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第8章 ロムニア国 建国編 都市ガラン・ブザエ
第9話 エリュトロンアルクダ 討伐4
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異世界召喚 139日目
イシュ王都を出発し、42日目
城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領23日目
ロムニア国建国宣言より22日目
城塞都市ロムニアを出発し18日目
スタンツァ・ガリア占領15日目
都市ガラン3日目
ブルラ村2日目
何度も遠吠えを繰り返していた狼は……
両耳をピクピクと動かしていたかと思うと、遠吠えをやめ、アルクダの匂い…足音に集中する。
しかし、アルクダの執拗な攻撃で、あちこちにアルクダの匂いがばらまかれ…
そして、アルクダから滴り落ちる血の匂いがあたりに充満し…
狼は、匂いでアルクダが潜んでいる場所を、嗅ぎ分ける事は出来なくなっていった。
辺りが急に少し薄暗くなる。空を見ると、いつの間にか、空一面雨雲が広がっている。
僅かではあるが、雨が降り出した。
雨音が、アルクダの足音…気配を消していく。
「天もアルクダに味方するのか…」
思わず若い騎士から、弱音がこぼれる。
アルクダは、執拗に…なんども突撃してくる。
そのたびに、騎士達が大盾で防御する。アルクダは、前足での攻撃などしないまま、素早く藪の中に身をひそめる。
身を隠し、突撃時に魔力を高めればよいアルクダと異なり、博影は、いつ飛び出してくるかわからない襲撃の為、魔法陣の力を弱めるわけにはいかない。
魔法陣の力を弱め、その隙にアルクダが騎士に全力の一撃を入れれば……騎士は、致命傷を負うだろう。
アルクダを警戒しながら、皆で話し策を幾度となく変える。
藪に逃げ込むアルクダへ、槍を投げつける………
魔力を高めているアルクダには、槍は刺さらない。
藪に逃げ込んだアルクダへ、魔法陣の力を加え矢を放つ………
素早く藪に潜むアルクダに、かすりもしない。
魔法陣を広げ、藪に逃げ込んだアルクダを追ってみる………
アルクダの素早さに、速さについてはいけない。
騎士前列も盾を置き、剣を構え…魔力を高め突進してくるアルクダを、決死の覚悟で一人が剣で抑え、両隣の騎士が、アルクダの首筋へ渾身の切っ先を突き立てる。
切っ先は、アルクダの太い首に刺さり…肉を削るが…アルクダは怯まない。
身を削られていくが…藪の中で休息をとれるアルクダと、一時たりとも、張り詰めた気を緩められない博影達とでは、体力も精神力も…消耗の度合いが異なる。
「やつも、傷ついている…なのに、この執念深さは…」
そう、アルクダは昨日・今日の戦いで右腕、左肩…そして腹部や、胸部、首など、あらゆるところに大小の傷を負っていた。
特に大きな傷は、弱肉強食の世界で…命取りになる。
「食うためでもない…縄張りを守るためでもない…奴は、何のためにここまで戦うのだ…」
老騎士ヤディは、呻くようにつぶやいた。
アルクダは、何度もタイミングを変えて襲撃してくる。
そして、博影達も剣のみで防ぎ、何度も、アルクダの身を少しづつ削っていく。
狼が遠吠えをしていた頃…
魔物の森の入り口のチェルが休んでいる大木…根元で周りを警戒していた狼は、すっと立つと耳を立て魔物の森の中央を向いた。
……
オォーン…オォーン…
狼が遠吠えを2度すると…森の中から、僅かに聞こえていた遠吠えが止まった。
「…ソロソロ…カ…」
チェルが目を覚ます。
「ヤツハ…ワレガ、ケッチャクヲ……ツケル…」
チェルは、枝のベッドからゆっくり起きると、黒いローブをなびかせながら地面へ降り立つ。
地面を踏みしめる。
…イチゲキナラ……イヤ…ゴフン…ハヤレル…
狼は、チェルの顔を覗き込むように見る。
「…ノセテクレルカ…」
チェルが狼に跨ると狼は、獣道を駆けだした。
若い騎士達の数名が限界に近い…
