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✕✕の回顧録 後編
しおりを挟む※死や暴力表現があります
その話の中で、何故かは分からないけどお父さんとお母さんは近所の人たちの名前を何人か出していた。そして、お母さんは
「もう耐えられない!どうして私たちまで出ていけなんて言われなくちゃいけないのよ!!あの子のせいで毎日毎日家にイタズラされて、陰口を言われて…もううんざりよ!!」
ハッキリとこう言っているのが聞こえた。戸に隠れて聞いているから、見えないけど泣いているようだった。そしてお父さんは
「そ...だね...。お前は...ぶ...たよ。も...し...たない...も......す......しか…い。」
いつも寡黙なお父さんは声が小さくて所々しか聞こえなかった。お母さんが泣いてるということは、ボクのことを喋っているんだろうなと思って内容が気になったけど、聞こえなかったから仕方ない。
明日もいい子になれるよう頑張ろう、と心を引きしめてから自分の部屋に戻って寝た。
2日後、お母さんはいつもと違って以前のような明るい雰囲気でボクに話しかけてきた。
「ねぇ✕✕!今日は久しぶりに散歩にでも行きましょう??」
頑張ったおかげでお母さんの言ういい子になれたのかもしれない!と嬉しくなったボクは喜びを隠せなくてぴょこぴょこその場で跳ねながら即答した。
「ほんとに!?うん!行きたい!!久しぶりだから嬉しいなぁ~♪」
ここ数ヶ月のことなんかすぐ忘れて、ボクはルンルンで準備をして、3人で自分たちの住んでいる所よりだいぶ離れた大きい街へときた。外のことをよく知らないボクはそこがどこなのかも家からどれくらい離れているかも分からなかった。
お母さんが散歩と言っていたのに列車に乗って移動したことに何も疑問を持たなかった。列車に乗っても歩く時間の方が長かった。そのせいでとても疲れていたけど、それよりも久しぶりに外に出れて3人一緒に出かけられたこととお母さんがニコニコしてお父さんも今まで見たことない柔らかい表情をしていることが嬉しかった。
道中全く会話がなかったから、ボクは何でもいいから何かおしゃべりがしたくてふと気になったことを聞いてみた。
「ねぇねぇ!こんな遠いところまでお出かけなんてどうしたの?2人とも!!なにか用事があるの?」
(もしかして、いい子にしていたからなにかご褒美があるのかな?それともお店でご飯食べるのかな?最近ずっと食パン1枚と水しか口にしてなかったしお店で美味しいもの食べたいな)
と少し期待しながら。
すると、ボクの質問に答えずに無言でお父さんがいきなりボクの左腕を強く引っ張ってきたから反射的に抵抗した。
「っ!痛いよ!ちゃんと引っ張らなくても着いて行くから!!待って!!ねぇ!ねぇってば!お父さん!!痛いよ!!」
突然のことで驚いたのと掴まれている左腕のあまりの痛さに、自分で考えた『3つのルール』なんて頭になかった。抵抗した後にハッとしたけれど、幸いそれ以上の痛みは加えられなかった。
ボクの歩幅は小さいし、少しでも痛みを和らげるために左腕をもう片方の腕で抑えているせいもあったのかもしれない、お父さんの歩く速さに着いて行けないボクを引きずるようにして人気のない道に入った。
もう暗くなり始めていた空と周りの建物の影のせいで表情は分からなかったけれど、お母さんは黙ったままボクを引きずるお父さんの後ろをついて来ていた。
ボクはお父さんに人気のない道を進んで森と面している場所で地面に突き飛ばされた。周りには古い椅子や壊れたテーブル、スプリングがむき出しのソファなどがあってその場所がゴミ置き場のように使われていることが分かった。
(ボク捨てられるかもしれない...それとも、殺される...?)
そんな考えが頭をよぎったけど、勘違いかもと自分を騙しお父さんの足に半泣きになりながら夢中ですがりついた。
「どうしたの?ボク、何か悪いことしちゃった??自分で分からなくてごめんなさい!何か悪いことしたなら直すから!許して!!お父さん!お母さん!!」
すると、お父さんは冷ややかで汚いものを見るような目で足にすがりつくボクを蹴りながら
「お前の容姿が気持ち悪いせいで俺とアリアまで周りの人に悪く言われて!もう散々なんだよ!!きっと、いや、絶対にお前は呪われている!俺たちまで呪われるのなんてごめんだ。それにお前が視界に入るだけで気分が悪くなる。このままお前なんかと一緒にいたらこっちがおかしくなる。いいか、いい子か悪い子かなんか関係ない。お前の存在そのものがダメなんだよ!どれだけお前が頑張っても無意味だ。お前をここに捨てる。もう俺たちの前に現れるな!」
バクバクと心臓がうるさい。お父さんの言葉を聞いている途中から真っ白になっていく頭の中とは逆に、目の前は真っ暗になるような感覚に陥って呆然とした。受け止めきれないほど鋭い言葉の刃を向けられて、何にも言葉が出なかった。
続いてお母さんが元々整っていた綺麗なお顔に以前のような明るい笑顔を咲かせて
「あなたさえいなくなれば、旦那様と2人で幸せに生きていけるわ!あなたは私に顔がとてもよく似ていて目に入れても痛くないくらい可愛く思っていたけれど、そんな気持ち悪い髪と瞳の色で私の息子なんて恥ずかしいなんてもんじゃないわ。死にたくなるくらい嫌よ。で・も!私はまだ死にたくないわ。それに呪いなんてうつりたくないし、陰口を言われるのも疲れたの!!でもあなたさえいなくなれば...ね?全部解決するじゃない?♪子供はまた産めばいいし、本当は殺してしまった方がいいのかもしれないけれど死体なんて見たくないし、周りにバレないようにするのがめんどくさいもの!!生かしてもらえるのだから私と旦那様に感謝しなさい??ね?」
ショックで呆然としていたけれど、徐々に言われていることを理解し始めてポロポロと涙が出てくる。
(そっか...ボクはいらない存在なんだ。お父さんにもお母さんにもハッキリと捨てると言われてしまった。それどころか殺されないのを感謝しなさい、とまで。ただのお出かけじゃなくてボクを捨てるためだったんだ...)
