おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと

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短編的なの書こうかなの章

閑話3 蚤の市を楽しもう

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「蚤の市?」

「そうなんだよ!手伝ってくれよ!」

 時夫の饅頭屋にやって来たのはテオールだ。
 街の広場で今度開かれる蚤の市の手伝いを頼まれている。

「よくここに俺がいるってわかったな?」

「ああ……何だっけ?あのタクなんとかに聞いたんだ。
 毎日目覚まし時計買っていく奴にさ。
 これくらいの時間にここに来ればいる確率が高いって」

 ターク・ナーデッドはウィルの魔道具屋にも毎日行ってるのか……。
 そして、何故か時夫の出没時間帯を把握済み。怖っ!女性店員達に厳戒態勢取らせとこう。
 防犯用の魔道具を支給しなくては!……それもウィルに頼むか。

「しかし身長伸びたなぁ。そんなに伸びなくていいぞ」

「普通は大人なら大きくなれよって言うところだろ!」

 テオールに饅頭とお茶をご馳走しつつあれこれ言っていると、フォクシーが近づいて来た。
 真っ白なフサフサの尻尾を緩やかに揺らしている。狐耳もパタパタとさせて忙しない。
 この店の看板娘兼店長だ。

「オーナー。その子はどちら様ですか?」

「ああ、何つーか……友達?だよな」

 そう言いながらテオールを見ると、フォクシーを見つめつつ、顔を真っ赤にしていた。そして、微動だにしない。

「テオール?」

 時夫が声を掛けるとビクッと体を震わせてから、慌てて自己紹介をする。

「お、俺!テオール!……よろしく!!」

 ちょっと声がひっくり返ってる。耳まで真っ赤だ。
 おやおや?
 ここまであからさまだと流石の時夫であってもピンとくる。

「俺が世話になってるところの魔道具屋の息子だからさ、来たらサービスしてやってよ」

「はい!わかりました!私はフォクシーと言います。よろしくお願いします!」

「フォクシーさん……素敵な名前ですね」

 よしよし……常連になるが良い。
 
 しばらくして新作のフルーツ饅頭やら、クリーム饅頭やらをフォクシーが持って来た。
 店名に合わせて饅頭と言ってるが、包んでいる生地は大福みたいなモチモチな生地で包んでいる。
 日本で食べれる大福とは微妙に食感が違う気もするが、植物が完全に同じものがないので、多少の違いは気にしてはいけない。

「オーナーの指示に従って頑張って作りました。
 自信作ですよ!」

 自信があるのは本当なのか、白い尻尾が左右にブンブン揺れている。

「よし、テオールから食ってくれ」

「え、あ、うん」

 テオールが饅頭を一口で頬張る。

「う……うまい!」

 良かった。異世界生まれ異世界育ちの人にも受け入れられそうだ。
 時夫も食べてみる。うん。美味しい。
 日本のとはやはり違うが、同じ名前の別物と考えれば良いし。

「よし!これで行くぞ!」

 店内は前よりは少し客が入っている。
 よく見ると王都警察署のモルガー刑事がいる。
 今や常連客だ。
 あの人が居てくれると、ターク・ナーデッドが店に来るのを予防できるからありがたいんだよな。

「あの警察署のメンバーにも新作を無料で食わせてやってくれ。知り合いなんだ」

 公権力と仲良くしておいて損はない。

「はーい!」

 立ち去るフォクシーのフサフサ尻尾を、テオールがぽけーっと見ている。
 うーん……もしや自分もルミィをこういう間抜け顔で見てたりしたら恥ずかしいなぁ……と、時夫はテオールの間抜け顔を他山の石として気を引き締めることを誓った。
 

 そんな訳で蚤の市の参加は決まった。
 当日。


「え?ミーシャ!?ミーシャと俺で販売するの!?」

「ごめーん!俺、バイト先に手伝うよう言われてたの忘れててさ!」

「ちょっとテオール!私もトキオさんと二人なんて聞いてないけど!」

 テオールの姉ミーシャが怒って顔を真っ赤にしている。
 今日は薄茶色の髪を高い位置でお団子にしていて、なかなか可愛らしい。
 彼女目当ての客に魔道具屋は支えられているのだ。

「へへ……!じゃあね!お二人さん頑張ってよ!」

 テオールは逃げていった。
 逃げ足が早くなったな。

「仕方ない。頑張るか!」

「……はい!頑張りましょうね」

 ミーシャが新緑の瞳を細めて微笑む。
 よし、ここに美人看板娘がいるんだ。売って売って売りまくってやる!
 時夫はやるからには全力で挑むことを決めた。
 

 今回の蚤の市、ウィルの魔道具屋からは光魔法のクズ石を利用したカラフルに光るだけの短いステッキや、腕に巻きつけると数時間同じ様に光る腕輪が出品されている。
 店ではなかなか売れないので在庫処分だ。
 日本のお祭りでも光るオモチャは売ってるし、お祭り感覚で買う人がいそうだ。
 
