おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと

文字の大きさ
上 下
94 / 129
探求の天使

第91話 秘密を知った者

しおりを挟む
「では、ちょっと夜風に当たりましょうか。
 ここの支払いはお任せください。……レティシャ」

「……はい」

 ルミィが微笑みを浮かべてレティシャに命じる。
 レティシャも控えめな笑みを浮かべ、恭しく使用人としての礼をとる。
 
「え、ホント?奢って貰えて嬉しいにゃ~」

 優美な足取りで先導するルミィ。
 ゆったりとした動きだが、一才の隙がない。
 ケイティは跳ねる様に楽しげに着いて行く。

 レティシャが戻ってきて、最後尾で時夫……では無くケイティを見張る。
 えーっと……先ほど以上に不穏な空気を感じる。

 外に出ると、ルミィはいつの間にか杖を握っていた。
 そのまま、街外れまで歩いて行く。
 誰も何も話さない。
 ケイティのその饒舌さもなりを潜めている。

 月明かりだけが周囲を照らす。月は二つともとっくに昇っていた。
 涼しい夜風が月光を受け止めて輝くルミィの金色の髪を靡かせる。
 ルミィが足を止めた。
 ケイティの手から、長い爪が伸びていることに時夫は今気が付いた。

「それで……」

 ケイティが口を開いた瞬間には、魔法の追い風に乗ったルミィが、ケイティの胸に手を伸ばしている。

「ちっ……!」

 だが、相手は獣人だ。
 それも特に瞬発力に優れた猫獣人。
 いかにルミィが人族の中で近接戦闘に長けていたとしても、生まれ持った資質が違う。
 
「……ふっ!」

 バックステップでルミィから逃れたケイティだったが、その先には殺意に満ちたメイドが待ち構えている。

 いつの間にか両手に黒いタガーナイフを構えていたレティシャは、信じられない程に低い体勢からケイティに迫る。

「うにゃは!人族の攻撃なんて!ってうわ!」

「『ウォーターカッター』」

 レティシャがタガーでケイティの首筋に近づけ囁くように呟いた。
 タガーから瞬間的に伸びた水の刃に切られ、ケイティの髪が数本風に舞う。
 タガーには良く見ると青い魔石が嵌っていた。水色の髪と瞳が表す様に、レティシャは水の魔法を得意とするらしい。
 そして、ルミィの配下だけあって接近戦の使い手だ。

 ケイティはしなやかな体で飛び跳ね、四つ足で着地し、全身のバネを使って……時夫に迫ってきた。

「トキオ!」

 ルミィが叫ぶ。

「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」

 ビョン!と跳ぶ!

「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」
「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」
「『ウサギの足』『滑り止め』!!!」

 ビョンビョンビョン!!!

「え!?」
「トキオ!?」

「なんか面倒くさそうだから!皆んなで話し合うと良いと思うよ!!」

 それだけ言って、ひたすら大量の魔力にモノを言わせて高速で移動する。

 時夫はまさに脱兎の如くであった。
 なんか多分秘密を知ってしまったケイティはルミィに暗殺コロコロ殺されるって感じになるんだろうけど、時夫には関係ないかなって思うし、ルミィの後ろ暗そうな感じのところは見ないでおいた方が良さげな雰囲気なのでサヨナラする。

 ルミィは強いし、二人がかりなら負ける事は無い。
 きっと二人でボコボコにして、尋問拷問して情報全部吐き出させてから魔物の餌にするんだろうなぁ。

 ケイティは確かに可愛いしおっぱい大きいけど、ルミィの方が美人だし、時夫に色仕掛けは通じないのだ!
 だいたい成人済みかどうか怪しいしな!!君子危うきに近寄らず!

「ちょっと待ってー!あの二人やばいって!見捨てないでよ!!」

 ケイティの声が後ろから聞こえる。
 チィッ!!猫獣人足が速いな!?
 負けるかよ!!

「うおー!!!『ウサギの足』!!!!」

 時夫は偶に負けず嫌いになる。
 こうなった時夫には大人としての分別も、世間体も関係ない。

「負けるかー!!」

「トキオー!その人捕まえてください!」

 ルミィの声も聞こえる。
 多分レティシャは置いて飛んできたんだな。
 だが、

「知るかー!!俺は!!誰にも!!負けない!!」

「ちょっと!後ろのお姉さん怖いよ!助けてよ!」
 
 何故だかケイティは時夫を追いかけて来る。
 そして、時夫達はついに宿の近くまで来てしまった。

 宿の前に小さな人影。
 ボブカットの愛らしい少女が、身の丈を越える宝剣を高く掲げた。

「『光の檻』」

「うわ!」「きゃ!」「ほえ?」

 突然宙に光の剣が時夫の周りに何本も現れ、先に進めなくなった。
 後ろを見ると、ケイティとルミィも同様のようだ。

「遅いから心配してたのに……いったい何事かしら?」

 誰よりも大人な幼女の有無を言わさぬ笑顔に、時夫は肩をすくめる。
 レティシャも追いついた。

「あのー。冷静にお話し合いがしたいにゃーなんて、にゃ?」

 爪をしまってホールドアップしたケイティが愛想笑いを浮かべた。
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...