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第一幕 歌のない世界
出ていけ!
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ニコの家の前に集まっていたのは村人たちだ。ざっと十数人、若い男衆が主だが、オジさんオバさんも混じってる。
俺たちが畑から戻ってきたのを見て、
「どういうことだ!? 村の上を魔物が飛んだぞ」
「さっきの雷はなんだ!? よそ者が何かやらかしたんじゃないのか?」
「おいよそ者! ニコちゃんを危険な目に遭わせたんじゃないだろうな!」
そんなことを口々に言いながら詰め寄って来た。
俺とこの男衆とはいろいろ因縁がある。
というのも、みなニコにご執心みたいで、ある日突然現れて、ニコと仲良くしてる、どころか一つ屋根の下で暮らしてる俺に対して、無茶苦茶風当たりがきついんだ。
男衆にとってニコはアイドルだ。だから、俺への感情はやっかみや嫉妬を超えてもはや憎悪になってる。
例えば俺がお使いで買い物に行くだろ。兄ちゃんたちがやってる肉屋と魚屋では、まともに買い物させてもらえない。
「ああ!? お前なんかに売ってやる肉はねえよ! 帰れ帰れ!」
「てめえにはこの魚がお似合いだ! 持ってけ、よそ者!」
腐った魚を投げつけられる。
まるで子供のイジメだ。話にならない。八百屋のオバちゃんが見かねて余った肉と魚を分けてくれたぐらいだ。
ニコと一緒に行けばどうにか商品は売ってもらえるが、俺だけ足を引っかけられたり石を投げられたりする。ひどいだろ?
もう最近は村に行くだけでもドキドキするし、肉屋と魚屋の方角には決して足が向かなくなってしまった。
「よそ者を追い出せ!」
「よそ者は出て行け!」
「出て行け! 出て行け!」
男衆はだんだんテンションが上がってきて、今や目を血走らせ口から唾を飛ばしながら大声でわめいている。
ジゴさんは大きく両手を広げ、俺とニコを後にかばいながら家の中に入ろうするが、男衆に邪魔されてなかなか玄関に近づけない。
「この子はよそ者じゃない。親戚の子だ。うちで預かってるだけだ」
ジゴさんもナギさんも、いつもそう言って俺の素性をごまかしてくれてる。しかしある理由でそれが嘘だということはバレバレだ。
「嘘をつけ! そんな真っ黒い髪の人間がいるか! そいつはよそ者だ!」
そう。元の世界で当たり前のこの黒髪は、この大陸では極めて珍しい。
というか実際、こっちで黒髪は見たことがない。たいていみな茶髪か赤髪で、時々金髪の人がいるぐらいだ。
「黒い髪は呪いの髪だ! 村に災いをもたらすぞ!」
「さっき村の上を黒い魔物が飛んだのは災いの前兆よ!」
「出て行け! 黒い髪は出て行け!」
多少は分別があるかと思ってたオジさん、オバさんまで一緒になってまくし立てる。
ある意味、魔物なんかより、憎悪で結集した人間の方がたちが悪い。
自慢じゃないが俺のハートは強くない。中学2年の時には音痴が元でクラスでハブられ、半年ほど学校へ行けなかったさ。
同級生でもそれだ。まして大勢の大人からここまでの敵意や攻撃を受けたことなんてない。俺の肝っ玉はすっかり縮み上がってしまい、ニコと2人、黙って固まってるしかなかった。
ここでみんなに謝った方がいいのかな。でも謝って許してもらえるんだろうか?
せっかくジゴさんがかばってくれてるのに俺の方が謝ってしまったら、その方がまずいことになってしまうんじゃ?
っつーか一体何を謝るんだ? 歌ったことは確かにまずかったが、こいつらには何も迷惑かけてないだろ。髪が黒いことなんてどうしようもないし。
いや、それでも四の五の言わずとりあえず謝った方がいいのか?
