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13 贈り物(2)

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「承知しました」
「それから、ラージュナ様がこれをレーファ王子へ渡すようにと」

 竜官が懐から何かを出す。幅三センチ、長さ十センチ、高さ二センチほどの箱だ。机に置くと、レーファのほうへ滑らせてくれる。

「……? 開けてもよろしいのですか?」
「ああ。開けてくれ」

 なんだろうと思いつつ、箱は蓋式かと思い軽く手を掛け、開く。

 中に入っていたのは、虹色に輝く白の花弁と青の花蕊を備えた花。

 桜ほどの大きさの花が房のようにいくつかと、花から垂れた雫のような小さな白い貴石の飾り。見たこともない石だ。
 花房の後ろには、小指の爪ほどの大きさの薄い銀プレートが下がっている。何か書かれているようだが、細かすぎて読めない。蓮の花が彫られているのは見えた。

 金具から、どうやらこの花と雫は耳飾り――イヤーカフのようだとわかる。

 花弁は絹のような布のようだが、こんな虹色に輝く布は見たことがない。もしかしたら皇国でだけ織られるという高価な布だろうか。そして花蕊の青の石は、硝子ではなく貴石だろうか。サファイアかもしれない。

「綺麗ですね……」

 素直な気持ちで呟く。

「……これを、わたしに、ですか?」

 戸惑いが隠せない顔と声で竜官を見て言えば、竜官はこくりと頷いた。

「不要なら捨てても構わないと仰せだった」
「そんなことはしません!」

 後でどんなことになるかわかったものではない。高価そうな代物だし意図が読めないから本当は受け取りたくない気持ちはあるが、自我を押し通していいものではない。とりあえず今日お相手をする時の話の種がひとつできたと思っておく。
 立ち上がると拱手し、一礼する。

「ラージュナさまには、後でちょくせつお礼をもうしあげますが、感謝をおつたえねがえますか」
「承った。幼少の君に無理を言うが、よろしく頼む」
「ご期待にこたえられますよう、がんばります」

 満足そうに頷いた竜官は、優雅な足取りでレーファの部屋を後にした。

(……期待値が高すぎる気がするけど……)

 ちら、と耳飾りを見る。
 一体これは、どういう意味だろう。

(……ラージュナ様が、清潤様と顔が同じだから混同しちゃうんだよ……)

 だから、些細なことを比べて、違いを見つけては動揺してしまう。口調もそうだ。

(…………清潤せいじゅん様は贈り物なんてくださらなかった)

 高価なものが欲しかったわけではない。
 野花のひとつで構わない。『何かを贈ってくれる』に値する者になりたかった。何かを為すための相手にもなれないまま死んでしまったけれど。
 思い出すと、悲しい気持ちだけが湧いてくる。振り払うように頭を振り、深呼吸を二回した。

「ヴェルティス、サンディラ、朝餉あさごはんが食べたい」

 部屋の外へ声をかけると、早速とばかりワゴンを運んできたふたりが入ってくる。気を滅入らせても仕方がない。ラージュナと清潤は関係がないのだから、分けて考えるようにしなくては。
 並べられる朝餉を眺めながら、今日の授業について考えた。
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