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23 囮と罠(4)

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 部屋にはたいていいつでも何かのお茶は飲めるように準備がある。水はレーファが魔術で出せるから、いつもそれを使って飲んでいた。

 グラスは戸棚に三人分がある。

 今日は濃いめのチャイにしようと、牛乳はヴェルティスが厨房へ分けてもらいに行った。
 小さめの皿を五徳の下に敷き、小さな燃料を置く。持ってきてくれた牛乳と、少量の水を入れたポットを五徳に置いて、燃料に魔術で火を点けた。

「それにしても、皇国から貴人が来てるっていうのに、その貴人の持ち物をぶっ壊すなんて……大胆なことをしてきたもんだな」
「最近おとなしいと思ってたところだったんですけどねえ……」
「オレをおとしいれる、いい案が浮かんだっておもったのかな」
「……おまえは時々大人みたいな言葉を使うな……」

 どきっとしたがつーんと横を向く。

「オレだっていろいろ勉強してるんだからね」
「頑張ってるよなあ、俺たちのレーファは」
「おまえは親バカ……兄バカか? に拍車が掛かっていってるな」

 感心するサンディラとヴェルティスの軽い口喧嘩の応酬を聞きながら、くすくすと笑う。茶の準備をしながらこんな時間を過ごすのは、レーファにとっては心安まる時間だ。

「……あれ?」

 牛乳に茶葉とスパイスを入れて煮出す。その茶葉の香りが、いつもと少し違う気がした。

(古くなってた……? この前開けたばかりだと思ったけど)

 また新しい茶葉を買ってもらうように頼もうか、それとも今度外出した時に買おうか。悩みつつ、まず自分のカップに少しだけ注ぐ。

(色は変わらない気がするけど……)

 香りを嗅ぐが、違和感が一瞬だったせいかよくわからない。

(……念のため、少しだけにしておこう)

 息を吹きかけて冷ますと、舐める程度の量を口に含む。

「……!」

 火を消してポットを掴むと、窓辺へと駆け寄った。ポットの中身を窓の外へ流し、捨ててしまう。

「レーファどうした?!」
「何かあったか?!」

 慌てたように駆け寄ってきたサンディラとヴェルティスの向こうに、背の高い貴人が姿を見せる。

「あ……」

 慌てて拱手するとサンディラとヴェルティスも振り返り、ふたりは膝を着いて拱手する。
 まったく、なんというタイミングで来るのだろう。

「……何かあったのか?」

 険しい顔をするラージュナに、レーファはふるふると首を振る。

「いえ……なんでもありません」
「……窓辺で固まって空のポットを持っていて、何でもないことはないだろう。人払いはしてある」
「…………」

 ラージュナは物事をよく見ている。
 下手に誤魔化してあらぬ疑いを持たれるよりは、話してしまったほうがいいかもしれない。
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