俺の頭の中はさっきからもう混乱しっぱなしでぐちゃぐちゃだ。
その時、玄関の扉がバタンと開いた。
そこに立っていたのはナギさんだ。
「ちょっとあんた達! 黙って聞いてれば、ウチの子に何てこと言うのよ!」
腰に手を当て仁王立ちで声を荒げるその姿は、いつもの優しく穏やかなナギさんとは全く別人だ。女神が大魔神に変身したかのような迫力だ。
「よそ者よそ者って誰に言ってるのよ! この子は親戚の子だって言ってるでしょ。ウチに1年もいたらもうウチの子よ。黒い髪がどうしたって言うのよ。『災いをもたらす』って? 何バカなこと言ってんの。髪なんてインクでもかぶれば誰でも黒くなるでしょ。何だったら今からあんた達のその空っぽ頭にインクぶっかけてやろうか!?」
すごい剣幕でまくし立てられ、さすがの村人たちもたじたじとなった。その隙に俺とニコは玄関の中に逃げ込んだ。
ニコは俺にすがってしくしく泣いている。彼女の背中をぽんぽんしてやりながら外の様子に聞き耳を立てた。
ナギさんに押されて村人たちのテンションは下がったが、それでもまだぐずぐず文句を言ってる奴がいる。それを一つ一つ反駁して相手を封じ込んでるのが小気味良い。俺を『ウチの子』と言ってくれたこともすごく嬉しい。
しばらくして、村人たちはぶつぶつ言いながら帰って行った。
ジゴさんとナギさんは中に入って玄関の扉をガチャリと閉め、2人ともふーっと大きくため息をついた。
その瞬間、俺はその場に身を投げ出し、額を床にすり付けた。
「ジゴさん、ナギさん、すいません。ごめんなさい。申し訳ありません」
それはもう、打算から出た行動ではなく、身体が勝手に動いてしまったものだった。俺はこの世界の言葉で知っているだけの謝罪の言葉を並べたが、それでも申し訳なくて情けなくて、勝手に涙が溢れてきた。
「……」
息苦しい沈黙が流れる。ようやっと口を開いてくれたのはジゴさんだった。
「ソウタ……その、立ってるのが疲れたんなら椅子に座ったらいいぞ。何で床に寝てるんだ?」
うっ!
やはりそうか。この世界では土下座は謝罪の意味には受け取ってもらえないんだ。
恐る恐る顔を上げると、ジゴさんやナギさんだけではなくニコまでも、困惑の表情を浮かべて俺を凝視しており、その頭の上には『?』マークが浮かんでいた。
謝罪どころか意味不明のパフォーマンスを演じてしまったことを悟り、俺はもう全く立つ瀬がなかった。今すぐ3メートルぐらい穴を掘って落下したい気分だった。
しかしその時、ニコが俺に歩み寄り、手をとって起こしてくれた。
「ソウタ、椅子に座ろう?」
その笑顔はまさに救いの天使だった。俺は拳で涙を拭って起き上がり、椅子に座った。ニコも俺の隣に腰かけた。
「ソウタ、これで分かったろ? 歌うことがどんなに恐ろしいことか」
ジゴさんはもう穏やかな口調だ。俺は黙ってこっくりうなずくしかなかった。
「黙呪王の禁を破った者は王の放った魔物に殺される。仮に魔物に殺されなくても人に疎まれ嫌われ、その土地では生きていけなくなる。それがこの世のしきたりだ」
これまでこの辺りで『魔物』なんて見たこともなかったが、本当に魔物は来た。そして本気で殺しにかかってきた。何故かすんでの所で殺されなかったが、あれはマジで殺される3秒前だった。
