悪女で悪魔

黒澤尚輝

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そっと目を覚ませば自室だった。夕方、所長の息子との行為後記憶が曖昧だったが何とか部屋へと戻ってきた。あの男の記憶を消した記憶がないことが唯一の心残り。しかしあの男は聖女の末裔に熱をあげている。きっともう関わることはないだろう。
窓を開ければ気持ちのいい風が頬を撫でた。胸いっぱいに息を吸い込めばあんなに強く香っていた周囲の男たちの香りがいつからか薄くなっていた。風に乗り香るのは強く甘い香りたち。極上の魔力を持つ男の香りだった。
人間は上等なものを食べれば舌が肥えるというが魔力も同じなのだろう。ここ連日5人もの極上な精液を摂取したからか他の男たちのものでは足りなくなってきているのだろう。

そっと下腹部に手を添えれば行為の快感を思い出す。まるで自分ではないような、違う。自分の意識を剥がされるような強い快感。あの感覚を思い出すだけでナカが疼いた。

空には眩い星々。キラキラと輝く光を見つめる。それらは美しく綺麗だった。私とは反対の。汚れきった私とは天と地の差があるそれはあの女のよう、そんなことを思ってしまう。あの女の周囲はキラキラと輝き光っていた。私はドロドロと汚いところにいるのに、あの女は空で光る星のように輝いていた。

今まであの女のことを考えるたびに痛む胸。なんで痛いのか分かっていたはずなのに知らないふりをして。惨めな自分に蓋をして。また明日、いつものように振る舞うために自分の体を強く握りしめた。

「私は、悪魔⋯⋯」

────────

母親に見送られ家を出た。学園についたもののやはり授業など受ける気になれなかった。あんなにも頑張っていたはずの授業に何も感じなくなり人々の視線にも興味を失った。歓喜の感情が薄れていくのと同時に性行為への疼きでしか感じられない喜びに人間でなくなっていく自覚はしていた。

きっともう私は戻れないのだろう。悪魔の血族でこんな体で人間などと名乗るのはもう無理なんだろう。屋上はと続く階段を登り扉に手をかける。施錠はされているが魔法で解錠方法を知った私は立ち入り禁止の屋上にたまに出入りしていた。1人になりたいとき、胸が軋む日、空を眺めたい日などに。

屋上のベンチに座り耳を澄ませる。人々の声、風、木々、水。様々な音が聞こえてきた。荒んだ心を癒す音たちに心が落ち着いていった。

ドアの軋む音が聞こえたのはそんな時だった。出入り口に立つのは草臥れた白衣の男。ヴァイス先生だった。煙草を片手に気だるげなその姿。とうとうここに出入りしていることがバレてしまったことに少しだけ残念に思った。

「⋯⋯ユナイデル。何を言われるか分かってるか?」
「立ち入り禁止の屋上にいることですよね」
「あー、それもそうだが⋯⋯」

頭を掻きめんどくさそうに息と煙を吐き出す先生。顔をあげ目線が合う。その目は私を見透かすようだった。

「お前何があった。魔力に何かが混じってる」
「何もないですよ」
「何もないはずがない。魔力の枯渇と今の状態、関係あるだろ」
「先生には関係のないことです」

冷たく突き放す。今は先生の香りでかなりギリギリだ。優秀な先生に催眠が何度も効くとは限らない。下手なことをする前に先生から離れるべき、頭で警告が鳴っていた。

「屋上に入った件については謝罪します。すいませんでした。今後は2度と入りません。今日はこれで失礼します」

とりあえず今日は誰か適当な家に行って消費しよう。体が求めるのは特定の男たち。しかし同時に様々な危険が伴う。行為の快感を知り気分が高揚していたとはいえ危険な橋を渡りすぎた。しばらくは我慢しないと。そう考えこの場を足早に去るため先生の脇を通り過ぎようとした。途端、強い力で手首を掴まれる。

「少し来い」
「先生?」

引っ張られ連れてこられたのは準備室。中に入り鍵をかけられる。先生の意図が分からず警戒していると壁際に立つ私の顔の横に手をついた。以前クラスメイトの女子が話していた壁ドンなるもの。普通ならドキドキするらしいが今は違う意味でドキドキしていた。

「ユナイデル、お前何を隠してる」
「な、にも⋯⋯」
「この間お前が来て話した後の記憶がごっそりない。魔法の痕跡を感じとったが解除ができねぇ。ツテで調べたら遠い昔の魔法だと。どう説明する気だ」
「何の話ですか」

さすが教師でもっとも国のトップ、魔法使いに近い男。先生にこれ以上何かするのは危険すぎる。何もせず帰るべきだ。

「何を言っているか分かりません。私の後に来た生徒の仕業ではないでしょうか。私は先生に不正の事実がないことを説明した後ここを出ただけです。そろそろ授業の時間なので教室に戻っていいでしょうか」

淡々と説明をする。嘘がバレないよう事実を混ぜながら。
すると先生の表情が突然消えた。怖い、そう思った矢先両腕を拘束される。

「何をっ」
「シラを切るつもりならしょうがねぇ」

目に見えない何かに束ねられた両腕が意思に反して頭上へ持ち上がる。抵抗も虚しく罪人のような格好になり先生を見上げる。鋭い目つきで見下ろす先生は私の顎を掴み少し笑った。

「お仕置きだ」

そして噛み付くようなキスが落とされた。
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