そうか」
ラージュナの声は沈んで聞こえた。彼は月を背にしているので、表情はよくわからない。
「……来い」
「は、はい」
どこへ? という疑問は、すぐにわかった。奥庭を抜け、迎賓宮――つまりラージュナが使っている客室へと連れて行かれる。
「座れ」
言われるがまま、いつか座ったふかふかのラグに正座する。迎賓用なのはわかるが、そろそろこの季節に毛足の長いラグでは暑苦しいのではないか。そんなどうでもいいことが頭をよぎった。
ラージュナは火鉢に火を入れ、湯を沸かす。
「お茶なら、私が」
「良い。そのままで」
「……はい」
ラージュナがいいというならいい、と学習しているので、大人しくそのままラージュナが茶を淹れてくれるのを待つ。茶海に注がれていく茶の香りがほんのりと広がり、レーファの心を軽くする。
それから聞香杯へと注がれ、聞香杯に茶杯をかぶせた状態で渡された。レーファは聞香杯と茶杯の上下をくるりと返して入れ替え、蓋になった聞香杯をそっと外し、その香りを嗅ぐ。
「……あまい……それから、花のかおりがします」
「気持ちを落ち着けてくれる作用がある。ゆっくり飲むといい」
「ありがとうございます」
やさしい香りに心をほぐされながら、ふとあることが頭に引っかかった。
「あの……ラージュナ様はどうして奥庭に?」
今は耳飾りを着けていないから不敬だろうか。内心で慌てたが、ラージュナは意に介していないようだった。
「星を眺めていた。……月が明るすぎてあまり見えないが。後は、文化の違いを考えていた」
「文化のちがいですか」
それはもう、様々にあるだろう。
まず皇国とは衣服の形態が違う。気候が違うせいだ。皇国は一年を通しても大きな気候の変動はない。寒すぎず、暑くはない。どちらかといえば涼しい。レトの者なら寒いと言うかもしれない。
皇国の衣服は上衣も下衣も袖や裾が長く、女性は比礼なども纏うため、典雅な風がある。
レト王国は年間を通して気温が高く、夏などはいっそう暑い。
そのため纏う布は薄くなり、皇国の竜人から見れば品のない衣服として見られるかもしれなかった。事実、最初に赴任した竜官はそんな感想を抱いたと記録が残っている。
食べ物も皇国は薄味だというし、レト王国は濃いめだ。そのあたりはだいぶ苦労しているのではないかと思う。王宮側は竜官が監修して配慮しているだろうけれど。
「いろいろです。……あらゆる方法で、おとなの私が死ぬ夢です」
「……そうか」
ラージュナの声は沈んで聞こえた。彼は月を背にしているので、表情はよくわからない。
「……来い」
「は、はい」
どこへ? という疑問は、すぐにわかった。奥庭を抜け、迎賓宮――つまりラージュナが使っている客室へと連れて行かれる。
「座れ」
言われるがまま、いつか座ったふかふかのラグに正座する。迎賓用なのはわかるが、そろそろこの季節に毛足の長いラグでは暑苦しいのではないか。そんなどうでもいいことが頭をよぎった。
ラージュナは火鉢に火を入れ、湯を沸かす。
「お茶なら、私が」
「良い。そのままで」
「……はい」
ラージュナがいいというならいい、と学習しているので、大人しくそのままラージュナが茶を淹れてくれるのを待つ。茶海に注がれていく茶の香りがほんのりと広がり、レーファの心を軽くする。
それから聞香杯へと注がれ、聞香杯に茶杯をかぶせた状態で渡された。レーファは聞香杯と茶杯の上下をくるりと返して入れ替え、蓋になった聞香杯をそっと外し、その香りを嗅ぐ。
「……あまい……それから、花のかおりがします」
「気持ちを落ち着けてくれる作用がある。ゆっくり飲むといい」
「ありがとうございます」
やさしい香りに心をほぐされながら、ふとあることが頭に引っかかった。
「あの……ラージュナ様はどうして奥庭に?」
今は耳飾りを着けていないから不敬だろうか。内心で慌てたが、ラージュナは意に介していないようだった。
「星を眺めていた。……月が明るすぎてあまり見えないが。後は、文化の違いを考えていた」
「文化のちがいですか」
それはもう、様々にあるだろう。
まず皇国とは衣服の形態が違う。気候が違うせいだ。皇国は一年を通しても大きな気候の変動はない。寒すぎず、暑くはない。どちらかといえば涼しい。レトの者なら寒いと言うかもしれない。
皇国の衣服は上衣も下衣も袖や裾が長く、女性は比礼なども纏うため、典雅な風がある。
レト王国は年間を通して気温が高く、夏などはいっそう暑い。
そのため纏う布は薄くなり、皇国の竜人から見れば品のない衣服として見られるかもしれなかった。事実、最初に赴任した竜官はそんな感想を抱いたと記録が残っている。
食べ物も皇国は薄味だというし、レト王国は濃いめだ。そのあたりはだいぶ苦労しているのではないかと思う。王宮側は竜官が監修して配慮しているだろうけれど。
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