そして村人たちも来た。元々俺はこの村であまり歓迎されてはいなかったが、今日ははっきり敵意と憎悪を突きつけられ、みなに「出て行け」と言われた。ジゴさんやナギさんがいなければどんな目に遭わされたか分からない。
全て俺が歌ったせいだ。
歌っただけでこんなことになるなんて……俺は悲しかった。無性に悲しかった。やはりこの世界で暮らす限り、歌や音楽は一切ダメなのか。
「ソウタが元々暮らしてた世界は、歌や音楽がいっぱいだったのよね?」
ナギさんが優しく尋ねてくれる。
「……そうです」
「ソウタは音楽が好きだったのよね?」
「……大好きでした。朝から晩まで音楽と一緒に生活してました。下手でしたけど歌うのは大好きでしたし、楽器もいろいろ弾きます。曲を作るのも好きでした」
「さっきね、ソウタが歌ってくれたの、すごかったのよ。いろんな言葉をメロディーに乗せて歌うの。私、全身がぞくぞくして頭が真っ白になるぐらいだった」
ニコが口を挟んだ。そうか。俺の音痴な歌でそんなに感動してくれたんだ。ありがとう。
「ほう! それはソウタが自分で作った歌なのか?」
ジゴさんが興味津々といった顔で尋ねる。嘘を言う必要もない。正直に答えよう。
「はい。実は……」
「へええ、そうか。何について歌った歌なんだ?」
え、そこまで食いつかれても困るんだが……仕方ない。白状しよう。
「あの、実は、ニコについて歌った歌です」
あれはラブソングだ。歌詞に『俺の天使』とかクサい表現がいっぱい入ってる。
言ってしまってからニコの反応が気になってチラ見してみるが、ニコには伝わらなかったようだ。キョトンとしている。ホッとしたような、残念なような。
「ほう、そりゃあすごい。ぜひ私たちも聴きたいところ……おっほん、ほん」
無理矢理咳き込んで語尾を誤魔化したが、そうか、ジゴさんは根本から歌や音楽を否定しているわけじゃないんだ。ちょっとホッとした。
ジゴさんは意を決したように、息継ぎをして話し始めた。
「あのな、ソウタ。ニコも聞いておいてくれ。実はな、この世界でも堂々と歌を歌う方法はあるんだ」
「ええっ! 本当ですか?」
俺は思わず座り直した。
俺たちが畑から戻ってきたのを見て、
「どういうことだ!? 村の上を魔物が飛んだぞ」
「さっきの雷はなんだ!? よそ者が何かやらかしたんじゃないのか?」
「おいよそ者! ニコちゃんを危険な目に遭わせたんじゃないだろうな!」
そんなことを口々に言いながら詰め寄って来た。
俺とこの男衆とはいろいろ因縁がある。
というのも、みなニコにご執心みたいで、ある日突然現れて、ニコと仲良くしてる、どころか一つ屋根の下で暮らしてる俺に対して、無茶苦茶風当たりがきついんだ。
男衆にとってニコはアイドルだ。だから、俺への感情はやっかみや嫉妬を超えてもはや憎悪になってる。
例えば俺がお使いで買い物に行くだろ。兄ちゃんたちがやってる肉屋と魚屋では、まともに買い物させてもらえない。
「ああ!? お前なんかに売ってやる肉はねえよ! 帰れ帰れ!」
「てめえにはこの魚がお似合いだ! 持ってけ、よそ者!」
腐った魚を投げつけられる。
まるで子供のイジメだ。話にならない。八百屋のオバちゃんが見かねて余った肉と魚を分けてくれたぐらいだ。
ニコと一緒に行けばどうにか商品は売ってもらえるが、俺だけ足を引っかけられたり石を投げられたりする。ひどいだろ?
