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花色の天使
第85話 帰国
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国に帰って来てすぐに、イーナはすっかり日課になっている家庭菜園の虫の駆除を再開した。
薬を撒いていたとは言え、それでも少し葉っぱが齧られてしまっていた。
夏の盛りは過ぎているとは言え、まだまだ虫は出る。
せっかく苦労して何十年も磨いた技術を鈍らせない為にも、今後も家庭菜園は守るつもりだ。
子供になってしまって、魔力は落ちているものの、老人の頃よりは上だし、邪教徒との今後の戦いに備えておいた方が良い。
人影が近づく。
フードを外すと金色の髪がサラサラと溢れる。
「ただいま戻りました。トキオは?」
「冒険者ギルドにスライム退治の仕事を探しに行きましたよ」
「ふーむ。そうですか」
ルミィが戻って来た。
最近は外に出るのに、コソコソと隠れる必要が無くなったのか、外出の頻度が高まっている。
アレックス第一王子が公爵令嬢と婚約破棄し、王位継承の戦いのトップから退いた後には、彼女も随分と自由を得たようで、外によく調べ物をしに行くようになった。
第一王子派、或いは王妃派とも呼べる派閥が縮小し、第一王女であるルミィ……エルミナ王女は、王妃達の目を気にしてこんな所に蟄居している必要はもはや無い。
風変わりな愛らしい姫君は、唇を指でさすりながら物思いに耽っている。
彼女は現王、アーネスト王がまだ独身の王太子時代に伯爵夫人との火遊びの末に産ませた子供だ。
エルミナ第一王女は、長年その容姿からも王の子である事は公然の秘密であったが、彼女は王族としては長らく認められなかった。
不安定な立場にある彼女が、社交の場では他の貴族から避けられていたことは有名だった。
しかし、彼女が魔法学園始まって以来の成績を出しつつ、学生の身分のまま本物の戦場に赴き、数々の武勲を立てて国民の英雄となったことで、風向きは変わった。
英雄人気を王室に利用できると考えて、王族として認められたのだ。
だが、王の第一子であり、国民人気も高いエルミナ王女は、我が子を王にと願う正妃にとっては目の上のたんこぶであった。
様々な嫌がらせ……と言うにはあまりにも酷い数々の事件の末に、元より王位を望まないエルミナ王女は、身分を隠し、神官ルミィとしてここに自ら籠るようになったのだ。
彼女をひた隠すために、ここにいた他の女神官は他所に移され、それこそ聖女召喚のような重大な理由でも無い限りは、外に出る事は殆ど無かった。
本殿の方には彼女の身分を知る者は何人かはいるだろうが、下働きの者達はまさか本物の姫君が神殿の施設の中でも隅にあるここに閉じ込められていたなんて思いもよらないだろう。
……ともかく、彼女に嫌がらせをしていた派閥は力を失った。
今の王女は自由だ。
煌びやかな宮殿で過ごす事も出来る。
なのに、使用人の一人も付けずに、この娘がこんな所に留まり続ける理由は一つしかない。
……時夫くんもルミィちゃんの事どうするつもりかしらね。
本当にこの子を置いて日本に帰るのかしら。
二人の仲をイーナは前々から気にしている。
「私、もう外に自由に出れるのだし、他所で暮らそうかしら」
イーナは提案してみた。
若い二人のお邪魔虫になるつもりは無い。
イーナをここに縛っていた先王……アルバス・ローダ・アシュラムも、もう何年も前に死んでいる。
ルミィのお陰で新たな身分を得て、今はイーナをこの場所に縛るものは何も無くなっている。
「ダメです!あなたのような小さい子供を雇うところは無いですし、孤児院にでも行くつもりですか?」
やっぱりこの娘は優しい。
出来るだけ二人の邪魔をしない様に過ごしましょうかね。