博影は、前面にたったまま騎士達を、5人づつ2班に分け、防御陣を組む班と、円陣の中央で休む班と役割を分けた。
…ここまでくれば、お前が倒れるか…俺が倒れるか…だ…
博影は、魔法陣の範囲を最小に絞りながら、チャンスを伺った。
グアァァ…
再びアルクダが藪より飛び出し…騎士の一人が、剣でその牙を防いだ。
その時……
獣道を駆けてくる狼が……皆の目に映った…
「あれは、狼…背中に乗っているのは、チェルか…」
アルクダが、一瞬…
後方から近づく気配と、人間どもの一点を見る視線につられ、思わず後方へ振り返る。
その一瞬の隙を逃さず、博影はアルクダへ一気に駆け寄ると、その勢いのまま黒い剣をアルクダへ突き立てた。
グアァァァー
咄嗟に、身をひねったアルクダであったが…博影の黒い剣は、深々とアルクダの左後ろ足を貫いた。
ガアァァァー
さらに目が真っ赤になったアルクダは、左前脚で博影を横に薙ぎ払う。
しかし、ここぞと魔法陣を最大に高め、黒い甲冑に魔力を注ぎ込んだ博影は…
ズズッ……
1mほど、押し出されただけであった。
そしてそこへ……
ヒュゥゥゥ~~
狼の背中から空へ飛び出したチェルが…黒い大きな剣を上段に構え、空よりアルクダを狙った。
…ワレノイチゲキヲ…クラエ…
ズシャッ…
後ろ足に剣を突きさされ、思うように動けないアルクダは、チェルの剣を避けきれず、右後ろ足を深々と切られた。
ブシャァァー
アルクダのその太い右後ろ足が半分ほど切れ、真っ赤な血が吹き出る。
藪に逃げ込もうとしたアルクダであったが、後ろ足で踏ん張れず立つことが出来ない。
「囲めーー」
博影は、叫ぶ。騎士達は、アルクダを取り囲んだ。
フーッ…フーッ…グウゥゥゥ…
アルクダは、取り囲まれた。
魔法陣で魔力を十分に注ぎ込まれた武具を構える騎士達に…
ガアァァァ…ガアァァァ…
狂ったように、その大きな牙が見える口から涎を飛ばしながら…吠える。
森が震えるほどの絶叫で咆哮する。
しかし…もはや、勝敗は決した。
チェルが、博影の横へ並ぶ。
「ヤツハ…ワレガヤル…」
そう言うと、アルクダへ近づいていく。
博影は、ヤディらに手で合図を送り、包囲陣を広げる。
アルクダは、咆哮をやめた。
目は真っ赤になっている。決して、負けを認めたわけではない。
ただ、その大きく見開いた眼でチェルを睨みつけている。
グルルルル…
チェルの耳に、アルクダの意思が届く。
……ニンゲンハコロス…
動けないというのに…さらに、アルクダの体は魔力が高まり…毛が逆立つ。
チェルは、足を止めた。
「キサマハ…マケタ…」
…キサマラ…スベテコロス…
キサマホドノ…モノガ……ニンゲンドモノ…ミカタヲスルノカ…
アルクダは、口を歪めた。
「カンケイナイ……ワレハ…ヒロカゲトトモニアル……タダ…ソレダケダ……」
…ヒロカゲ…モコロス…
ガチガチと、牙を鳴らす。
「……ワレノ…イノチヲカケテ……ヒロカゲハマモル…」
…イノチヲ……キサマモ…イノチヲカケル……モノガイルカ…
ガアァァァァァァァ…
アルクダは、空へ向け咆哮した。
…真っ赤な目が…薄れていく…
すると、魔力も又小さくなり、消えていく。
魔力によって、止血していた右足、首、左肩などの傷から、真っ赤な血が流れだした。
アルクダも又、ぎりぎりのところで博影達と戦い、魔力が尽きる寸前だったのであろう。
しかし、真っ赤に染まった目から、通常の薄い青い目に戻ったとはいえ、その目には今だ、強い執着が浮かんでいる。
「オマエノ…ノゾミ…リカイシタ…」
そう、チェルがつぶやくと…アルクダは、満足げに…ゆっくりと目を閉じ…
ズズン…
その巨体が地面に崩れ落ちた。
チェルは、その巨体に近づく…
アルクダが、死んだことを確認すると、腹部へ剣を突きさし…そのあふれる血の中へ、片手を突っ込み…子供の拳ほどの魔石を取り出す。
アルクダの牙を2本折り、首にかけてある黒い術袋へ入れた。
「オマエノ…イシハ…モッテイコウ…」
チェルは、つぶやくと博影の傍らへ戻った。
…おぉーー、おおぉーー…
騎士達が、勝利の雄叫びをあげる。
