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09 暇を慰める相手(3)

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 十歳、八歳、六歳の子どもを相手に、ずいぶん厳しい授業だったと思う。

「……このあたりで今日は切り上げてあげましょう。復習を忘れないように。次は明後日、同じ時間にここで」
「はい。ありがとうございました」

 礼を守った退出を兄ふたりが行い、レーファも倣って退出しようとした時。

「レーファ王子。この後、予定はあるか?」

 礼儀を忘れて「えっ」と聞き返しそうになった。
 竜官の言葉は国王より重んじられる。たとえ予定があったとしても、白紙に戻して構わないということだ。

「……いえ、ありません」
「それならこちらへ。あなたに頼みたいことがある。……ああ、そんなに不安そうな顔をしなくて構わない」

 どう考えても国で一番偉い身分の者に居残りを要求されて怯まない人間はいないだろう。おまけに『頼みたいこと』など、厄介事が確定しているようなものだ。

(厄介ごとに巻き込まないでほしいんだけどな……)

 レーファは迷いがちに竜官が勧めた榻牀に座った。出されたお茶と菓子は手をつけないほうが失礼になるので、黒文字で菓子を一口大に割って食べることにする。
 話を切り出してきたのは女性の竜官だ。

「三人の王子のうち、あなたが一番所作がうつくしい」
「きょ、恐縮です」
「六歳という年齢を考慮しても、充分すぎる。……だから、というわけでもないと思うのだが」

 竜官が、ひとり掛けの榻に優雅に座り、茶を飲むラージュナをちらりと見る。

「ラージュナ様の滞在中、きみがお相手をしてくれ」
「えっ?!」

 今度こそ声が出た。慌てて手で口を押さえるが、これに関しての叱責はない。

「驚くのも無理はない。私たちも驚かされた。慣例であれば、テュホン伯やラージュナ様のような立場の方をもてなすのは、国王か王太子に限られたこと。だが国王はともかく、まだ王子たちの中で立太子している者はいない」

 第一王子でさえまだ十歳で、成人していない。立太子は成人してから行われるから、どんなに早くてもあと六年ほどはかかるだろう。

「とすれば、王子たちの扱いは私たちにしてみれば同等。選ぶなら世話をされるラージュナ様が選んだほうが良いだろう……というわけで、ラージュナ様のご意向だ」
「ラージュナ様の……?」

 思わずラージュナの顔を見るが、彼は茶器に視線を落としていた。艶やかな長い黒の前髪が顔の右半分にかかり、陽が影を落としているから表情がよくわからない。

「明日からで構わない。よろしく頼む」
「はい……」

 拒否することなんてできるわけがない。レーファは頷くと、ぎこちない退出の挨拶をして応接の間を出た。
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