ずっとずっと何をされても何を言われても2人が大好きで、いい子と褒められたくて頑張ってきたのはなんだったのだろう、とほんの少しの怒りと大きな悲しみ。そして絶望。
でも、それでも、ここまで言われても
「嫌だ!捨てないで!!お願い!!!家でも2人に姿を見せないから!家にいるのがダメなら外でもいいから!ボクを捨てないで!!」
2人のことを嫌いになれない。2人がボクのお父さんとお母さんなことには変わりない。声の限り泣き叫び、涙で前が見えなくなりながらもまたお父さんの足にすがりつくボクを離そうとお父さんが何度も蹴ってくるが必死にしがみつく。
しかし、急激な精神への負荷に暴力。5歳である心体が耐えられなかった。そのまま意識を失った。
そのせいでお父さんとお母さん、自分の周りの異変には気づかなかった。
満月が浮かぶ夜空の下、自分が気を失っていたことに気づき、体の痛みに耐えながら起き上がると月明かりに照らされて、周りの地面がえぐれ、草木には切り裂かれたような痕があるのが見えた。
周りに捨てられていた古くて壊れていた家具もズタズタに切り裂かれてほとんど原型を留めていなかった。そして、2mほど離れたところのえぐれた地面にはボロボロになった人が2人転がっていた。
まだはっきりとしない思考でフラフラと立ちあがり、その転がっている人2人の顔を確認すると、ボクのよく知っている両親だった。2人とも血だらけで既に息絶えているようで、驚いて一気に目が覚めた。
「えっ....?お父さんと....お母さん....?なんで死んで...え??」
ボクが気絶した後、何が起きたのか分からない。とりあえず自分が自分だけ無事なのが不思議で倒れていたところを確認した。すると、何故かそこだけ何ともなかった。えぐれている地面をよく見ると✕✕が倒れていたところから亀裂が入っているように見えた。それで、どうやってかは分からないが地面をえぐり、親を殺してしまったのは自分なのだと考えた。
目の前のことで精一杯だった頭が1分2分と経つにつれ、どんどん気絶する前の記憶をハッキリにしていき、同時にパニックになっていった。
「どうしよう..ボクが殺しちゃった....?なんで?..なんで....お父さん..お母さん...どうしよう..ごめんなさいごめんなさいごめんなさい..2人の言ってた通りボクは呪われてるのかもしれない...ボクのっ...せいでっ....ごべんなさいっ..ごべんなざいぃ」
涙と嗚咽が止まらない。
泣き疲れて地面に座り込んだままボッーとしながら何となく空を見上げた。いつも夜、1人自分の部屋である屋根裏から見上げていた空を。常に雄大に広がり、自分の小ささを知らしめてくる空。何でか助けてくれる気がした。
否、ただ誰でもなんでもいいから助けてほしかった。でも空には大きな満月がキラキラと輝くだけで、助けてくれるはずもない。上を向いたまま後ろに倒れて仰向けの状態になる。そこで現実逃避を終えて、ひとしきり泣いたせいか自分でも驚くほど冷静になった頭で考え始める。
今までボクの世界の全てだった両親を自分でわけも分からず殺してしまった。幸せなことばかりじゃなかったけれど、記憶に新しいのは悲しいことばかりだったけれど、確かに幸せを感じていた時があった。
両親のことを考えてまたじわりと涙がこみ上げてきて、やっぱり少し違うことを考えようと無理やり頭の隅に追いやる。
(そうだ、これからどうすれればいいかな...
お金なんて持っていないし、ここがどこなのか自分の住んでいる家がなんていう名前の街だったのかも分からない。そもそも、こんな気持ち悪くて呪われているボクが生きてていいのかな...。分からない。どうすればいいんだろう。あぁ、もう....)
「疲れちゃったな....」
そのままボクはまた気を失った。
次の日の朝早く、夜間に響いた聞いた事のないほど大きい音が気になった街の人達はお互いに情報を出し合って音の発信地と思われる場所にやってきた。すると、どういうことかそこの地面はえぐれ草木には切り裂かれたような痕が残っていた。そして、そこにはボロボロで血だらけの男女2人が倒れていた。
その場に来た街の人達の中で1人だけ、そこに倒れている2人を昨日見かけていた。
「(あれ?この2人って昨日の夕方くらいの時間に見かけた綺麗な人達だ…。??確かこの2人って小さくて長い黒髪の女の子連れてなかったっけ??人違いか…?)」
その場にいる人達にはなぜこんなことになっているのか、何が原因なのか、何が起こったのか予想すらできない。
その場所には死体が2つ転がるだけで他に誰にもいなかったのだ。
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3/6 加筆修正しました。
応援ありがとうございます!
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