異世界召喚戦記

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第5章 モスコーフ帝国へ

第4話 システィナの想い

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異世界召喚 97日目

イシュ王都へ着き、3日目



側近の間での出来事があった翌日、
ベレッタや、ティアナはイシューレ教会の仕事を休み、博影の治療にあたってくれていた。

「おとうさん、いよいよ私の力を見せるときが来たようね!」

沙耶が、博影のベッドの傍らで意気込む。
どうやら、ティアナに習い少し、治癒術を使えるようになったようだ。

「はいはい、よろしくお願いします」

博影は、おどけて頭を下げる。

「ばかにしたな~目に物みせてくれる~」

そう言うと沙耶は、聖石のペンダントを博影に向け言葉をつぶやいていく。

「ヒール!」

と、言うと沙耶はベッドの端にへたり込んだ。

「疲れた~もう無理~どう? お父さん効いた? 効いた?」

と期待を込めて聞く沙耶に、

「効いた、効いた、すっごく効いた」

と言うと…

「こっ、こいつ~馬鹿にしたな~ゆるさーん!」

沙耶が、博影の上にダイブしてきた。

ベレッタ、ティアナ、隣のベッドのシスティナが笑う中、博影も高笑いしながら、沙耶の変化に戸惑っていた。
回復としての効果は、ほんの僅かだったが、博影の魔力の回復がかなりされた…まるで、沙耶の魔力が流れ込んできたように…

博影の使う魔力は、騎士や治癒師が使う聖力と異なり異質なものだ。そのため、聖力を使用する者には、気づかれないと思うが…
沙耶もまた、ゆっくり能力が開花しているのか…

ティアナの元で、治癒術を学んでいる事は、沙耶の役にも立つことなのでよいが、それ以上に能力が強まったら…
博影は、沙耶が戦に巻き込まれることを恐れていた。


夕刻近く…ほぼ、博影の体調も回復した。やはり、沙耶の魔力回復が大きかったと思う。
システィナも、午後より再生した右腕の調子を見るために、将軍やダペス家の者と剣を合わせた。

夕刻、全員で食卓を囲み、明日からの最終確認を行った。

「では、最終確認を行う」

カローイが、ワインを机に置いた。

「親父、博影、当家の騎士2人で、王都よりドウイ川をくだり、東ドウイ川へ向かう。
東ドウイ川を下り、東ドウイ川の宿場町セベリで、当家の騎士2人は降り、没落騎士で職を探す傭兵のふりをし、連絡係を行う。
親父と博影は、そのままなお東ドウイ川を下り、宿場町ルセで船を降り、その後は、馬にて城塞都市グリナを目指す。
船で川を6日、陸を2日…
城塞都市につき、ファビの治療に1週間と考え、すべてで、ほぼ1ヶ月の行程となる。
毎日、ギルドを通じて宿場町セベリへ連絡を入れること!
連絡が、一日でも途絶えたら、俺が、博影を迎えに行く」

最悪の事態に陥ったら、カローイや数人の騎士が迎えに来ても、博影を助けることは出来ないと思うが、カローイの物言いと目は本気だった。

「行程に問題はないと思う。ただ、男だけの巡礼者が動くことは、目立つと思う。女も入ったほうがいい、私も行く」

システィナが、言葉を慎重に選びながら口を挟んだ。

「悪いが、今回は一人で行きたい。今までと違い、今回は敵陣だ。もしもの場合、一人なら逃げ切れる可能性が高いが、複数となると、可能性が低くなる」

いつもの博影と異なり、笑顔はない。言葉に、強い意志を感じる。

「博影、なんども口を挟んで申し訳ないが、もしもの場合は、たとえ黒騎士の力を持ってしても最後の時だ。
今回は、もしもの場合にならないように、見つかる可能性が、低くなるようにしたほうが良いと思う。
その点で、女が供にいたほうが良いし、私なら、城塞都市グリナも傭兵として訪れた経験がある」

システィナも、静かに重く話す。一歩も引かない。
だが、システィナの言葉により現実的に…

…もしもの場合は最後だ…

と言われ、沙耶は胸の奥が苦しくなった。

…自分も行きたい…ついていきたいと叫びたくなる…お父さんが…もし…もしも、帰ってこな……

最後の言葉を考えない、取り消した。
チェルが、沙耶の不安を察し、沙耶の足元へ、背中の触角を当て気持ちを支える。

「この話は、ここまでだ。最初の案のままで行く」

博影は、強い言葉で断ち切ると、食事を終わらせ、サウナへ行こうと立ち上がった。

「みな、私がファビへの願いを持ってきてしまったため、このような想いをさせてしまい
すまない。
私が、ファビを愛すると同じく、みなも博影を愛している。愛するものが消える不安は、人一倍理解しているつもりだ。
私の全身全霊をかけて、博影は、ここへ必ず連れてくる。
……
ただ、申し訳ないが、私にもしもの事があった場合には、ファビの事をよろしく頼む。
私は…生きようとは考えていない…」