まだ、邪教徒はたくさんいる。日本に彼が帰る日が来るとしても、まだそんなに差し迫っている訳では無いのだ。
……じゃあ、遠慮せずに二人の行く末を特等席で見守らせて貰いましょう。
「わかったわ。ここで暫くは厄介になるわね。
せっかく若くなったんだもの。家事もこれまでよりも頑張るわ」
「暫くじゃなくて、ずっといて下さい!」
なんて可愛いことを言うのだろう。子を持つことの無かった人生だが、娘や孫がいたらこんな感じなのかしら。
「ただいまー。やっぱりここにいたか。
ルミィも外の用事はもう良いのか?」
「はい!午後は暇ですよ!ギルドの依頼でも受けに行きますか?」
「いや、旅行土産を配らないと。
アイス屋とギルドの方には渡したよ。他は一緒に周ろう。
イーナも一緒に行くよな?」
「私は野菜の世話をもう少ししたいわ。
二人で行ってらっしゃい」
流石にデートまでは邪魔できない。
「なあ、ルミィ……船出すのってやっぱり金かかるよな?」
「当たり前です!……また外国に旅行行きたいんですか?」
「いや、外国というか人魚っているらしいじゃん」
「攻撃的らしいですよね……」
「日本だと伝説上で……」
二人は仲良くおしゃべりしながら出掛けていく。
ティルナーグから帰って来てから、二人の距離は縮まったように思える。
「さて、私ももっと鍛えないとね」
邪教徒が現れても、二人の邪魔は決してさせない。
祖父江稲子はイーナに生まれ変わってさらに強くなるのだ。
子供になっても、出来損ないと言われようと、勇者の矜持は確かにこの胸の中にある。
子供の身の丈に余る一振りの白銀に輝く剣を地面に突き刺し、光の勇者は今日も家庭菜園を守り抜いた。
あとがき
花色の天使編終了です!
新章……どうしようか考えてないけど、毎日更新は譲りません!たぶん!ネタ帳に案は少しはあるので!
作者モチベの為に、ハートやお気に入り、出来れば感想ください!
時夫と同じくらい図々しく生きてます!
今後ともよろしくお願いします!!
薬を撒いていたとは言え、それでも少し葉っぱが齧られてしまっていた。
夏の盛りは過ぎているとは言え、まだまだ虫は出る。
せっかく苦労して何十年も磨いた技術を鈍らせない為にも、今後も家庭菜園は守るつもりだ。
子供になってしまって、魔力は落ちているものの、老人の頃よりは上だし、邪教徒との今後の戦いに備えておいた方が良い。
人影が近づく。
フードを外すと金色の髪がサラサラと溢れる。
「ただいま戻りました。トキオは?」
「冒険者ギルドにスライム退治の仕事を探しに行きましたよ」
「ふーむ。そうですか」
ルミィが戻って来た。
最近は外に出るのに、コソコソと隠れる必要が無くなったのか、外出の頻度が高まっている。
アレックス第一王子が公爵令嬢と婚約破棄し、王位継承の戦いのトップから退いた後には、彼女も随分と自由を得たようで、外によく調べ物をしに行くようになった。
第一王子派、或いは王妃派とも呼べる派閥が縮小し、第一王女であるルミィ……エルミナ王女は、王妃達の目を気にしてこんな所に蟄居している必要はもはや無い。
風変わりな愛らしい姫君は、唇を指でさすりながら物思いに耽っている。
彼女は現王、アーネスト王がまだ独身の王太子時代に伯爵夫人との火遊びの末に産ませた子供だ。
エルミナ第一王女は、長年その容姿からも王の子である事は公然の秘密であったが、彼女は王族としては長らく認められなかった。
不安定な立場にある彼女が、社交の場では他の貴族から避けられていたことは有名だった。
しかし、彼女が魔法学園始まって以来の成績を出しつつ、学生の身分のまま本物の戦場に赴き、数々の武勲を立てて国民の英雄となったことで、風向きは変わった。
英雄人気を王室に利用できると考えて、王族として認められたのだ。
