おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと

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短編的なの書こうかなの章

閑話5-2 怪盗との対決

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 時夫とルミィは警備員さんの格好をしている。
 予告された時刻が日付変更直前であったためにお子様のイーナはお留守番で、おうちこと神殿でぐっすり寝ている。

「イーナがいないのは残念ですが、仕方ありません。
 私だけでも怪盗は血祭りにあげます」

「探偵の言うことじゃないけど、そもそも推理とかしない拷問探偵なんだもんなぁ」

 時夫とルミィは王立博物館で『ドラゴンの心』を守っている。
 モルガー刑事とその部下達は博物館の周辺を見回っている。
 空から来たら問答無用で撃ち落とすらしい。

「ドラゴンの心いいなぁ。大きくて。お値段高いんだろうなぁ」

 巨大な赤い石の中にグルグルと赤い光が渦巻いている。
 これでファイアボールぶっ放したらスカッとするんだろうなぁ。

「そう言えばモルガー刑事と何を話していたんですか?」

「ああ、大したことじゃないけど、ほら、クリムの司法……」

 どっかーん!

 その時、爆発音が轟き博物館全体が揺れた。
 天井からパラパラと埃が落ちてくる。

 一人の警備員の女性が時夫達を呼びに来た。

「大変です!あっちに怪盗が!」

「むむ!カトンボころす!」

 ルミィがすっ飛んでいった。
 他の警備員達もワラワラと外へ出て行く。
 残ったのは時夫と女警備員だけ。

「あなたも早く捕まえに行って下さい!」

「え?それは俺の仕事じゃないぞ」

「え?」

「俺の仕事はこの魔石が他の人に盗まれない様に見ておくことだ。
 だから見ておかないと」

「いや……でも」

「俺は見ておくのに忙しいから。それが俺の仕事ね。捕まえるのがあなたの仕事なら、あなたは俺は気にせずに行っといで」

 そう、仕事の領分をしっかりと認識するのが出来る男というもの。
 他の人が追いかけ待てるのに時夫まで行くことはない。

「………………魔石が偽物と取り替えられてないかチェックしますね」

 女性がガチャガチャとガラスケースの鍵を弄ってる。
 鍵借りて来たのかな?

「あれ?……あれ?」

 頑張ってるけど無駄なのだ。

「それ、開かないよ」

「……へ?」

「『接着』でくっ付けちゃったから」

 要は時間までに盗まれなければ勝ちなのだ。
『接着』は魔法使用者が『剥離』を使わないと解除はほぼ不可能な魔法。
 一応物凄く魔力を使う方法で何とかするとか、とんでもない力を加えると解除されるらしいが並の魔法使いには不可能だ。

「ほら、俺『接着』使えるんだよ」

 警備員の襟にトキオバッジをくっつけて見せる。

「で、それ本物かどうか見ないとわからなさそう?」

 時夫は手に取ってみてもよく分からないが。

「……!!そうです!直に見ないと!」

「ふーん。『剥離』」

 鍵を開けられるようにしてあげた。
 女警備員は直ぐにドラゴンの心を手に取ろうと……して出来なかった。

「それね、魔石と設置してる場所を『接着』でくっ付けてるから。
 あと、周辺一体全部『接着』で一体化してるから床ごと壊さないと無理だよ。
 ああ……あとクリムって元大工がここの改築に関わってたみたいでさぁ、そいつに司法取引で手伝わせてこの魔石とその台座は建物の土台と一体化させたからね。
 俺と今は牢屋にいるクリムの両方が『剥離』を使わないとこの魔石は手に入らないよ。
 他の人が無理やりに解除しようとすれば魔石は壊れちゃうだろうし、その瞬間に世界最大の炎の魔力が一気に解放されて大変なことになるだろうね。
 諦めたら?」

「………………なるほど。流石は拷問探偵の助手といったところね」

「早よ逃げないと拷問されて殺されるぞ」

 忠告してやる。
 しかし、ルミィが早くも戻って来た。

「トキオ!怪盗は見当たりません!……あ、何を女の人と楽しくお話ししてるんですか!」
 
「違うって。この人は……」

「ふふ……今日は負けを認めるわ!さよなら!」

 ――バフン!