マクシスは、ワインを一息に飲み干し、全員に頭を下げた。

その後…その話には、全員触れず、たわいもない話で食事を終えた。

就寝となる…沙耶は、不安になり、博影のベッドに入り、しっかり抱きついた…なかなか眠れない。
博影は、沙耶の頭をなでながら…

「沙耶、心配か?」

…博影の問いに…しばらく静寂がつづく…

いつもは、隣のシスティナの部屋で眠るチェルも、今夜は、博影、沙耶の部屋の窓際に寝そべっている。

「…やっぱり、心配…どんなときでも、いままでもずっと心配…安心して待ってることはないよ。
いままで、いつも一緒だったのに、もしも…もしも…って考えたら…怖いよ…」

沙耶が、博影に抱きついている両手に力を込める。

「ごめん…沙耶、お父さん、この同じ気持ちを他の人に味あわさせたくない。助けられる命なら、助けたいんだ」

博影も沙耶も抱きしめる。

「…うん、わかってるよ…」

その夜は、沙耶と離れていた間のことを、出来事を…お互い、いろいろ話しあった。
沙耶は、少し泣きながら眠った。

沙耶が眠った後…博影は、自分の矛盾が頭をめぐる。

自分達が生きるため、イシュ王国が、生きる為に、多くの何千という兵士を殺す策を実行した…自分

しかし、一方では、目の前の一人の、いくばくかの人を必死で救おうとする…自分

…矛盾…

博影も、いつのまにか眠ってしまった。



翌朝…

カローイに、側近の間の出来事で会いにいけなかったティーフィ達の面倒を頼み、みなの見送りの中、ダペス邸から出発した。

マクシス将軍、博影、ダペス家騎士2人が、裏門、船着場から船に乗る。
船の中で、術袋から巡礼着を取り出し着替える。

後は、ゆっくり船に任せる。
船旅2日目、ドウイ川の宿場町のひとつパヤに着く。
ここは、まだイシュ王国領内、宿にのんびりと泊まり、早朝、船着場に向かう。
船着場では、船頭より、

…ご家族が追いついてみえてます…

といわれ、川舟の中を見ると…

システィナ、ルーナ、チェルがいた。

「なっ? お前ら来るなと言っただろう!」

初日の宿場町では…まさか…来ないだろうな…

と、心配していたのだが、よもや、2日目の宿場町に来るとは…
博影は怒り、なおも言葉を続けようとする。

「博影殿、まずは、船に乗ろう。いくら、国内でも目立ちすぎる」

ダペス家の騎士の1人が促す。促されるまま、大き目の川舟に6人と一匹で乗る。

「博影、私は謝らないぞ」

システィナは、博影の目から目をそらさず言い切り、ルーナと、チェルはそっぽを向いている。

「カローイは、知っているのか? 次の宿場町で降りろ、お前達は帰れ!」

怒り心頭の博影は、2人と一匹を睨む。

「カローイは、知っている。了承を得たとまでは言わないが、10日後、スポイツアに、ダペス家騎士1500人を連れてくる。
博影の連絡が途絶えたら、城塞都市グリナへ攻め上る…と言っている」

…カローイめ、どこまで本気かわからないが、仮にも、ダペス家次期当主の言葉…軽くはないだろう…しかし…一人助けるために、1500人の命を掛けるか…

博影は、カローイの言動にも怒り込みあがる。

「博影…当初の計画とは、早くも異なってきたが…」

マクシス将軍は、苦笑する…

「だが、みなの気持ちを組み入れないわけには行かないだろう。私も気を引き締め、より細心の注意をはらい、事に取り組みたいと思う。博影と、みなの力を貸してほしい。
そして、私は全力でみなを、イシュ王国へ返す」

マクシス将軍は、右手を胸に当てる。

「その事については、一言文句を言っておきたい」

システィナが、静かに語る。

「親父殿は、もしもの場合はファビを頼む…と、言われたが、残される者の気持ちを考えれば、簡単に口に出す言葉ではない。
今回の策に、もしもはないのだ!」

システィナは、マクシスに…まるで、ファビの代わりに怒るような、身内が怒るような激しさで、言い放った。

システィナは、側近の間で…昔の事を、まるで目に浮かべながら思い出してしまったことで、そういう事に、今は敏感になっているように感じられた。

しかし、博影は、納得できたわけではなかった。だが、少なくとも、チェルが来ているので
もしもの場合は、チェルに2人の護衛を任せ…
自分が、皆の脱出の時間を作れれば…と考えていた。

船は、ゆっくりと進んで行った。



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