おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと

文字の大きさ
上 下
88 / 129
花色の天使

第85話 帰国

しおりを挟む
 国に帰って来てすぐに、イーナはすっかり日課になっている家庭菜園の虫の駆除を再開した。

 薬を撒いていたとは言え、それでも少し葉っぱが齧られてしまっていた。
 夏の盛りは過ぎているとは言え、まだまだ虫は出る。
 せっかく苦労して何十年も磨いた技術を鈍らせない為にも、今後も家庭菜園は守るつもりだ。
 
 子供になってしまって、魔力は落ちているものの、老人の頃よりは上だし、邪教徒との今後の戦いに備えておいた方が良い。

 人影が近づく。
 フードを外すと金色の髪がサラサラと溢れる。

「ただいま戻りました。トキオは?」

「冒険者ギルドにスライム退治の仕事を探しに行きましたよ」

「ふーむ。そうですか」

 ルミィが戻って来た。
 最近は外に出るのに、コソコソと隠れる必要が無くなったのか、外出の頻度が高まっている。
 
 アレックス第一王子が公爵令嬢と婚約破棄し、王位継承の戦いのトップから退いた後には、彼女も随分と自由を得たようで、外によく調べ物をしに行くようになった。

 第一王子派、或いは王妃派とも呼べる派閥が縮小し、第一王女であるルミィ……エルミナ王女は、王妃達の目を気にしてこんな所に蟄居している必要はもはや無い。

 風変わりな愛らしい姫君は、唇を指でさすりながら物思いに耽っている。

 彼女は現王、アーネスト王がまだ独身の王太子時代に伯爵夫人との火遊びの末に産ませた子供だ。
 
 エルミナ第一王女は、長年その容姿からも王の子である事は公然の秘密であったが、彼女は王族としては長らく認められなかった。
 不安定な立場にある彼女が、社交の場では他の貴族から避けられていたことは有名だった。
 
 しかし、彼女が魔法学園始まって以来の成績を出しつつ、学生の身分のまま本物の戦場に赴き、数々の武勲を立てて国民の英雄となったことで、風向きは変わった。
 英雄人気を王室に利用できると考えて、王族として認められたのだ。

 だが、王の第一子であり、国民人気も高いエルミナ王女は、我が子を王にと願う正妃にとっては目の上のたんこぶであった。
 様々な嫌がらせ……と言うにはあまりにも酷い数々の事件の末に、元より王位を望まないエルミナ王女は、身分を隠し、神官ルミィとしてここに自ら籠るようになったのだ。

 彼女をひた隠すために、ここにいた他の女神官は他所に移され、それこそ聖女召喚のような重大な理由でも無い限りは、外に出る事は殆ど無かった。
 
 本殿の方には彼女の身分を知る者は何人かはいるだろうが、下働きの者達はまさか本物の姫君が神殿の施設の中でも隅にあるここに閉じ込められていたなんて思いもよらないだろう。

 ……ともかく、彼女に嫌がらせをしていた派閥は力を失った。
 今の王女は自由だ。
 煌びやかな宮殿で過ごす事も出来る。
 なのに、使用人の一人も付けずに、この娘がこんな所に留まり続ける理由は一つしかない。

 ……時夫くんもルミィちゃんの事どうするつもりかしらね。
 本当にこの子を置いて日本に帰るのかしら。

 二人の仲をイーナは前々から気にしている。

「私、もう外に自由に出れるのだし、他所で暮らそうかしら」

 イーナは提案してみた。
 若い二人のお邪魔虫になるつもりは無い。

 イーナをここに縛っていた先王……アルバス・ローダ・アシュラムも、もう何年も前に死んでいる。
 ルミィのお陰で新たな身分を得て、今はイーナをこの場所に縛るものは何も無くなっている。

「ダメです!あなたのような小さい子供を雇うところは無いですし、孤児院にでも行くつもりですか?」

 やっぱりこの娘は優しい。
 出来るだけ二人の邪魔をしない様に過ごしましょうかね。
 まだ、邪教徒はたくさんいる。日本に彼が帰る日が来るとしても、まだそんなに差し迫っている訳では無いのだ。

 ……じゃあ、遠慮せずに二人の行く末を特等席で見守らせて貰いましょう。

「わかったわ。ここで暫くは厄介になるわね。
 せっかく若くなったんだもの。家事もこれまでよりも頑張るわ」

「暫くじゃなくて、ずっといて下さい!」

 なんて可愛いことを言うのだろう。子を持つことの無かった人生だが、娘や孫がいたらこんな感じなのかしら。

「ただいまー。やっぱりここにいたか。
 ルミィも外の用事はもう良いのか?」

「はい!午後は暇ですよ!ギルドの依頼でも受けに行きますか?」

「いや、旅行土産を配らないと。
 アイス屋とギルドの方には渡したよ。他は一緒に周ろう。
 イーナも一緒に行くよな?」

「私は野菜の世話をもう少ししたいわ。
 二人で行ってらっしゃい」

 流石にデートまでは邪魔できない。

「なあ、ルミィ……船出すのってやっぱり金かかるよな?」

「当たり前です!……また外国に旅行行きたいんですか?」

「いや、外国というか人魚っているらしいじゃん」

「攻撃的らしいですよね……」

「日本だと伝説上で……」

 二人は仲良くおしゃべりしながら出掛けていく。
 ティルナーグから帰って来てから、二人の距離は縮まったように思える。

「さて、私ももっと鍛えないとね」

 邪教徒が現れても、二人の邪魔は決してさせない。
 祖父江稲子はイーナに生まれ変わってさらに強くなるのだ。
 子供になっても、出来損ないと言われようと、勇者の矜持は確かにこの胸の中にある。

 子供の身の丈に余る一振りの白銀に輝く剣を地面に突き刺し、光の勇者は今日も家庭菜園を守り抜いた。



 

 あとがき

 花色の天使編終了です!
 新章……どうしようか考えてないけど、毎日更新は譲りません!たぶん!ネタ帳に案は少しはあるので!

 作者モチベの為に、ハートやお気に入り、出来れば感想ください!
 時夫と同じくらい図々しく生きてます!
 今後ともよろしくお願いします!!
 
 
 
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...