しかし、チェルは目をつぶったまま、博影の足元へ座った。
時刻は、昼過ぎ…いつの間にか、雨も上がっている。
半日以上、死闘を演じていたと思っていたが…3時間ほどであったのだろう。
チェルは、狼の背にのせ獣道を歩く。
「アルクダの体には、泥がかなりついていた。あの沼地に潜んで、我らをやり過ごしたのだろうな。
そして、圧倒的に我らが不利だと思っていたが、アルクダも又、ぎりぎりで戦っていた。
そのようなそぶりも見せず……奴の戦い方…見事だった」
ヤディは、命の終りを感じたほどの相手であったが、魔物とはいえ、アルクダの知恵…その精神力に敬意を払った。
魔物の森を抜けた。しばらく歩くと、光刺す草原で、騎馬たちが固まり草を食んでいる。
「ヤディ、歩かずにすみましたね」
若い騎士達は、騎馬に駆け寄った。
博影は、黒い武具を外し、治癒師の服に着替え、騎馬にのりチェルを引き上げる。
博影の前にのるチェルは、博影に背中を預けるとすぐに眠りについた。
ブルラ村で、老騎士ヤディより
エリュトロンアルクダ討伐成功の報告を聞いたクザ子爵は、ヤディ達にねぎらいの言葉もかけぬまま、ヤディに案内させ、手勢を率いアルクダの体を引き揚げに向かった。
アルクダの巨体を荷馬車にのせ、夕方には都市ガランに到着した。
先頭をクザ子爵が進み、後ろを騎士アレク以下、クザ子爵の手勢が、アルクダが横たわる荷馬車を取り囲み、大通りを進んでいく。
エリュトロンアルクダなど、近くで見た者などほとんどいない。
町の者達は、次々に集まってきた。
まるで、戦に勝利し凱旋しているようだ。
博影達は…クザ子爵の命令で、都市ガランに入る前に子爵たちと離れ、時間をおいてから都市ガランに入る。
遠くで、大きな歓声が起こっている。
「博影殿と、チェルと俺たちが命がけで戦ったんだけどなぁ~」
騎馬を馬屋に預けながら、若い騎士が非難する。
「そんなことは、どうでもいいよ。1人も欠けることなく、帰ってこれた。本当に良かった」
騎馬から降りた博影は、チェルを背中に背負った。
「博影、戦の勝利とアルクダへの敬意を込めて今夜は飲もう」
騎士ヤディから、酒の誘いを受ける。
「わかりました。ただ教会へ寄ってガラド邸へ一旦帰ります、心配させているといけないので」
「わかった、後で迎えをいかせる」
博影達は、一旦広場で別れた。
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しかし、アルクダの執拗な攻撃で、あちこちにアルクダの匂いがばらまかれ…
そして、アルクダから滴り落ちる血の匂いがあたりに充満し…
狼は、匂いでアルクダが潜んでいる場所を、嗅ぎ分ける事は出来なくなっていった。
辺りが急に少し薄暗くなる。空を見ると、いつの間にか、空一面雨雲が広がっている。
僅かではあるが、雨が降り出した。
雨音が、アルクダの足音…気配を消していく。
「天もアルクダに味方するのか…」
思わず若い騎士から、弱音がこぼれる。
アルクダは、執拗に…なんども突撃してくる。
そのたびに、騎士達が大盾で防御する。アルクダは、前足での攻撃などしないまま、素早く藪の中に身をひそめる。
身を隠し、突撃時に魔力を高めればよいアルクダと異なり、博影は、いつ飛び出してくるかわからない襲撃の為、魔法陣の力を弱めるわけにはいかない。
魔法陣の力を弱め、その隙にアルクダが騎士に全力の一撃を入れれば……騎士は、致命傷を負うだろう。
アルクダを警戒しながら、皆で話し策を幾度となく変える。
藪に逃げ込むアルクダへ、槍を投げつける………
魔力を高めているアルクダには、槍は刺さらない。
藪に逃げ込んだアルクダへ、魔法陣の力を加え矢を放つ………
素早く藪に潜むアルクダに、かすりもしない。
魔法陣を広げ、藪に逃げ込んだアルクダを追ってみる………
アルクダの素早さに、速さについてはいけない。
騎士前列も盾を置き、剣を構え…魔力を高め突進してくるアルクダを、決死の覚悟で一人が剣で抑え、両隣の騎士が、アルクダの首筋へ渾身の切っ先を突き立てる。
