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33 月明かりの下で(1)

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 真夜中。
 月明かりの下、幼いレーファは奥庭で座り込み、青く染まる花を眺めていた。なるべく無心で、綺麗なものを見ていたかった。


 また、悪夢を見た。今度は内容を覚えている。


 見た目にそぐわない溜息が漏れる。ささやかな風に揺れる花を、指先でそっとつついた。

(悪夢……っていうか、あれは以前の記憶だよね)

 皇国に行ってからの、周囲の敵意や悪意。何度目かの生き直しの後、そういうものに敏感になってしまって体調を崩すことがあった。
 そうして、毒を盛られたり暗殺されたり何かの罪をかぶせられたり、様々な手法で死んだ。
 およそ体験していない死に方はないのではないか。

 最終的にはひとつ前の生の分もあった。これが一番気持ちを濁らせる。

 だから夢見が悪い時、気が滅入る時、そんな時には花を眺めてぼんやり過ごすことにしている。奥庭や裏庭の花たちは美しく、心を落ち着かせるにはちょうどよかった。
 夢の中、レーファを思い悩ませるのは、ただひとり。そうして、今の現実でも。

(……可愛がってくれてる……んだろう、なぁ……)

 街へ出た時の土産といい、熱を出した時の見舞いといい、少し度を超しているように思えるが、滞在中の相手にレーファを選んでくれたし罪の濡れ衣を着せられそうになったのを助けてくれた。だからきっと気に入ってくれているのだろうとは思う。
 何を気に入ってくれたのかはわからない。

(オレは、見た目だけはいいらしいから……そこかな……)

 竜人は美しいものを見慣れていると聞いたが、彼の周りには少ないのだろうか。
 いや、見た目ではないのかもしれない、と考え方を変える。

(たとえば……礼儀作法がしっかりしてるから、とか……?)

 竜官にもお墨付きを頂いているから、ありえなくはない。実際、何度も合計何年も皇国で過ごしていれば、自然と身につくものではある。義兄ふたりには申し訳ないが。これはレーファに有利なことだ。

(あとは小さいものがお好きとか……)

 それだと義兄ふたりも平等に扱われないとおかしい。これは違う、と浮かんだ考えを切り捨てる。
 見た目が良くて礼儀作法がしっかりしている、となると、皇国のたいていの子どもが当てはまりそうだ。わざわざヒトの子でなくてもいいはず。
 皇国では身の回りに幼い子どもがいないのだろうか。

(……理由が見えない好意はこわいな……)

 悪意や敵意でないだけマシと思っておくべきか。けれど切り捨てるには気になりすぎた。

「眠れぬか?」

 後ろからの声にハッとしてすぐさま身を起こし、姿勢を正す。

「いえ、……すこし、夢見が悪くて」
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