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27 庶民のお店へ行こう(3)
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「油淋鶏定食はこちら、鶏そぼろ丼はそっち、トマト煮は俺、チリソースの鶏唐定食はここだ」
店員が運んできた盆を、それぞれサンディラがどのメニューだったか伝え、その通りに並べてもらう。
正直、誰もラージュナの前にも隣にも座りたくなかったに違いない。レーファだって許されるなら座りたくなかった。だが嫌がっていい身分ではない。
おそらくはふたりが一番座りたくないであろう正面にレーファが座り、レーファの隣にサンディラ、ラージュナの隣にヴェルティスという配置になった。これは防犯上の理由と体格的な問題のせいだ。
レーファはチリソースの鶏唐定食にした。以前食べた時の刺激的な辛さがすっかり気に入ったからだ。その前は油淋鶏を食べたことがあり、これも美味しかったからラージュナに勧めた。
「いただきます」
三人とも手を合わせて言い、早速食べようとして、レーファは気付いた。
「毒味をしましょう」
まだ他に箸を付けていなくてよかった。思いながらラージュナの皿から一切れ取ろうとしたが、「いや」と制される。
「その必要はない。ここは王宮でも皇国でもない。おまえたちが勧めた店だから大丈夫だろう」
三人は顔を見合わせた。言葉通りに受け取るなら、三人を信用してくれたということだ。
名誉なことだと思うべきだろう。万が一の時が恐ろしいが。
「では――いただく」
固唾を呑んで見守る。庶民向けだし一流とは言えないが、レーファたちは気に入っている。はたして皇国の竜人の口に合うのかどうか。
ゆっくりとした咀嚼の後の嚥下。
「ふむ……似たような料理を皇国でも食べたことがあるが、それより味付けは濃いめだな。だが甘酸っぱいタレも肉も、悪くない。皮はぱりっとしていて火の通り方も良い。この国の庶民はこういうものを食べるのか」
感心したようなコメントは否定的なものではなかった。一同胸を撫で下ろすと、自分たちの食事を始める。これは皇国の礼儀として、無言だ。
(……また見られてる……?)
見ていないようにちらりとラージュナを見るが、彼のほうでレーファを注視している素振りは見られない。
食べ方などの作法を見られているのだろうか。普段よりいっそう気を付けながら、食事を進めた。
「つ……つっかれたぁ…………」
三人一斉にレーファの部屋の絨毯に転がる。
「あちこち見て回ったけど……ラージュナ様はあれで満足なのか……?」
ヴェルティスの疑問に、サンディラが寝返りを打って答える。
「満足だったから、あれこれ買ったんじゃねえのか……」
「荷物持ちおつかれさま、サンディラ……」
レーファのねぎらいの言葉に、乾いた笑いが帰ってきた。
昼食をとった後、ラージュナは再びレーファを抱き上げて歩いた。そういえば竜人はヒトよりよほど力強いのだったか、と思い出したが、どうしても頭に不敬が横切る。
たとえ無辜之札があっても、赦されない不敬もあるのではないか。思いはしたが、結局最後の最後までラージュナはレーファを下ろさなかった。
「……犬か猫扱いだったような気もする」
「いや、犬か猫にはあんな山盛りの土産を買わんだろう……」
あれ、とサンディラが指さすところには、大の大人が一抱えするほどの大判の手提げ袋が四つと、中くらいの手提げ袋がひとつあった。大きなほうはサンディラが、中くらいのほうはヴェルティスが持ったものだ。
中身は服、宝飾、靴、帽子と様々だ。庶民向けの服と、かしこまった服はラージュナの前でも着られそうなものだった。後者に関してだけはありがたい。ありがたいが、問題はある。
「……つまり、次があるってことだよね……」
「…………」
「…………」
「…………」
大きな溜息を吐いたのは誰なのか、追及する気もなかった。
気に入られなかったら問題もあるだろうが、気に入られるとそれとは別の問題が出てくるのだとは思わなかった。
店員が運んできた盆を、それぞれサンディラがどのメニューだったか伝え、その通りに並べてもらう。
正直、誰もラージュナの前にも隣にも座りたくなかったに違いない。レーファだって許されるなら座りたくなかった。だが嫌がっていい身分ではない。
おそらくはふたりが一番座りたくないであろう正面にレーファが座り、レーファの隣にサンディラ、ラージュナの隣にヴェルティスという配置になった。これは防犯上の理由と体格的な問題のせいだ。
レーファはチリソースの鶏唐定食にした。以前食べた時の刺激的な辛さがすっかり気に入ったからだ。その前は油淋鶏を食べたことがあり、これも美味しかったからラージュナに勧めた。
「いただきます」
三人とも手を合わせて言い、早速食べようとして、レーファは気付いた。
「毒味をしましょう」
まだ他に箸を付けていなくてよかった。思いながらラージュナの皿から一切れ取ろうとしたが、「いや」と制される。
「その必要はない。ここは王宮でも皇国でもない。おまえたちが勧めた店だから大丈夫だろう」
三人は顔を見合わせた。言葉通りに受け取るなら、三人を信用してくれたということだ。
名誉なことだと思うべきだろう。万が一の時が恐ろしいが。
「では――いただく」
固唾を呑んで見守る。庶民向けだし一流とは言えないが、レーファたちは気に入っている。はたして皇国の竜人の口に合うのかどうか。
ゆっくりとした咀嚼の後の嚥下。
「ふむ……似たような料理を皇国でも食べたことがあるが、それより味付けは濃いめだな。だが甘酸っぱいタレも肉も、悪くない。皮はぱりっとしていて火の通り方も良い。この国の庶民はこういうものを食べるのか」
感心したようなコメントは否定的なものではなかった。一同胸を撫で下ろすと、自分たちの食事を始める。これは皇国の礼儀として、無言だ。
(……また見られてる……?)
見ていないようにちらりとラージュナを見るが、彼のほうでレーファを注視している素振りは見られない。
食べ方などの作法を見られているのだろうか。普段よりいっそう気を付けながら、食事を進めた。
「つ……つっかれたぁ…………」
三人一斉にレーファの部屋の絨毯に転がる。
「あちこち見て回ったけど……ラージュナ様はあれで満足なのか……?」
ヴェルティスの疑問に、サンディラが寝返りを打って答える。
「満足だったから、あれこれ買ったんじゃねえのか……」
「荷物持ちおつかれさま、サンディラ……」
レーファのねぎらいの言葉に、乾いた笑いが帰ってきた。
昼食をとった後、ラージュナは再びレーファを抱き上げて歩いた。そういえば竜人はヒトよりよほど力強いのだったか、と思い出したが、どうしても頭に不敬が横切る。
たとえ無辜之札があっても、赦されない不敬もあるのではないか。思いはしたが、結局最後の最後までラージュナはレーファを下ろさなかった。
「……犬か猫扱いだったような気もする」
「いや、犬か猫にはあんな山盛りの土産を買わんだろう……」
あれ、とサンディラが指さすところには、大の大人が一抱えするほどの大判の手提げ袋が四つと、中くらいの手提げ袋がひとつあった。大きなほうはサンディラが、中くらいのほうはヴェルティスが持ったものだ。
中身は服、宝飾、靴、帽子と様々だ。庶民向けの服と、かしこまった服はラージュナの前でも着られそうなものだった。後者に関してだけはありがたい。ありがたいが、問題はある。
「……つまり、次があるってことだよね……」
「…………」
「…………」
「…………」
大きな溜息を吐いたのは誰なのか、追及する気もなかった。
気に入られなかったら問題もあるだろうが、気に入られるとそれとは別の問題が出てくるのだとは思わなかった。
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