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06 遊園地
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そうして、模試の結果が出て新たな模試が終わったある晩秋の日。
絢斗は、葵と小さな遊園地にいた。
遊園地といっても夢の国や、港地区にあるようなオシャレな場所ではなく、下町に古くからある、少し泥臭い遊園地だ。案外こういう遊園地のほうが、同性の友人と遊ぶのは楽しいと知っていたからこそのチョイス。
先に神社やお寺にお参りしたのは、受験の合格祈願も含めてのこと。それからカフェでランチを食べ、のんびりと歩いて遊園地に至る。
「遊園地なんて、何年も来たことがありません」
園内を物珍しげに見ている葵が、ふと絢斗を顧みて言う。
「そうなんだ? 子どもを連れて行くとか、デートの定番コースだと思ってた」
「両親とも忙しい人たちですし……デートするような相手はいませんし」
「おや。じゃあ初デートはオレってことになる? ハジメテを貰っちゃって悪かったね」
「……言い方に語弊がある気がします」
むすりとする葵はなんだかかわいらしい。くくく、と喉の奥で笑うと、園内図を広げた。そう広くはないが、狭すぎるというほどでもない。
「あの小さい観覧車は最後のほうにしよう。ローラーコースターの後とか、回るもの系の後とか……疲れた時の休憩だね」
「こうしてみるとスピード系や遠心力で回ったり、振り回されたりするアトラクションが多いですね、小さい遊園地なのに」
「そうだね、それだけどこでも人気のアトラクションってことかな……あぁ、このアヒルに乗って高いところを漕いでいくやつ、体力系だけど面白そうじゃない? ちょうどふたり乗りだし……スピードは漕ぐ速さで変わるわけだから、目を回す心配もない」
「いいですね」
話がまとまりそうな時、不意に後ろから声をかけられた。
「あの、すみません」
振り返ると、若い女性ふたり組。おそらく大学生だろう。やや紅潮してテンションが高そうなノリには心当たりが何度もある。
ナンパだ。
彼女たちの話を聞けば予想通りで、だからといって驚きも感動もないが、断るのは苦労した。連れがいるからと言っても、葵もぜひ一緒にとだいぶ食い下がられたのだ。
けれど、思いがけないところから支援が飛んできた。
「……今日は、お兄ちゃんは僕とだけ遊んでくれる予定なんです。だからお姉さんたちは邪魔しないでください」
「……葵くん?」
絢斗の腕を両腕でギュッと抱きしめて引っ張り、怒ったように彼女らを睨む。ふたり組同様に絢斗もぽかんとしたが、ハッと気付いて「そうそう」と迎合して頷く。
「今日はかわいい弟分の誕生日でね……ワガママを何でも聞いてあげるって前々からの約束だから。ごめんね?」
いかにも申し訳なさそうにしてから、葵に引きずられるようにその場を去る。
ふたり組から見えない場所まで来ると、息を大きく吐き出す。腕も離された。
「なかなか演技派じゃないか」
「……言わないでください……」
葵はなんだか溜息をついているが、絢斗にしてみればうまい言い訳をひねり出すこともしなくて済んだのは僥倖だ。女の子たちを無駄に傷付けることもなかった。
「ありがとう、助かったよ。あんなに食い下がられるとは思わなかった」
「ほんとにモテますね……」
わかってましたけど、と、なんだか悔しそうに言うのはどうしてなのか。
「あんまり気にしなくていいよ。今日は葵優先なのは事実だし。葵が女の子とも遊びたいって言うなら別だけど」
「絢斗さんだけがいいです」
「……そう?」
あまりにもきっぱりと言われた言葉に少し引っかかるものを感じたが、どこに引っかかったのかわからないのでそのまま流しておくことにした。
「さっき言ってたアヒルの……スカイウォーカーだっけ。ちょうどこっちのほうみたいだから、行こう」
「はい」
絢斗は、葵と小さな遊園地にいた。
遊園地といっても夢の国や、港地区にあるようなオシャレな場所ではなく、下町に古くからある、少し泥臭い遊園地だ。案外こういう遊園地のほうが、同性の友人と遊ぶのは楽しいと知っていたからこそのチョイス。
先に神社やお寺にお参りしたのは、受験の合格祈願も含めてのこと。それからカフェでランチを食べ、のんびりと歩いて遊園地に至る。
「遊園地なんて、何年も来たことがありません」
園内を物珍しげに見ている葵が、ふと絢斗を顧みて言う。
「そうなんだ? 子どもを連れて行くとか、デートの定番コースだと思ってた」
「両親とも忙しい人たちですし……デートするような相手はいませんし」
「おや。じゃあ初デートはオレってことになる? ハジメテを貰っちゃって悪かったね」
「……言い方に語弊がある気がします」
むすりとする葵はなんだかかわいらしい。くくく、と喉の奥で笑うと、園内図を広げた。そう広くはないが、狭すぎるというほどでもない。
「あの小さい観覧車は最後のほうにしよう。ローラーコースターの後とか、回るもの系の後とか……疲れた時の休憩だね」
「こうしてみるとスピード系や遠心力で回ったり、振り回されたりするアトラクションが多いですね、小さい遊園地なのに」
「そうだね、それだけどこでも人気のアトラクションってことかな……あぁ、このアヒルに乗って高いところを漕いでいくやつ、体力系だけど面白そうじゃない? ちょうどふたり乗りだし……スピードは漕ぐ速さで変わるわけだから、目を回す心配もない」
「いいですね」
話がまとまりそうな時、不意に後ろから声をかけられた。
「あの、すみません」
振り返ると、若い女性ふたり組。おそらく大学生だろう。やや紅潮してテンションが高そうなノリには心当たりが何度もある。
ナンパだ。
彼女たちの話を聞けば予想通りで、だからといって驚きも感動もないが、断るのは苦労した。連れがいるからと言っても、葵もぜひ一緒にとだいぶ食い下がられたのだ。
けれど、思いがけないところから支援が飛んできた。
「……今日は、お兄ちゃんは僕とだけ遊んでくれる予定なんです。だからお姉さんたちは邪魔しないでください」
「……葵くん?」
絢斗の腕を両腕でギュッと抱きしめて引っ張り、怒ったように彼女らを睨む。ふたり組同様に絢斗もぽかんとしたが、ハッと気付いて「そうそう」と迎合して頷く。
「今日はかわいい弟分の誕生日でね……ワガママを何でも聞いてあげるって前々からの約束だから。ごめんね?」
いかにも申し訳なさそうにしてから、葵に引きずられるようにその場を去る。
ふたり組から見えない場所まで来ると、息を大きく吐き出す。腕も離された。
「なかなか演技派じゃないか」
「……言わないでください……」
葵はなんだか溜息をついているが、絢斗にしてみればうまい言い訳をひねり出すこともしなくて済んだのは僥倖だ。女の子たちを無駄に傷付けることもなかった。
「ありがとう、助かったよ。あんなに食い下がられるとは思わなかった」
「ほんとにモテますね……」
わかってましたけど、と、なんだか悔しそうに言うのはどうしてなのか。
「あんまり気にしなくていいよ。今日は葵優先なのは事実だし。葵が女の子とも遊びたいって言うなら別だけど」
「絢斗さんだけがいいです」
「……そう?」
あまりにもきっぱりと言われた言葉に少し引っかかるものを感じたが、どこに引っかかったのかわからないのでそのまま流しておくことにした。
「さっき言ってたアヒルの……スカイウォーカーだっけ。ちょうどこっちのほうみたいだから、行こう」
「はい」
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