 辺りに煙が充満する。視界が完全に効かなくなってしまった。

「ケホケホ!カトンボめ!どこだー!」

 ルミィが喚いている。

「ルミィ、こっちだ」

 時夫が手を取って走って誘導する。
 裏口から逃げるのか。
 安直な。

 裏口の方には警察官が何人か倒れていた。
 気絶している様だ。
 しっかりして欲しい。

 路地の方にそのまま進む。

「な!?何で追って来れてるの?」

 女警備員こと怪盗⭐︎タコネズミ発見!

「そりゃあ俺のトキオバッジ付けてればね」

 言われて怪盗さんが外そうとするが、勿論取れない。そういう魔法だ。
 なんと怪盗は仕方なしに服を脱ぎ捨てて下着姿になった!

「ちょ……!?トキオ!見ちゃだめです!」

「うわぁ!?」

 ルミィに目を塞がれる。
 ルミィともつれ合ってる隙に怪盗がマントを羽織った。
 どうやら『空間収納』も使える様だ。

 そして取り出したのはマントだけではない。

「あれは……カイト?」

 そう凧揚げの凧の巨大なバージョンを背負って装着した。
 物語の忍者みたいだ。
 タコネズミ……凧を背負う鼠小僧ってか?

「ではまた会おう探偵さんと助手さん」

 タコネズミは笑いながら手に緑の魔石のついた杖を握っている。
 路地に強い風が吹いてタコネズミが一気に空に舞い上がる。

「追いかけますよ!トキオ!」

 ルミィが負けじと空を目指す。

 要するにタコネズミは飛行するのに、単純に自分自身が装着している凧に魔法の風を当てて、その風の角度や強さだけで空を飛んでいるのだ。
 形状だけで杖と凧どちらが空を飛ぶのに適しているかなぞ説明の必要も無いだろう。
 ……ルミィも似た様に羽でも背負ったら飛びやすくなるんじゃ?

 そして、時夫はこの飛行技術が戦場で流行らない理由も気が付いていた。

「ルミィ、もうちょい近づいてくれ。
 それで勝てる。『空間収納』」

 時夫は自分達とタコネズミの間に小さな火炎スライムをパラパラと散布した。
 凧は飛ぶのに自分自身に風を当て続けないといけない。

「ちょ!?きゃあ!あちち!」

 ばら撒かれた火炎スライムが勢いよく周囲の風ごとタコネズミに殺到した。
 そう、凧飛行はルミィの杖飛行よりは技術的には簡単だが、自身に向かってくる攻撃が風に乗ってしまう場合は避けにくくなるのだ。、
 スライムじゃ無くても、火を付けた油の染み込んだ紙吹雪でも撒き散らされれば直ぐに墜落
 もし攻撃と安全な空気とを分離する技術があれば大丈夫だ。
 しかし、そんな技術があるなら、普通に杖でそれなりの速度で飛べると思われるので、やはり凧使用は課題が多そうだ。
 
 時夫は無慈悲に火炎スライムを散布し続ける……のは流石に可哀想なので、考え方を変えた。

「あれって……あの凧って身に纏ってると言えるよな?」

 試しに服を溶かすスライムをポイっとな。

「え!?今度は何!?え!?服が!?」

 凧の様子を確認する。
 お!ちょっと穴が開いた!服判定か!?
 アクセサリーだと溶けないけどいけたか!?

「トキオ!何考えてるんですか!卑猥です!」

 しかしルミィからお叱りが来たので断念。
 
「いや、エロ目的じゃないよ」

「だとしてもダメ!」

 まあそうか。
 仕方なくノーマルをばら撒くが、タコネズミには、ノーマルと服を溶かすヤツの区別が付かないようで錯乱状態だ。

「ちょ!やめて!いやーー!!」

 タコネズミは堕ちていった。

 王都の中心部からは結構離れてしまった。
 ……というよりここは時夫達の住む神殿の敷地内だ。

「ふふふ……やはり空は私のもの……」

 ルミィが何か言ってるが、今回活躍したのは誰がどう考えても時夫だ。
 タコネズミは『エアーバインド』で縛って逃げられないようにしている。

 散布したスライムは時夫目当てに勝手に集まって来たので回収できた。

「で、なんで怪盗なんてしてるんだ?」

「そうです。ちゃんと質問に答えなければ、私がなぜ拷問探偵と呼ばれているのか、その身をもって知ることになりますよ」

 ルミィが脅しをかける。
 
「う……ちゃんと話します」

 怪盗⭐︎タコネズミは語り出した。
 タコネズミの名前はタリサ。
 教師をやる傍らで休日には子供達に文字の読み書きを教えるボランティアをしているそうだ。
 しかし、ボランティア団体が財政難に陥り、国からの補助金も打ち切られてしまってお金に困って怪盗をやるようになったそうだ。

