27 / 160
27 庶民のお店へ行こう(3)
しおりを挟む
「油淋鶏定食はこちら、鶏そぼろ丼はそっち、トマト煮は俺、チリソースの鶏唐定食はここだ」
店員が運んできた盆を、それぞれサンディラがどのメニューだったか伝え、その通りに並べてもらう。
正直、誰もラージュナの前にも隣にも座りたくなかったに違いない。レーファだって許されるなら座りたくなかった。だが嫌がっていい身分ではない。
おそらくはふたりが一番座りたくないであろう正面にレーファが座り、レーファの隣にサンディラ、ラージュナの隣にヴェルティスという配置になった。これは防犯上の理由と体格的な問題のせいだ。
レーファはチリソースの鶏唐定食にした。以前食べた時の刺激的な辛さがすっかり気に入ったからだ。その前は油淋鶏を食べたことがあり、これも美味しかったからラージュナに勧めた。
「いただきます」
三人とも手を合わせて言い、早速食べようとして、レーファは気付いた。
「毒味をしましょう」
まだ他に箸を付けていなくてよかった。思いながらラージュナの皿から一切れ取ろうとしたが、「いや」と制される。
「その必要はない。ここは王宮でも皇国でもない。おまえたちが勧めた店だから大丈夫だろう」
三人は顔を見合わせた。言葉通りに受け取るなら、三人を信用してくれたということだ。
名誉なことだと思うべきだろう。万が一の時が恐ろしいが。
「では――いただく」
固唾を呑んで見守る。庶民向けだし一流とは言えないが、レーファたちは気に入っている。はたして皇国の竜人の口に合うのかどうか。
ゆっくりとした咀嚼の後の嚥下。
「ふむ……似たような料理を皇国でも食べたことがあるが、それより味付けは濃いめだな。だが甘酸っぱいタレも肉も、悪くない。皮はぱりっとしていて火の通り方も良い。この国の庶民はこういうものを食べるのか」
感心したようなコメントは否定的なものではなかった。一同胸を撫で下ろすと、自分たちの食事を始める。これは皇国の礼儀として、無言だ。
(……また見られてる……?)
見ていないようにちらりとラージュナを見るが、彼のほうでレーファを注視している素振りは見られない。
食べ方などの作法を見られているのだろうか。普段よりいっそう気を付けながら、食事を進めた。
「つ……つっかれたぁ…………」
三人一斉にレーファの部屋の絨毯に転がる。
「あちこち見て回ったけど……ラージュナ様はあれで満足なのか……?」
ヴェルティスの疑問に、サンディラが寝返りを打って答える。
「満足だったから、あれこれ買ったんじゃねえのか……」
「荷物持ちおつかれさま、サンディラ……」
レーファのねぎらいの言葉に、乾いた笑いが帰ってきた。
昼食をとった後、ラージュナは再びレーファを抱き上げて歩いた。そういえば竜人はヒトよりよほど力強いのだったか、と思い出したが、どうしても頭に不敬が横切る。
たとえ無辜之札があっても、赦されない不敬もあるのではないか。思いはしたが、結局最後の最後までラージュナはレーファを下ろさなかった。
「……犬か猫扱いだったような気もする」
「いや、犬か猫にはあんな山盛りの土産を買わんだろう……」
あれ、とサンディラが指さすところには、大の大人が一抱えするほどの大判の手提げ袋が四つと、中くらいの手提げ袋がひとつあった。大きなほうはサンディラが、中くらいのほうはヴェルティスが持ったものだ。
中身は服、宝飾、靴、帽子と様々だ。庶民向けの服と、かしこまった服はラージュナの前でも着られそうなものだった。後者に関してだけはありがたい。ありがたいが、問題はある。
「……つまり、次があるってことだよね……」
「…………」
「…………」
「…………」
大きな溜息を吐いたのは誰なのか、追及する気もなかった。
気に入られなかったら問題もあるだろうが、気に入られるとそれとは別の問題が出てくるのだとは思わなかった。
店員が運んできた盆を、それぞれサンディラがどのメニューだったか伝え、その通りに並べてもらう。
正直、誰もラージュナの前にも隣にも座りたくなかったに違いない。レーファだって許されるなら座りたくなかった。だが嫌がっていい身分ではない。
おそらくはふたりが一番座りたくないであろう正面にレーファが座り、レーファの隣にサンディラ、ラージュナの隣にヴェルティスという配置になった。これは防犯上の理由と体格的な問題のせいだ。
レーファはチリソースの鶏唐定食にした。以前食べた時の刺激的な辛さがすっかり気に入ったからだ。その前は油淋鶏を食べたことがあり、これも美味しかったからラージュナに勧めた。