 時夫も宣伝用にオレンジのステッキを光らせている。
 本体がオレンジに淡く光りつつステッキの周囲に光の粒が漂い弾けながら渦巻いて空間に溶けていく。
 昼間に見てもなかなか綺麗だ。

「へぇ……でも、ステッキも腕輪も一日も待たずにゴミになるんでしょ?
 それで50ゴルダは高くない?30か……20くらいで売ってよ」

 なんと値切り交渉だ。
 5歳くらいの子連れのお母さんだ。お子さんがピンクのステッキをご所望だ。
 因みに50ゴルダは日本円に換算すると多分500円くらい。

「いや、クズ魔石を補充すればまた光る様になりますから。
 今は昼間だから目立たないですけど、夜にこれを持ってれば目立ちますよ。
 腕輪もどうですか?夜出かける時にお子さんに付けさせておけば、迷子になりにくいのでは?」

「じゃあ、腕輪を……」

「やだ!ステッキが良い!ピンクの!」

「ワガママ言わないの!」

 おっと、余計なことを言ったかな?
 どちらかしか買わないならお子さんの要望を聞いて欲しいが……。

「では、両方で60ゴルダでどうでしょう?初めてのお客さんだから特別にオマケしときますよ」

 ミーシャがセット割引を提案した。

「あら、それなら両方買おうかしら」

「お買い上げありがとうございまーす!」

 その後もポツポツ売れるが、段々とお客さんが列をなす様になった。
 どうやら先に買ったお客さんが持ってるのを見て欲しくなったようだ。
 子供連れが多いが、カップルでお揃いの色の腕輪を付けていくのもいる。

 結局、昼前には全て売り切ってしまった。


「良かった、在庫全部捌けました」

 ミーシャが嬉しそうだ。

「せっかくだし、このまま解散じゃなくてあちこち見て回るか」

 時夫は当然、この世界の蚤の市なんて初めて来る。売り子として頑張りつつも他の店が気になって仕方がなかった。

「え!?ルミィさんは良いんですか?」

「……?ルミィは今日は調べ物に行くからとか言ってたし、特にルミィには何の用事もないけど?」

 突然どうしてルミィの名前が出て来たのか分からない。
 常にニコイチと思われているのか。それはそれで嬉しいが。

「あ……そうなんですね。じゃあ、ご一緒します!」

 ミーシャが嬉しそうに笑った。
 並んであちこちの店を冷やかす。かなりお安く日用品を売ってるところもあるが、謎の壺とかが10万ゴルダで売られてる所は怪しくて近寄りたくない。
 間違って割ったら時夫の店の一月の吊り上げがパアだ。

 食べ物の出店もやってる。

「あ!串焼き肉が出張してる!」

 時夫御用達の串焼き肉のいつものおっちゃんが鮮やかな手並みで大量の串焼き肉に味付けしつつ、客を捌いている。
 おっちゃんも時夫に気がついた。

「お、にいちゃん!いつもの女の子どうした!?浮気か!?ほどほどにしとけよ!」

「デカい声で変なこと言わないでください!
 ミーシャは串焼き肉嫌いじゃないよな?二本くらい食えそう?」

「あの……一本で……あ、お金出します!」

「俺が年上なんだから見栄張らせてよ。……おっちゃん!串焼き肉三本ね!」

 座れるところを探すが、人でごった返してる為にどこも空いてない。

「座れそうにないな……立ったまま食べるの気にする?」

 時夫だけなら歩き食いするが、年頃の女の子に強要するもんでもない。

「大丈夫です……トキオさんが気にしないなら」

 往来から少しだけ離れたところまで行ってから、立ち食いする。
 ミーシャはチマチマと食べる。一本だけでも食べ切るまで時間かかりそうだな。

 やはり串焼き肉のこのスパイスは至高の味だ。
 おっちゃんにレシピを聞いたが勿論教えて貰えなかった。
 毎日食べても飽きない美味しさだ。

「この串焼き肉を食べると思い出します。
 トキオさん達が私たち家族を救ってくれた時のこと……」

 ミーシャがポツリと呟いた。
 そう言えばミーシャ含む一家の子供達に奢ってやったっけ。

「そんな事もあったな。
 今ではウィルの店には世話になりっぱなしだからなぁ。
 偶然だったけど会えて良かった」

 ウィルはなかなか腕利きの職人の様で、無茶な要望にも応えてくれて安心感がある。
 ミーシャやテオールも少しずつ父親からその技を習っているそうなので店は安泰だ。

「私も!トキオさんに出会えて嬉しいです!
 それで……その、トキオさんって……ルミィさんとお付き合いとかってしてるんですか?」

 ミーシャがトキオを上目遣いで見上げながら意を決した様に聞いて来た。
 その頬が赤い。
 …………なんか勘違いしちゃいそうになるなぁ。たまにテオールがその手のからかいをして来るのもあって。
 でも、年齢差が多分10歳以上あるしあり得ないんだもんなぁ。
 そして、ルミィとのことは最近よく色々な人に聞かれる。
 やはり顔に出ちゃってるのかもしれない。

