音痴の俺が転移したのは歌うことが禁じられた世界だった

改 鋭一

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第六幕 踊り子

 間奏曲 ~作戦報告書~

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作戦報告書 第23号



作戦開始日時:黙呪暦255年5月8日午前1時

作戦終了日時:同日午前2時40分

作戦地:北西区イズ地方 イズ町温泉街



責任部隊:北西区親衛隊イズ地方分隊

出動部隊:北西区親衛隊イズ地方分隊より分隊長を含む3名

出動眷属:タウロ

補佐眷属:ヌエ



作戦結果:成功

作戦成果:歌い手被疑者1(ソウタ) →死亡(死体は未確認)

     歌い手被疑者2(ニコ) →死亡(死体は未確認)

     その他 住宅損壊 2棟 部分焼失 5棟



味方被害:眷属 タウロ   →死亡(確認済み)

     黙呪兵300体 →全滅(確認済み)

     分隊長 ゾラ  →負傷(骨折6カ所、一部内臓損傷で全治2ヶ月)



作戦経過:
黙呪暦255年4月15日:被疑者1が潜伏先のボナを出て南方に向かったとの情報あり。

5月2日:被疑者1がイズ町にいるとの情報あり。

5月4日:黒髪の男女が温泉街近くの滝にいたとの情報あり。被疑者1と被疑者2が同行していると推測された。

5月5日:作戦会議にて作戦実行が決定される。作戦番号は255年度第23号。

5月7日午後11時30分:現地到着、黙呪丸の播種開始。

5月8日午前0時30分:黙呪丸の播種完了。

同午前0時50分:分隊展開、眷属配置、準備完了。

午前1時0分:作戦開始。黙呪兵孵化、「炎歌」指示。雨のため、なかなか住宅に着火せず。眷属待機。

午前1時15分:歌い手被疑者1が町にいないことが判明。分隊長判断で作戦は続行。

午前1時40分:被疑者1が町に現れる。被疑者2も同行。支援者2名(うち1名はナジャのレジスタンス組織責任者)と共に、歌術および剣術で黙呪兵を攻撃。黙呪兵50体以上が倒される。

午前1時50分:被疑者1・2が支援者2名とともに町の中央部に移動。奇妙な歌術と奏術を使う。残った黙呪兵が全て被疑者達の周りに集合、機能停止される。その上で奏鳴剣と思われる武器で大規模歌術を発動し、全黙呪兵が一気に殲滅される。

午前1時55分:待機中の眷属タウロが分隊長の制止を聞かず町の中央部に移動。

午前1時58分:タウロが制止する分隊長に暴力を振るい、分隊長は重傷を負う。隊員2名が癒歌を使い救護に当たる。

午前1時59分:被疑者1が歌術でタウロの左目を負傷させ戦闘開始。

午前2時06分:タウロが右手に重傷を負う。

午前2時13分:支援者の使った蔦歌でタウロが転倒。そこで被疑者1が何らかの歌術を使った模様。

午前2時15分:タウロが支援者を追い詰めるが、壊れた斧の刃が自身の背中に命中し瀕死の重傷を負う。

午前2時18分:被疑者1によりタウロが殺害される。

午前2時23分:親衛隊員が隙を見て橋を破壊し、被疑者1はイズ川に転落する。その後、被疑者2も自ら川に飛び込み、両名とも流される。

午前2時40分:両名ともイズ滝より落下、死亡した(ただし死体は未確認)。作戦を終了した。



作戦考察:
被疑者1は負傷しており十分な戦闘力を持たないとの事前情報があったが、作戦時点では上記のように驚異的な戦闘力を示した。イズ町に到着後、作戦実行までに時間があったことから、回復されてしまったものと思われる。

また歌い手の持つ属性耐性を鑑み、今回は物理攻撃を重視しタウロを派遣したが、準備期間が短かったこともあり親衛隊とのコミュニケーションがとれず、共闘作戦がほとんど機能しなかった。さらに分隊長判断で現地入りする親衛隊員を3名に絞ったのも失敗であった。

逃走手段として用意していた橋の爆破によって被疑者1がイズ川に転落したことと、被疑者2も自ら川に飛び込むという愚挙に出たことで辛くも作戦は成功したが、これは僥倖というべきであり、古参の眷属であるタウロを亡くし、少なくない数の黙呪兵は全滅、分隊長も重傷を負うなど、その犠牲は非常に大きく、反省すべき点も多い。結果を除けば作戦自体はほぼ失敗とも言える。

イズ滝は落差1500メートル以上であり、落下して助かる者はいない。被疑者たちの死亡は間違いないと考える。ただし超高速で海面に叩きつけられるため、死体は四散してしまうことが多い。死体の回収、確認は困難と思われる。

被疑者1はともかく、急速に歌い手化が進んでいた被疑者2についても、死体解剖により身体変化を調べることができなくなったのは非常に残念である。



その他:
何はともあれ、被疑者1・2の死亡により、現時点で大陸に存在する脅威は一掃された。

南西区など過疎地域での親衛隊駐留は、人件費、維持費などで王国の財政をかなり圧迫しているため、いったん規模を縮小し負担を軽減することも考慮されるべきであろう。

また近年、今回のような親衛隊幹部職の独断専行が目につく。明らかに人の上に立つ資質に欠ける者が幹部職にあぐらをかいているケースも散見される。今後も黙呪王様の治世を永く続けて行くためには、親衛隊組織の根本的な機構改革が望まれる。



添付資料:イズ地方地図、イズ温泉街見取り図、黙呪丸播種予定図



報告日:黙呪暦255年5月9日

報告者:眷属 ヌエ
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