 タリサが怪盗に目を付けた理由は、ただ子供の頃に読んだ物語に憧れてと言うことだった。
 自分が本を通して様々な世界に憧れを持ったように、子ども達にも文字に触れて視野を広げて欲しかったのだと。

「私は……どうなるのでしょうか。
 処刑されますか?……私の所属するボランティア団体は私のしている事は知りません。
 単に匿名の寄付がたまにあると思っていて。
 お願いです!子供たちが読み書きを無料で習える唯一の場所なんです!
 私はどうなってもいいので、あの場所は消さないで下さい!」

 タリサは涙を溢してボランティア団体の存続を訴えた。
 そして、時夫はめちゃくちゃチョロい男だった。

「ルミィ……許してやろう」

「トキオ?甘くないですか?」

「でも、お前も国民の識字率の低さを嘆いていたし、平民の基礎教育に興味持ってただろ?
 あと、俺が出版した本を是非とも子供達に読んで欲しい。
 そして生活魔法のカリスマとして俺を崇めて欲しい。
 その為には文字の読み書きが大切なんだ!」

 時夫は力説した。

「生活魔法のカリスマ?」

 タリサは不思議そうな顔をしたがどうでも良い。
 時夫はまだカリスマと呼ばれることを諦めていないのだ。

「……わかりました。
 しかし、今後活動を確認したらイーナとともに世界の果てまで追いかけ回して全身蜂の巣にします。
 あと……ボランティア団体には補助金が出るように取り計らいましょう。
 そして、事業規模は拡大してもらいます。
 私も責任ある立場として国民の教育を考えていかないといけません」

 時夫のまっすぐな気持ちがルミィに届いた。

「ありがとうございます!!」

 タコネズミも時夫に感謝している。
 悪い人では無いようだ。後で直筆サイン入りの生活魔法の著作をプレゼントしてやろう。
 時夫は心が広いのだった。



 ♢♢♢♢♢



 後日、
 タリサから手紙が届いた。
 怪盗からは足を洗って、以前より多くの子供たちに文字を教えているそうだ。
 タリサの活動は評判になり、大人の中にも習いに来る人がいて毎日が充実していると感謝が綴られていた。

「良いことしたよなぁ……」

「まあ、空を諦めたのなら良かったです」

 ルミィと街をほっつき歩きながら駄弁っていると、最近見慣れた顔が向こうから歩いて来た。

「お、タークじゃん。悪いことしてないだろうな?」

「何だ!?藪から棒に失礼な!最近僕はボランティア活動をしてるんだぞ!」

「ボランティア?」

 嫌な予感がする。

「ふふふ……子供達に文字の読み書きを教えてやってるのさ!
 トキオのように冒険者の様なヤクザな商売してるのとは訳が違うんだ!」

「まさか子供目当て……?いや、違うな。
 そういやタリサはまあまあ美人だったな」

「むむ……!?タリサたんを知ってるのか?
 ふんっ!タリサたんは僕を頼ってくれてるんだ!トキオの入る隙はないぞ!」

「はあ……そうか」

 警察相手に怪盗として渡り合ってた訳だし、ターク相手に心配することも無いかな。

「まあ、じゃあ……がんばれ」

「ふんっ!言われるまでもないさ!」

 タークは立ち去った。

 タークが意外と良い教師としてそれなりに有名になるのはもう少し先の話になる。
 その後も何度か届いたタリサからの手紙でもタークはそこそこ褒められていたので、このまま改心してくれると助かるなぁ。

 怪盗も居なくなって、下着泥棒も最近は発生していない。
 モルガー刑事も暇そうに時夫の店に入り浸るし、平和なのは結構なことだな。

 

 
 

 
 
 
 
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