異世界召喚戦記

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第14章 魔物の森に飲まれた都市

第2話 聖騎士2人との稽古

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レナトス暦 7017年

異世界召喚 299日目

城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領185日目
ロムニア国建国宣言より184日目
スタンツァ・ガリア占領177日目
鉄門砦陥落140日目
協定会議・敵討ちより118日目

スタンツア・ガリアを出発し、101日目

ティムリヤン国を出発し21日目

港町スフーレを出発し…12日目




「あっ、まって違うのよ」

慌てて聖騎士ルージュ・シュヴァリエは、聖騎士スピカとチェルの間に入った。

「ごめんなさい。スピカは、声が出せないの」

聖騎士ルージュは、黒騎士へ頭を下げると、スピカへ向き直り…

「もう、スピカ! 私が黒騎士に頼むからって言ったでしょう!」

そう言いながら聖騎士ルージュは、両手で聖騎士スピカを数歩後方に押しやった。
そして、黒騎士達へ再び向き直ると…

「で、黒騎士、提案があるのだけれど?」

「提案?」

黒騎士は、チェルを傍らに座らせながら聖騎士ルージュを見る。

「そう、湾岸都市セヴァンまで、私達と毎日剣の稽古をしない?」

「俺は、剣の稽古相手は不足していない」

黒騎士の隣に強引に座らせられたチェルは、ウンウンと頷く。

「ふむ、聖騎士と稽古か…黒騎士やれ」

教皇と話ながら肉のシチューを食べていたテテスが、話に割り込んでくる。

「いや…しかし、闘技場で剣を交えた相手と稽古など…」

命を懸けているとはいえ、闘技場で戦った相手というだけなら悩まない。
黒騎士(博影)は、教皇リタヴィス・ケルト…聖ギイスとは、正面切って争う事にはならないと考えていた。
しかし、教皇に処刑されたルブロン・ザールブル枢機卿の例もある。
教皇に仕える聖騎士とはいえど、戦場で敵として戦う可能性がある…その相手とは…

「黒騎士、貴様程度の武技が知られることになろうが問題はない。
それよりも、聖騎士2人の手の内を知ることの方がメリットが高いし、真剣に打ち込んでくる格上の相手だからこそ、貴様の成長につながるであろう」

「ほう、テテスが黒騎士の事を考えるとは…」

「うるさいぞドレア、ジジイは黙っていろ」

…いや、7千年以上生きている化石から、ジジイなどと呼ばれたくはないが…

と、ドレアは思いつつも笑って流す。
しかし、その黒騎士の様子をルーナは心配そうに見つめる。

「聖騎士ルージュ、その提案受け入れよう」

「黒騎士、感謝するわ。じゃぁ、さっそく始めましょう。最初、私が1時間、10分の休憩後、スピカも1時間でお願いするわ」

聖騎士ルージュは、にっこりと黒騎士へ微笑み、聖騎士スピカは、少し頷く。そして、30分から1時間ほどと考えていた黒騎士は、苦笑いを浮かべつつ、少し後悔する。


……


食事場所のかまどから、100m程離れた場所の四方に篝火が焚かれ稽古場がつくられた。


カッ…ガキン、ガキン……キーン…ガキッ

満天の星空の元…剣戟による火花が幾度となく散る。
篝火に照らされた黒い影が、何度も激しくぶつかり合う。

「ふむ、10分の休憩をはさんだけど、ほぼ2時間ぶっ続けで出来るなんて、魔法陣、魔力のおかげ…それとも、あの細い体に魔物の力でも宿っているのかな?」

聖騎士ルージュは、楽しそうに言いながらも両目を見開き、傍らに座るドレアの表情を観察する。

「そうだな…黒騎士は、貴様たちや我らと違い、目は赤くなっていない。魔物の力ではないと思うがな…」

ドレアは、あまり興味なさそうに聖騎士ルージュに相槌を打つ。

「ふ~ん、目は赤くなってはいない…か、赤くならない…とは言わないのね…」

聖騎士ルージュは、ドレアの顔を覗き込むが…ドレアの表情に変化はない。

ドレアの目は…先ほどと変わらず、黒騎士の振るう剣に、剣を合わせ受けている聖騎士スピカの動きをじっくりと見ていた。
それは、遠巻きに見ている鉄意騎士団騎士も皆同じであった。

…聖騎士…一対一では、今の我らでは、叶う相手ではない…何人で囲み、どのようにすれば倒せるのか…

それぞれが、静かに考えていた。


黒騎士と聖騎士2人の稽古は、刃を潰してあるとはいえ聖石をはめてあるウーヌスナイト用の剣である。
黒騎士の黒い武具や聖騎士が装着しているドラゴンメイルでなければ、渾身の一撃を受ければ、大きな負傷をしてしまうだろう。