もう最近は村に行くだけでもドキドキするし、肉屋と魚屋の方角には決して足が向かなくなってしまった。
「よそ者を追い出せ!」
「よそ者は出て行け!」
「出て行け! 出て行け!」
男衆はだんだんテンションが上がってきて、今や目を血走らせ口から唾を飛ばしながら大声でわめいている。
ジゴさんは大きく両手を広げ、俺とニコを後にかばいながら家の中に入ろうするが、男衆に邪魔されてなかなか玄関に近づけない。
「この子はよそ者じゃない。親戚の子だ。うちで預かってるだけだ」
ジゴさんもナギさんも、いつもそう言って俺の素性をごまかしてくれてる。しかしある理由でそれが嘘だということはバレバレだ。
「嘘をつけ! そんな真っ黒い髪の人間がいるか! そいつはよそ者だ!」
そう。元の世界で当たり前のこの黒髪は、この大陸では極めて珍しい。
というか実際、こっちで黒髪は見たことがない。たいていみな茶髪か赤髪で、時々金髪の人がいるぐらいだ。
「黒い髪は呪いの髪だ! 村に災いをもたらすぞ!」
「さっき村の上を黒い魔物が飛んだのは災いの前兆よ!」
「出て行け! 黒い髪は出て行け!」
多少は分別があるかと思ってたオジさん、オバさんまで一緒になってまくし立てる。
ある意味、魔物なんかより、憎悪で結集した人間の方がたちが悪い。
自慢じゃないが俺のハートは強くない。中学2年の時には音痴が元でクラスでハブられ、半年ほど学校へ行けなかったさ。
同級生でもそれだ。まして大勢の大人からここまでの敵意や攻撃を受けたことなんてない。俺の肝っ玉はすっかり縮み上がってしまい、ニコと2人、黙って固まってるしかなかった。
ここでみんなに謝った方がいいのかな。でも謝って許してもらえるんだろうか?
せっかくジゴさんがかばってくれてるのに俺の方が謝ってしまったら、その方がまずいことになってしまうんじゃ?
っつーか一体何を謝るんだ? 歌ったことは確かにまずかったが、こいつらには何も迷惑かけてないだろ。髪が黒いことなんてどうしようもないし。
いや、それでも四の五の言わずとりあえず謝った方がいいのか?
俺の頭の中はさっきからもう混乱しっぱなしでぐちゃぐちゃだ。
その時、玄関の扉がバタンと開いた。
そこに立っていたのはナギさんだ。
「ちょっとあんた達! 黙って聞いてれば、ウチの子に何てこと言うのよ!」
腰に手を当て仁王立ちで声を荒げるその姿は、いつもの優しく穏やかなナギさんとは全く別人だ。女神が大魔神に変身したかのような迫力だ。
「よそ者よそ者って誰に言ってるのよ! この子は親戚の子だって言ってるでしょ。ウチに1年もいたらもうウチの子よ。黒い髪がどうしたって言うのよ。『災いをもたらす』って? 何バカなこと言ってんの。髪なんてインクでもかぶれば誰でも黒くなるでしょ。何だったら今からあんた達のその空っぽ頭にインクぶっかけてやろうか!?」
すごい剣幕でまくし立てられ、さすがの村人たちもたじたじとなった。その隙に俺とニコは玄関の中に逃げ込んだ。
ニコは俺にすがってしくしく泣いている。彼女の背中をぽんぽんしてやりながら外の様子に聞き耳を立てた。
ナギさんに押されて村人たちのテンションは下がったが、それでもまだぐずぐず文句を言ってる奴がいる。それを一つ一つ反駁して相手を封じ込んでるのが小気味良い。俺を『ウチの子』と言ってくれたこともすごく嬉しい。
しばらくして、村人たちはぶつぶつ言いながら帰って行った。
ジゴさんとナギさんは中に入って玄関の扉をガチャリと閉め、2人ともふーっと大きくため息をついた。
その瞬間、俺はその場に身を投げ出し、額を床にすり付けた。
「ジゴさん、ナギさん、すいません。ごめんなさい。申し訳ありません」
それはもう、打算から出た行動ではなく、身体が勝手に動いてしまったものだった。俺はこの世界の言葉で知っているだけの謝罪の言葉を並べたが、それでも申し訳なくて情けなくて、勝手に涙が溢れてきた。
「……」
息苦しい沈黙が流れる。ようやっと口を開いてくれたのはジゴさんだった。
「ソウタ……その、立ってるのが疲れたんなら椅子に座ったらいいぞ。何で床に寝てるんだ?」
うっ!