切っ先は、アルクダの太い首に刺さり…肉を削るが…アルクダは怯まない。
身を削られていくが…藪の中で休息をとれるアルクダと、一時たりとも、張り詰めた気を緩められない博影達とでは、体力も精神力も…消耗の度合いが異なる。
「やつも、傷ついている…なのに、この執念深さは…」
そう、アルクダは昨日・今日の戦いで右腕、左肩…そして腹部や、胸部、首など、あらゆるところに大小の傷を負っていた。
特に大きな傷は、弱肉強食の世界で…命取りになる。
「食うためでもない…縄張りを守るためでもない…奴は、何のためにここまで戦うのだ…」
老騎士ヤディは、呻くようにつぶやいた。
アルクダは、何度もタイミングを変えて襲撃してくる。
そして、博影達も剣のみで防ぎ、何度も、アルクダの身を少しづつ削っていく。
狼が遠吠えをしていた頃…
魔物の森の入り口のチェルが休んでいる大木…根元で周りを警戒していた狼は、すっと立つと耳を立て魔物の森の中央を向いた。
……
オォーン…オォーン…
狼が遠吠えを2度すると…森の中から、僅かに聞こえていた遠吠えが止まった。
「…ソロソロ…カ…」
チェルが目を覚ます。
「ヤツハ…ワレガ、ケッチャクヲ……ツケル…」
チェルは、枝のベッドからゆっくり起きると、黒いローブをなびかせながら地面へ降り立つ。
地面を踏みしめる。
…イチゲキナラ……イヤ…ゴフン…ハヤレル…
狼は、チェルの顔を覗き込むように見る。
「…ノセテクレルカ…」
チェルが狼に跨ると狼は、獣道を駆けだした。
若い騎士達の数名が限界に近い…
博影は、前面にたったまま騎士達を、5人づつ2班に分け、防御陣を組む班と、円陣の中央で休む班と役割を分けた。
…ここまでくれば、お前が倒れるか…俺が倒れるか…だ…
博影は、魔法陣の範囲を最小に絞りながら、チャンスを伺った。
グアァァ…
再びアルクダが藪より飛び出し…騎士の一人が、剣でその牙を防いだ。
その時……
獣道を駆けてくる狼が……皆の目に映った…
「あれは、狼…背中に乗っているのは、チェルか…」
アルクダが、一瞬…
後方から近づく気配と、人間どもの一点を見る視線につられ、思わず後方へ振り返る。
その一瞬の隙を逃さず、博影はアルクダへ一気に駆け寄ると、その勢いのまま黒い剣をアルクダへ突き立てた。
グアァァァー
咄嗟に、身をひねったアルクダであったが…博影の黒い剣は、深々とアルクダの左後ろ足を貫いた。
ガアァァァー
さらに目が真っ赤になったアルクダは、左前脚で博影を横に薙ぎ払う。
しかし、ここぞと魔法陣を最大に高め、黒い甲冑に魔力を注ぎ込んだ博影は…
ズズッ……
1mほど、押し出されただけであった。
そしてそこへ……
ヒュゥゥゥ~~
狼の背中から空へ飛び出したチェルが…黒い大きな剣を上段に構え、空よりアルクダを狙った。
…ワレノイチゲキヲ…クラエ…
ズシャッ…
後ろ足に剣を突きさされ、思うように動けないアルクダは、チェルの剣を避けきれず、右後ろ足を深々と切られた。
ブシャァァー
アルクダのその太い右後ろ足が半分ほど切れ、真っ赤な血が吹き出る。
藪に逃げ込もうとしたアルクダであったが、後ろ足で踏ん張れず立つことが出来ない。
「囲めーー」
博影は、叫ぶ。騎士達は、アルクダを取り囲んだ。
フーッ…フーッ…グウゥゥゥ…
アルクダは、取り囲まれた。
魔法陣で魔力を十分に注ぎ込まれた武具を構える騎士達に…
ガアァァァ…ガアァァァ…
狂ったように、その大きな牙が見える口から涎を飛ばしながら…吠える。
森が震えるほどの絶叫で咆哮する。
しかし…もはや、勝敗は決した。
チェルが、博影の横へ並ぶ。
「ヤツハ…ワレガヤル…」
そう言うと、アルクダへ近づいていく。
博影は、ヤディらに手で合図を送り、包囲陣を広げる。
アルクダは、咆哮をやめた。
目は真っ赤になっている。決して、負けを認めたわけではない。
ただ、その大きく見開いた眼でチェルを睨みつけている。
グルルルル…
チェルの耳に、アルクダの意思が届く。
……ニンゲンハコロス…
動けないというのに…さらに、アルクダの体は魔力が高まり…毛が逆立つ。