「やっぱりバレるかぁ……いや、ルミィとは付き合ってないけど。なんというか……ルミィは特別だよ。うん」

 好きとか、直接的な表現は流石に恥ずかしくて出来なかった。
 ちょっと頬が熱い。
 時夫は誤魔化す様に串焼き肉に齧り付く。

「特別……ですか」

「うん……そうだな。特別」

「特別って、どんな風に特別ですか?」

 ミーシャがまさかの追及。
 新緑の瞳が時夫の目を正面から見つめる。

「え?いや、特別に……特別な……」

 時夫は恋バナに慣れてない。
 少女の様にモジモジするしか無い。

「ちゃんと説明して下さい!じゃ無いと分からないですよ!」

 なんで追及されてるのかは分からないが、勢いで時夫は後退る。
 ミーシャは追い詰めてくる。

「特別って何ですか!?」

 そんなのは特別に一番大好きとかに決まってるけど時夫にそれを言える恋愛経験は無い。
 しかし、そこは明言せずにちゃんと答えようと頑張る。

「その……命の恩人だし……いつも一緒にいるし……戦友だし…………俺の爺さんを一緒に看取ってくれたし……」

 ミーシャは黙って聞いている。
 時夫は頭の中でルミィへの想いが言葉になってくる。

「いつも俺のために動いてくれてるんだ……多分今日の調べ物も俺に関することだ。
 戦闘狂だけどさ、一番危険な手を汚す役割を進んでやってるんだよ。
 他の人を……俺を守るために。
 それに身分をなるべく隠していたいみたいなのに、俺を守るために権力使って他の人を脅したりもしてさ。
 俺のために何でもしてくれるんだよ。
 俺はそれに報いる事ができないのに」

 本人には言えない言葉が出て来る。
 時夫は日本に帰るのだ。
 ルミィはこちらの世界的にはとっくに結婚して子供が複数いてもおかしく無い年齢だ。
 未来の無い時夫に時間を割いていては本当はダメだ。
 時夫もそれを分かっていて一緒にいる。せめてものワガママだ。
 
「ルミィが一緒に居てくれって言ってくれるなら……俺はどこにも行かない。家族も見捨てる。
 でも……ルミィはそれはシラフじゃ絶対に言ってくれないな。
 俺達はお互いの未来の足枷になっちゃいけないんだ。
 それを互いに分かってるから……分かってる事もお互いに分かってるから……俺たちは最高の特別な相棒なんだ。
 恋人じゃ無いけど、もっと凄いやつだよ」

 ルミィは特別だ。変えなんて効かない。彼女の相棒を名乗れる事が時夫にとって最大の自慢だった。
 きっとこれから先の人生でこれ以上は無い。

「…………そうですか。恋人以上ですか。
 …………かなわないなぁ」

 ミーシャの言葉の後半は小さくて時夫には聞き取れなかった。
 ミーシャが串焼き肉を口いっぱいに頬張って一気に食べ切る。
 そしてニッコリ笑った。

「お迎えが来た様ですよ。
 今日はありがとうございました。また店に来て下さいね。
 今日のお礼させてもらいますから!」

「お迎え?」

 時夫が聞き返したのには答えずに、ミーシャは背を向けて人混みに消えていく。
 一人取り残された時夫。

「トキオ!」

 聞き慣れた声がした。
 そちらを見るとルミィが長いミルクティー色の髪を靡かせて駆け寄って来た。

「……今、女の人と一緒じゃありませんでした?」

 ルミィが冷たい目で時夫を見つめる。

「いや、ミーシャだよ。店手伝ってたんだよ」

「店?ここに店は見当たりませんけど?」

「いや、完売して昼飯代わりの串焼き食ってたところで……」

「随分と仲良しですね?」

「そうでも無いって!というか、どうしてここに居るって分かったんだ?」

「フォクシーに聞いて来たんです。
 テオールとお店やるって言っていたと。
 ……まあ良いでしょう。私も予定は少し早めに切り上げて来ました。
 せっかくですし楽しみますよ!」

 ルミィが時夫の腕をとって人混みに繰り出す。
 その日は特に変わったことなんて何も起きなかった。
 だけど、相棒とのデートはいつだって最高に楽しいに決まっていた。
 

 
 
 

 
 

 

 
 
 
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