だが、王の第一子であり、国民人気も高いエルミナ王女は、我が子を王にと願う正妃にとっては目の上のたんこぶであった。
様々な嫌がらせ……と言うにはあまりにも酷い数々の事件の末に、元より王位を望まないエルミナ王女は、身分を隠し、神官ルミィとしてここに自ら籠るようになったのだ。
彼女をひた隠すために、ここにいた他の女神官は他所に移され、それこそ聖女召喚のような重大な理由でも無い限りは、外に出る事は殆ど無かった。
本殿の方には彼女の身分を知る者は何人かはいるだろうが、下働きの者達はまさか本物の姫君が神殿の施設の中でも隅にあるここに閉じ込められていたなんて思いもよらないだろう。
……ともかく、彼女に嫌がらせをしていた派閥は力を失った。
今の王女は自由だ。
煌びやかな宮殿で過ごす事も出来る。
なのに、使用人の一人も付けずに、この娘がこんな所に留まり続ける理由は一つしかない。
……時夫くんもルミィちゃんの事どうするつもりかしらね。
本当にこの子を置いて日本に帰るのかしら。
二人の仲をイーナは前々から気にしている。
「私、もう外に自由に出れるのだし、他所で暮らそうかしら」
イーナは提案してみた。
若い二人のお邪魔虫になるつもりは無い。
イーナをここに縛っていた先王……アルバス・ローダ・アシュラムも、もう何年も前に死んでいる。
ルミィのお陰で新たな身分を得て、今はイーナをこの場所に縛るものは何も無くなっている。
「ダメです!あなたのような小さい子供を雇うところは無いですし、孤児院にでも行くつもりですか?」
やっぱりこの娘は優しい。
出来るだけ二人の邪魔をしない様に過ごしましょうかね。
まだ、邪教徒はたくさんいる。日本に彼が帰る日が来るとしても、まだそんなに差し迫っている訳では無いのだ。
……じゃあ、遠慮せずに二人の行く末を特等席で見守らせて貰いましょう。
「わかったわ。ここで暫くは厄介になるわね。
せっかく若くなったんだもの。家事もこれまでよりも頑張るわ」
「暫くじゃなくて、ずっといて下さい!」
なんて可愛いことを言うのだろう。子を持つことの無かった人生だが、娘や孫がいたらこんな感じなのかしら。
「ただいまー。やっぱりここにいたか。
ルミィも外の用事はもう良いのか?」
「はい!午後は暇ですよ!ギルドの依頼でも受けに行きますか?」
「いや、旅行土産を配らないと。
アイス屋とギルドの方には渡したよ。他は一緒に周ろう。
イーナも一緒に行くよな?」
「私は野菜の世話をもう少ししたいわ。
二人で行ってらっしゃい」
流石にデートまでは邪魔できない。
「なあ、ルミィ……船出すのってやっぱり金かかるよな?」
「当たり前です!……また外国に旅行行きたいんですか?」
「いや、外国というか人魚っているらしいじゃん」
「攻撃的らしいですよね……」
「日本だと伝説上で……」
二人は仲良くおしゃべりしながら出掛けていく。
ティルナーグから帰って来てから、二人の距離は縮まったように思える。
「さて、私ももっと鍛えないとね」
邪教徒が現れても、二人の邪魔は決してさせない。
祖父江稲子はイーナに生まれ変わってさらに強くなるのだ。
子供になっても、出来損ないと言われようと、勇者の矜持は確かにこの胸の中にある。
子供の身の丈に余る一振りの白銀に輝く剣を地面に突き刺し、光の勇者は今日も家庭菜園を守り抜いた。
あとがき
花色の天使編終了です!
新章……どうしようか考えてないけど、毎日更新は譲りません!たぶん!ネタ帳に案は少しはあるので!
作者モチベの為に、ハートやお気に入り、出来れば感想ください!
時夫と同じくらい図々しく生きてます!
今後ともよろしくお願いします!!
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