そして、打合せ通り、最初の30分は聖騎士スピカが、全力で黒騎士に打ち込み、後半の30分は、黒騎士の打ち込みに聖騎士スピカが合わせていた。
これは、最初に1時間の稽古を行った聖騎士ルージュも同じであった。

「そろそろ時間だな…」

ドレアはそう言うと、二人の間に短剣を投げ入れた。二人はゆっくりと離れる。そして、黒騎士は地面に刺さっている短剣を引き抜くと、ドレアへ近づき渡し地面に座り込んだ。

「きついか?」

「2時間ぶっ続けだからね、もう立てない」

そのまま地面に寝転ぶ…すると、黒い武具が、ゆっくりと霧のように溶けだし黒い術袋に流れていく。
数分後、黒騎士は、黒いローブ姿となっていた。
ドレアは、つくづく便利な武具だ…と思いつつ…

「黒騎士、お前が毎日欠かさず1時間の形稽古を続けている事は知っている。きついだろうが、この2時間は、お前にとってかなり効率の良い稽古となろう。
やつらに若干手の内をさらけ出すことにはなるが…まぁ、お前の技量など未だトレースナイト(下級騎士)にやっと届くか…というレベルだからな。
知られても、全く問題はない」

「マッタク…モンダイハナイ」

肩で息をしながら寝転がる黒騎士の顔を覗きながら、チェルはドレアの言葉を真似て黒騎士をからかう。
すると…

「たしかに…今さら黒騎士の剣の腕が暴かれようと…」

「まったく問題はない」

…くっくっくっ…

更にゲオルが真似ると、周りの鉄意基壇騎士達が必死に笑いを押し殺した。

「まったく、こっちは一生懸命なのに…」

黒騎士がひがむようにつぶやくと…

「そうひがむな。お前の努力は皆理解している。だからこそ、大声では笑わぬのだ」

そういうシスティナも、顔が笑っている。

「黒騎士様、そのまま寝転がっていると寝てしまいますよ。きついでしょうけど、お風呂をすませましょう」

ルーナとシスティナに起こされ、黒騎士は河川敷の風呂へ向かった。


………


システィナとルーナに連れられ、河川敷の風呂場へ行く。

「ミハッテテヤル…」

いつの間にか後ろからついてきていたチェルが、スコイ(狼♂)を連れ河川敷のお風呂を見下ろす丘へ上がっていく。
教皇は、黒竜リグ・ヴリトラの従者であり、テテスと旧知の中?との事で素顔をさらしたが、闇夜の中とはいえ、聖騎士2人に素顔をさらすわけにはいかない。
ゆっくり回りを見渡すと、どうやら数人の鉄意騎士団騎士達も護衛としてついてくれているようだった。

黒騎士は、黒いローブや顔の下半分を覆うマスクを外し、全裸になると大きな石をくりぬいて作った浴槽の傍へ腰を下ろし、石鹸と布で首や腕をこすりだす。

「どれ、背中でもこすってやろう」 

「えっ?」

黒騎士(博影)が、首を回すと背後にシスティナとルーナが座っていた。

「いやいや、体は自分で洗うよ」

「いやべつに全身洗うとはいっていないぞ。背中を洗ってやろうというのだ」

「私は、全身洗いたいです」

なんとか2人の強引な絡みを退け、体を洗い湯船につかる。近くに2人が腰をおろした。


「こういう、のんびりした雰囲気も良いものだな」

システィナは、夜空を見ながら右手を湯船につける。そして、左手でゆっくりと腕をほぐしながら、黒騎士(博影)、ルーナとのこの静かな時間に幸せを感じた。

「シス、その右腕の…ファフニール・ベルンの事、テテスや教皇に聞かないの?」

両膝を抱え座るルーナが、システィナへ顔を向け小さく尋ねた。

「そうだな…」

システィナは、湯船につかる右腕を見つめる。その様子を見ながら黒騎士が口を開く。

「気にならないと言えばうそになるけど、焦る必要はないと思う」

黒騎士(博影)は、システィナの右手を握る。
システィナは、黒騎士(博影)の右手を握り返しながら…

「まずは湾岸都市セヴァン、そしてロムニア国へ帰るという大きな事がある。テテスもロムニア国へ行くのだから、いずれ聞く機会もあるだろう。
それに…誰しも…聞かれたくない事、話しづらいことはある。
ファフニール・ベルンがそのような気持ちなら、私は彼女の気持ちを尊重したいと思う」

まるで、自らの気持ちを、絞り出しているような表情のシスティナのおでこへ手を伸ばし、ゆっくり髪をかき分けながら、システィナの頭を撫でた。

「ふふっ、博影ありがとう。今日は、ゆっくり眠りたいな」

そう言うとシスティナは、博影の首へ両手を回し少し長めの口づけをした。




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