「いただきます」
三人とも手を合わせて言い、早速食べようとして、レーファは気付いた。
「毒味をしましょう」
まだ他に箸を付けていなくてよかった。思いながらラージュナの皿から一切れ取ろうとしたが、「いや」と制される。
「その必要はない。ここは王宮でも皇国でもない。おまえたちが勧めた店だから大丈夫だろう」
三人は顔を見合わせた。言葉通りに受け取るなら、三人を信用してくれたということだ。
名誉なことだと思うべきだろう。万が一の時が恐ろしいが。
「では――いただく」
固唾を呑んで見守る。庶民向けだし一流とは言えないが、レーファたちは気に入っている。はたして皇国の竜人の口に合うのかどうか。
ゆっくりとした咀嚼の後の嚥下。
「ふむ……似たような料理を皇国でも食べたことがあるが、それより味付けは濃いめだな。だが甘酸っぱいタレも肉も、悪くない。皮はぱりっとしていて火の通り方も良い。この国の庶民はこういうものを食べるのか」
感心したようなコメントは否定的なものではなかった。一同胸を撫で下ろすと、自分たちの食事を始める。これは皇国の礼儀として、無言だ。
(……また見られてる……?)
見ていないようにちらりとラージュナを見るが、彼のほうでレーファを注視している素振りは見られない。
食べ方などの作法を見られているのだろうか。普段よりいっそう気を付けながら、食事を進めた。
「つ……つっかれたぁ…………」
三人一斉にレーファの部屋の絨毯に転がる。
「あちこち見て回ったけど……ラージュナ様はあれで満足なのか……?」
ヴェルティスの疑問に、サンディラが寝返りを打って答える。
「満足だったから、あれこれ買ったんじゃねえのか……」
「荷物持ちおつかれさま、サンディラ……」
レーファのねぎらいの言葉に、乾いた笑いが帰ってきた。
昼食をとった後、ラージュナは再びレーファを抱き上げて歩いた。そういえば竜人はヒトよりよほど力強いのだったか、と思い出したが、どうしても頭に不敬が横切る。
たとえ無辜之札があっても、赦されない不敬もあるのではないか。思いはしたが、結局最後の最後までラージュナはレーファを下ろさなかった。
「……犬か猫扱いだったような気もする」
「いや、犬か猫にはあんな山盛りの土産を買わんだろう……」
あれ、とサンディラが指さすところには、大の大人が一抱えするほどの大判の手提げ袋が四つと、中くらいの手提げ袋がひとつあった。大きなほうはサンディラが、中くらいのほうはヴェルティスが持ったものだ。
中身は服、宝飾、靴、帽子と様々だ。庶民向けの服と、かしこまった服はラージュナの前でも着られそうなものだった。後者に関してだけはありがたい。ありがたいが、問題はある。
「……つまり、次があるってことだよね……」
「…………」
「…………」
「…………」
大きな溜息を吐いたのは誰なのか、追及する気もなかった。
気に入られなかったら問題もあるだろうが、気に入られるとそれとは別の問題が出てくるのだとは思わなかった。
29
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

ポンコツアルファを拾いました。
おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて……
ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。
オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。
※特殊設定の現代オメガバースです

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番
兎騎かなで
BL
パンダ族の白露は成人を迎え、生まれ育った里を出た。白露は里で唯一のオメガだ。将来は父や母のように、のんびりとした生活を営めるアルファと結ばれたいと思っていたのに、実は白露は皇帝の番だったらしい。
美味しい笹の葉を分けあって二人で食べるような、鳥を見つけて一緒に眺めて楽しむような、そんな穏やかな時を、激務に追われる皇帝と共に過ごすことはできるのか?
さらに白露には、発情期が来たことがないという悩みもあって……理想の番関係に向かって奮闘する物語。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる