嘘つきたちの挽歌

椈乃 夏生

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発見、そして保護

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──さむい…。

日が徹底的に入り込まないように造られた独房の中でぼんやりとする。
今日は里長の機嫌が悪くて散々だった。どうやら人との会談が思うように進まなかったようで、おれのせいだと殴られ蹴られた。
蹴られたりした箇所は痣になりそのうち消えるだろうがきっとまた消える前に増えるだろうから、どうでもいい。
くきゅる…と弱々しく腹が鳴き、自分がまだ生きていることを嫌でも実感してしまう。そういえば前回餌を口にしたのは一ヶ月くらい前だったか。
ぽすんっと軽い音を立てて床に倒れ込む。どうしてこうも生き汚いのだろうか。望まれない生命なのだから、早く死んでしまえばいいのに…。

──はやく、はやく尽きてしまえ。

その願いが叶うことはまだまだ先のことだと知りながら、それでも願わずにはいられない。
ほの暗い思考の中意識は泥濘に惹かれるまま、薄暗い闇に沈んでいった──……


✾❈✾❈✾


遠くで声がする。
金属の打ち合う音や炎が燃える音、そして近付いてくる足音──……
ふっと意識が浮上し自分が今まで眠っていたことを悟る。ぼぅっとする頭でいつものように身体を起こそうとして、そこで初めて独房を塞いでいる鉄柵の前に人が立っていることに気がついた。
漆黒の軍服と燃えるように紅い髪、そしてこちらを射抜くように見つめてくる金色の瞳。その姿はまるで昔盗み聞いた御伽噺に出てくる魔王のよう。
重々しい扉を開けコツコツと靴音を立てその人はおれの前に視線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。
そうっと伺うような慎重な動きでおれに触れ、悲しげに眉を下げ黒衣の君は言葉を零す。

「まさかこんな所にハイエルフが囚われているとは…エルフが始祖たるハイエルフを妬むのは本当らしい」
「…?」

何を言っているんだろう…? 始祖…? そんな訳がない。おれはね、疫病神なんだ。災禍をもたらす化け物なんだ。だから、そんなじゃないんだよ…?
困惑顔のおれに気づいた男は下がっていた眉をさらに下げ一層悲しげにな顔をした。そうして優しく傷だらけでボロボロに汚れたおれの身体を抱きしめる。

「君は疫病神なんかじゃない。神に愛された存在なんだ。本来ならこんな所に居るべき存在ではないんだよ…」
「なんで…? おささまが、いってたんだよ…? おささまは、ただしいんだ……おれ、は…」

おれが、わるいんだよ…?
盲目的に、刷り込まれた言葉を口にすれば抱きしめてくる手が堪えられないとでも言いたげにわなわなと震える。
とうとうおれの非情な現実に耐えきれなかったのだろう、その人はおれの目に手を当て「…今はおやすみ」と囁き意識を刈り取った。穏やかな温もりに包まれるように意識が吸い込まれる。
意識が堕ちる寸前に垣間見た、悔恨を滲ませる双眸が不思議と脳裏に焼き付いていた。
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