やはりそうか。この世界では土下座は謝罪の意味には受け取ってもらえないんだ。
恐る恐る顔を上げると、ジゴさんやナギさんだけではなくニコまでも、困惑の表情を浮かべて俺を凝視しており、その頭の上には『?』マークが浮かんでいた。
謝罪どころか意味不明のパフォーマンスを演じてしまったことを悟り、俺はもう全く立つ瀬がなかった。今すぐ3メートルぐらい穴を掘って落下したい気分だった。
しかしその時、ニコが俺に歩み寄り、手をとって起こしてくれた。
「ソウタ、椅子に座ろう?」
その笑顔はまさに救いの天使だった。俺は拳で涙を拭って起き上がり、椅子に座った。ニコも俺の隣に腰かけた。
「ソウタ、これで分かったろ? 歌うことがどんなに恐ろしいことか」
ジゴさんはもう穏やかな口調だ。俺は黙ってこっくりうなずくしかなかった。
「黙呪王の禁を破った者は王の放った魔物に殺される。仮に魔物に殺されなくても人に疎まれ嫌われ、その土地では生きていけなくなる。それがこの世のしきたりだ」
これまでこの辺りで『魔物』なんて見たこともなかったが、本当に魔物は来た。そして本気で殺しにかかってきた。何故かすんでの所で殺されなかったが、あれはマジで殺される3秒前だった。
そして村人たちも来た。元々俺はこの村であまり歓迎されてはいなかったが、今日ははっきり敵意と憎悪を突きつけられ、みなに「出て行け」と言われた。ジゴさんやナギさんがいなければどんな目に遭わされたか分からない。
全て俺が歌ったせいだ。
歌っただけでこんなことになるなんて……俺は悲しかった。無性に悲しかった。やはりこの世界で暮らす限り、歌や音楽は一切ダメなのか。
「ソウタが元々暮らしてた世界は、歌や音楽がいっぱいだったのよね?」
ナギさんが優しく尋ねてくれる。
「……そうです」
「ソウタは音楽が好きだったのよね?」
「……大好きでした。朝から晩まで音楽と一緒に生活してました。下手でしたけど歌うのは大好きでしたし、楽器もいろいろ弾きます。曲を作るのも好きでした」
「さっきね、ソウタが歌ってくれたの、すごかったのよ。いろんな言葉をメロディーに乗せて歌うの。私、全身がぞくぞくして頭が真っ白になるぐらいだった」
ニコが口を挟んだ。そうか。俺の音痴な歌でそんなに感動してくれたんだ。ありがとう。
「ほう! それはソウタが自分で作った歌なのか?」
ジゴさんが興味津々といった顔で尋ねる。嘘を言う必要もない。正直に答えよう。
「はい。実は……」
「へええ、そうか。何について歌った歌なんだ?」
え、そこまで食いつかれても困るんだが……仕方ない。白状しよう。
「あの、実は、ニコについて歌った歌です」
あれはラブソングだ。歌詞に『俺の天使』とかクサい表現がいっぱい入ってる。
言ってしまってからニコの反応が気になってチラ見してみるが、ニコには伝わらなかったようだ。キョトンとしている。ホッとしたような、残念なような。
「ほう、そりゃあすごい。ぜひ私たちも聴きたいところ……おっほん、ほん」
無理矢理咳き込んで語尾を誤魔化したが、そうか、ジゴさんは根本から歌や音楽を否定しているわけじゃないんだ。ちょっとホッとした。
ジゴさんは意を決したように、息継ぎをして話し始めた。
「あのな、ソウタ。ニコも聞いておいてくれ。実はな、この世界でも堂々と歌を歌う方法はあるんだ」
「ええっ! 本当ですか?」
俺は思わず座り直した。
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