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18 無茶ぶり(3)

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 ラージュナだけだとしても、自分ひとりではないのだから、恥ずかしいに決まっている。

(……きっとこの竜人は、恥ずかしいと思ったことがないんだろうな……)

 それなら仕方ないかと思う。せっかく結ってもらった髪が乱れる気がしたが、ラージュナが気にしていないのであれば、レーファも気にしなくていいということだろう。

「話が飛んでしまったな。おまえは街に出る時、平民の衣服を身に着けるのだな?」
「は、はい」

 そういえば街に出る話をしていたのだった。慌てて頷く。

「その衣服はどこで手に入れるのだ?」
「わたしの従者や護衛は、わたしより自由に王宮の中や外でうごけます。かれらにたのんで街のものを買ってきてもらうことがあります。かれらはわたしよりずっと街を知っているので」
「では、おまえの従者に命じれば俺の衣服も手に入るか」
「えっ」

 今度こそ口に出して聞き返してしまった。不敬、という言葉がよぎるが、自分は無辜之札むこのふだをもらっているのだった、と思い出す。

「ラージュナさまは、おしのびで街に出るごよていが……?」
「おまえやおまえの従者、護衛に案内してもらう」

 ラージュナがきっぱり言い切る。これは決定だ。

(嘘でしょ………………)

 気が遠くなるかと思った。いや、いっそ気を失ってしまいたかったが、レーファはあくまで王族だった。

「……承知しました。手配させます」
「いつになる?」

 この場合は『いつ衣服を用意できるか』だけではなく、『それを着て街に出られるのはいつか』という質問も含んでいるに違いなかった。
 レーファは慎重に言葉を選ぶ。

「ラージュナさまのばあい、おかおも整いすぎておられるので、多少かくすようなものがいいと思います。小道具もひつようになるかと思いますが、すべてそろえられるのは……二日後の午前中には」

 明日には揃えられるかもしれないが、余裕を持った時間を答えるに越したことはない。

「では、その日の午後の予定をおまえとの外出にしよう」
「…………」

 本気ですか、と言いたかったのをぐっと堪える。顔には出たかもしれないが、子どもの限界だと思ってほしい。
 そもそも、明後日の予定は別にあったのだろう。それを白紙にするのは、関係各所は大変だなという気持ちが湧く。

「しょうちしました。わたしの護衛は外におりますので、申しつけてきてもよいでしょうか?」
「ああ」

 頷いたラージュナに一礼し、席を立つと廊下へ出る。サンディラは扉のすぐ脇にいた。レーファが小声で呼び手招くと、顔を近付けてくれる。
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