チェルは、足を止めた。
「キサマハ…マケタ…」
…キサマラ…スベテコロス…
キサマホドノ…モノガ……ニンゲンドモノ…ミカタヲスルノカ…
アルクダは、口を歪めた。
「カンケイナイ……ワレハ…ヒロカゲトトモニアル……タダ…ソレダケダ……」
…ヒロカゲ…モコロス…
ガチガチと、牙を鳴らす。
「……ワレノ…イノチヲカケテ……ヒロカゲハマモル…」
…イノチヲ……キサマモ…イノチヲカケル……モノガイルカ…
ガアァァァァァァァ…
アルクダは、空へ向け咆哮した。
…真っ赤な目が…薄れていく…
すると、魔力も又小さくなり、消えていく。
魔力によって、止血していた右足、首、左肩などの傷から、真っ赤な血が流れだした。
アルクダも又、ぎりぎりのところで博影達と戦い、魔力が尽きる寸前だったのであろう。
しかし、真っ赤に染まった目から、通常の薄い青い目に戻ったとはいえ、その目には今だ、強い執着が浮かんでいる。
「オマエノ…ノゾミ…リカイシタ…」
そう、チェルがつぶやくと…アルクダは、満足げに…ゆっくりと目を閉じ…
ズズン…
その巨体が地面に崩れ落ちた。
チェルは、その巨体に近づく…
アルクダが、死んだことを確認すると、腹部へ剣を突きさし…そのあふれる血の中へ、片手を突っ込み…子供の拳ほどの魔石を取り出す。
アルクダの牙を2本折り、首にかけてある黒い術袋へ入れた。
「オマエノ…イシハ…モッテイコウ…」
チェルは、つぶやくと博影の傍らへ戻った。
…おぉーー、おおぉーー…
騎士達が、勝利の雄叫びをあげる。
しかし、チェルは目をつぶったまま、博影の足元へ座った。
時刻は、昼過ぎ…いつの間にか、雨も上がっている。
半日以上、死闘を演じていたと思っていたが…3時間ほどであったのだろう。
チェルは、狼の背にのせ獣道を歩く。
「アルクダの体には、泥がかなりついていた。あの沼地に潜んで、我らをやり過ごしたのだろうな。
そして、圧倒的に我らが不利だと思っていたが、アルクダも又、ぎりぎりで戦っていた。
そのようなそぶりも見せず……奴の戦い方…見事だった」
ヤディは、命の終りを感じたほどの相手であったが、魔物とはいえ、アルクダの知恵…その精神力に敬意を払った。
魔物の森を抜けた。しばらく歩くと、光刺す草原で、騎馬たちが固まり草を食んでいる。
「ヤディ、歩かずにすみましたね」
若い騎士達は、騎馬に駆け寄った。
博影は、黒い武具を外し、治癒師の服に着替え、騎馬にのりチェルを引き上げる。
博影の前にのるチェルは、博影に背中を預けるとすぐに眠りについた。
ブルラ村で、老騎士ヤディより
エリュトロンアルクダ討伐成功の報告を聞いたクザ子爵は、ヤディ達にねぎらいの言葉もかけぬまま、ヤディに案内させ、手勢を率いアルクダの体を引き揚げに向かった。
アルクダの巨体を荷馬車にのせ、夕方には都市ガランに到着した。
先頭をクザ子爵が進み、後ろを騎士アレク以下、クザ子爵の手勢が、アルクダが横たわる荷馬車を取り囲み、大通りを進んでいく。
エリュトロンアルクダなど、近くで見た者などほとんどいない。
町の者達は、次々に集まってきた。
まるで、戦に勝利し凱旋しているようだ。
博影達は…クザ子爵の命令で、都市ガランに入る前に子爵たちと離れ、時間をおいてから都市ガランに入る。
遠くで、大きな歓声が起こっている。
「博影殿と、チェルと俺たちが命がけで戦ったんだけどなぁ~」
騎馬を馬屋に預けながら、若い騎士が非難する。
「そんなことは、どうでもいいよ。1人も欠けることなく、帰ってこれた。本当に良かった」
騎馬から降りた博影は、チェルを背中に背負った。
「博影、戦の勝利とアルクダへの敬意を込めて今夜は飲もう」
騎士ヤディから、酒の誘いを受ける。
「わかりました。ただ教会へ寄ってガラド邸へ一旦帰ります、心配させているといけないので」
「わかった、後で迎えをいかせる」
博影達は、一旦広場で別れた。
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