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26 庶民のお店へ行こう(2)
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「……庶民の店が、高貴な方のお口に合うかはわかりませんが……」
サンディラが竜人へ対して発言するのは、本来なら許されないが、今日ばかりはサンディラもヴェルティスも、発言に対して不敬を問わないでほしいとレーファが頼んでいた。
却下されるかと思ったが、思いがけずラージュナは「構わない」と快諾してくれた。
「普段食べることがないものを食べるのも一興だろう。何で話の種になるかわからない。それにおまえたちは街に出れば庶民の食べ物を食べるのだろう?」
「はい」
「なら俺が食べて悪いということはあるまい。おまえたちが勧めてくれるところなら、どこでも構わない」
かえって難しい注文を受けてしまった。三人は思わず頭を突き合わせて相談する。
「どうするよ……」
「前に三人で行った、豚肉と魚料理が美味しかったところはどうかな……」
「それよりもう少し格上のところがいいのでは……」
「でも多分、ほんとに庶民の店のほうがいいんだと思うよ。オレたちが行くみたいな……」
「じゃあ、雌鶏亭はどうだ? あそこは夜は酒場だが、昼もいい。ちょっと前に行っただろ、鶏肉の料理がいろんな種類がある……衝立もあるから、隣があんまり気にならねえ」
雌鶏亭、と言われて記憶を手繰る。
たしか酒場がある庶民の店でもお行儀がいいほうの店だ。店内も広めで、狭苦しくはない。テーブルも広めだった。
「いいかも」
「たしかに美味しかった」
話はまとまったと、ラージュナを振り返る。
「では、ご案内しますね」
こちらです、と先に立つ。レーファと、隣にはサンディラ。後ろにラージュナと、さらに少し後ろにヴェルティス。
いつもそうしているように、自然とサンディラと手を繋いだ。サンディラはゆっくり歩いてくれるが、それでも歩幅が違うのと、何かあった時に咄嗟にサンディラがレーファを守りやすいからだ。また、お忍びの時だから親子のように見えたほうが良いから、カモフラージュの意味もあった。
「……?」
なんだか視線を感じる。とてつもなく強い視線を。
「どうか、されましたか?」
振り返ると、ラージュナがレーファとサンディラを見つめていた。正確には、ふたりが繋いでいる手を。あまりに熱心に見ているから、圧を感じたらしい。
「いや……何故、手を繋ぐ?」
「まいご防止と、歩くはばがちがうので、おくれないためです」
「……それなら、抱えたほうが早いのではないか?」
「え? ……えっ!?」
ラージュナに抱き上げられ、腕に抱えられてしまった。サンディラとヴェルティスもありえないものを見た顔をして硬直している。
当事者であるレーファも同じ顔をして凍っていただろうが、回復は早かった。
(……自分より慌てている者を見るとかえって落ち着くっていうのは本当なんだな……)
自分のすぐ間近にある綺麗な顔に「あの」と勇気を振り絞って声をかける。
「重くは……ありませんか」
何故抱き上げたのかを聞きたいところだが、一周回ってそんなことしか訊けなかった。
「大丈夫だ。子どもはこんなに軽いものなのか?」
「年にもよりますが、私くらいのねんれいでしたら、よほど太っていないかぎりは、同じくらいではないでしょうか」
「そうか。……では、案内してくれ」
「……はい」
慇懃にサンディラが頷き、また歩き始める。あれは考えるのを止めた顔だ、とレーファは気付いていた。
サンディラが竜人へ対して発言するのは、本来なら許されないが、今日ばかりはサンディラもヴェルティスも、発言に対して不敬を問わないでほしいとレーファが頼んでいた。
却下されるかと思ったが、思いがけずラージュナは「構わない」と快諾してくれた。
「普段食べることがないものを食べるのも一興だろう。何で話の種になるかわからない。それにおまえたちは街に出れば庶民の食べ物を食べるのだろう?」
「はい」
「なら俺が食べて悪いということはあるまい。おまえたちが勧めてくれるところなら、どこでも構わない」
かえって難しい注文を受けてしまった。三人は思わず頭を突き合わせて相談する。
「どうするよ……」
「前に三人で行った、豚肉と魚料理が美味しかったところはどうかな……」
「それよりもう少し格上のところがいいのでは……」
「でも多分、ほんとに庶民の店のほうがいいんだと思うよ。オレたちが行くみたいな……」
「じゃあ、雌鶏亭はどうだ? あそこは夜は酒場だが、昼もいい。ちょっと前に行っただろ、鶏肉の料理がいろんな種類がある……衝立もあるから、隣があんまり気にならねえ」
雌鶏亭、と言われて記憶を手繰る。
たしか酒場がある庶民の店でもお行儀がいいほうの店だ。店内も広めで、狭苦しくはない。テーブルも広めだった。
「いいかも」
「たしかに美味しかった」
話はまとまったと、ラージュナを振り返る。
「では、ご案内しますね」
こちらです、と先に立つ。レーファと、隣にはサンディラ。後ろにラージュナと、さらに少し後ろにヴェルティス。
いつもそうしているように、自然とサンディラと手を繋いだ。サンディラはゆっくり歩いてくれるが、それでも歩幅が違うのと、何かあった時に咄嗟にサンディラがレーファを守りやすいからだ。また、お忍びの時だから親子のように見えたほうが良いから、カモフラージュの意味もあった。
「……?」
なんだか視線を感じる。とてつもなく強い視線を。
「どうか、されましたか?」
振り返ると、ラージュナがレーファとサンディラを見つめていた。正確には、ふたりが繋いでいる手を。あまりに熱心に見ているから、圧を感じたらしい。
「いや……何故、手を繋ぐ?」
「まいご防止と、歩くはばがちがうので、おくれないためです」
「……それなら、抱えたほうが早いのではないか?」
「え? ……えっ!?」
ラージュナに抱き上げられ、腕に抱えられてしまった。サンディラとヴェルティスもありえないものを見た顔をして硬直している。
当事者であるレーファも同じ顔をして凍っていただろうが、回復は早かった。
(……自分より慌てている者を見るとかえって落ち着くっていうのは本当なんだな……)
自分のすぐ間近にある綺麗な顔に「あの」と勇気を振り絞って声をかける。
「重くは……ありませんか」
何故抱き上げたのかを聞きたいところだが、一周回ってそんなことしか訊けなかった。
「大丈夫だ。子どもはこんなに軽いものなのか?」
「年にもよりますが、私くらいのねんれいでしたら、よほど太っていないかぎりは、同じくらいではないでしょうか」
「そうか。……では、案内してくれ」
「……はい」
慇懃にサンディラが頷き、また歩き始める。あれは考えるのを止めた顔だ、とレーファは気付いていた。
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