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04 皇国からの来訪者(2)
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湯浴みは、レーファが好きなカモミールがたっぷり浮かべられた湯だった。ヘアオイルも同様で、少しだけ気分が上がる。髪も肌もつやつやだ。
レーファに用意されたルンギー(フルレングス丈の巻きスカート)は、白地にグレーの錦糸で刺繍が施されたもの。風通しの良いクルタ(ロング丈のチュニック)の上に、黒地でオレンジや紫、黄色など華やかな錦糸での刺繍を施したシャルワニ(ロングコート状の上着)だ。
着込んでいき少しの化粧も施されると、ヴェルティスも支度をしてくれた侍女たちもうんうんと何か頷いている。支度の仕上がりに満足してくれたようだ。
宝飾品は、レーファが好むのは母の形見のブローチ。他、髪飾りや腕、首に着けるものに関しては侍女たちに任される。
支度が終わって指定された場所へ急げば、義兄王子たちもほぼ同時に王宮の入口に揃う。
「お越しです!」
間に合ったことにホッとした。
大きな馬車が停まり、中から誰かが降りてくる。二十メートルも離れたあたりから、父王が頭を垂れるのに倣って三人の王子たちも頭を垂れた。
「ようこそおいでくださいました。レト王国の国王リーニスト・アジャ・ナバフ・レトです。こちらの三人は我が王子。長男カズン、次男ヒーニア、三男レーファです」
「お目にかかれて光栄です」
「お見知りおきを」
「……おくつろぎください」
なんと言えばいいのかもわからず、それだけを言った。王が頭を上げた気配があるので、ゆっくりと頭を上げる。
目に映った竜人の貴人。
一目見て、あっと声をあげてしまうかと思った。
「出迎えご苦労。こちらテュホン伯爵、こちらが伯爵の甥であられるラージュナ様。私は伯爵の侍者長でユールだ」
「皆様お疲れでしょう、部屋も用意してございます」
「荷を運ばせても?」
「もちろんです。差し支えなければこちらからも運ばせましょう」
「では、一部を。ユール、指示を」
「は」
皇国の、袖の長い、布の多い煌びやかな衣装。色味はグレーや茶など落ち着いた色合いだが、刺繍や布地そのものが高価なものだと見て取れる。趣味の良い貴族の装いだ。
いや、そこではない。
(うそだろう?!)
この、伯爵の甥。そんなはずはない。
(……なんで、なんで……清潤がここに……?!)
竜王が来るとは聞いていない。
たぶん誰も知らないのだろう。皇国の貴人としか聞いていないに違いない。訪れたのが竜王だと知れたら、もっと大騒ぎになっていた。それだけはわかる。
「レーファ? 大丈夫か?」
「……だ、大丈夫」
もしかしたら清潤には双子の兄弟がいたりするだろうか。この後に催される宴の時にでもわかるかもしれないと思いつつ、なるべく皇国の者たちから視線を逸らした。
レーファに用意されたルンギー(フルレングス丈の巻きスカート)は、白地にグレーの錦糸で刺繍が施されたもの。風通しの良いクルタ(ロング丈のチュニック)の上に、黒地でオレンジや紫、黄色など華やかな錦糸での刺繍を施したシャルワニ(ロングコート状の上着)だ。
着込んでいき少しの化粧も施されると、ヴェルティスも支度をしてくれた侍女たちもうんうんと何か頷いている。支度の仕上がりに満足してくれたようだ。
宝飾品は、レーファが好むのは母の形見のブローチ。他、髪飾りや腕、首に着けるものに関しては侍女たちに任される。
支度が終わって指定された場所へ急げば、義兄王子たちもほぼ同時に王宮の入口に揃う。
「お越しです!」
間に合ったことにホッとした。
大きな馬車が停まり、中から誰かが降りてくる。二十メートルも離れたあたりから、父王が頭を垂れるのに倣って三人の王子たちも頭を垂れた。
「ようこそおいでくださいました。レト王国の国王リーニスト・アジャ・ナバフ・レトです。こちらの三人は我が王子。長男カズン、次男ヒーニア、三男レーファです」
「お目にかかれて光栄です」
「お見知りおきを」
「……おくつろぎください」
なんと言えばいいのかもわからず、それだけを言った。王が頭を上げた気配があるので、ゆっくりと頭を上げる。
目に映った竜人の貴人。
一目見て、あっと声をあげてしまうかと思った。
「出迎えご苦労。こちらテュホン伯爵、こちらが伯爵の甥であられるラージュナ様。私は伯爵の侍者長でユールだ」
「皆様お疲れでしょう、部屋も用意してございます」
「荷を運ばせても?」
「もちろんです。差し支えなければこちらからも運ばせましょう」
「では、一部を。ユール、指示を」
「は」
皇国の、袖の長い、布の多い煌びやかな衣装。色味はグレーや茶など落ち着いた色合いだが、刺繍や布地そのものが高価なものだと見て取れる。趣味の良い貴族の装いだ。
いや、そこではない。
(うそだろう?!)
この、伯爵の甥。そんなはずはない。
(……なんで、なんで……清潤がここに……?!)
竜王が来るとは聞いていない。
たぶん誰も知らないのだろう。皇国の貴人としか聞いていないに違いない。訪れたのが竜王だと知れたら、もっと大騒ぎになっていた。それだけはわかる。
「レーファ? 大丈夫か?」
「……だ、大丈夫」
もしかしたら清潤には双子の兄弟がいたりするだろうか。この後に催される宴の時にでもわかるかもしれないと思いつつ、なるべく皇国の者たちから視線を逸らした。
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