おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと

文字の大きさ
上 下
86 / 129
花色の天使

第83話 凱旋

しおりを挟む
 バトー町に帰ってきた。
 その頃にはすっかり月が昇っていた。2つの三日月が空から時夫達を見下ろし笑っている。

 町の混乱は帰るころにはほぼ収まっていたが、バトリーザの死をイケメン達に伝える事で、完全に収束した。彼らは大いに嘆いた。
 中には涙を流す者もいた。
 勘違いジジイのバートンも泣いている。その涙を拭ってやってるヴェルダ婆さんは良い人なのだろう。乱暴に扱われてたのにお人よしだ。

 町長は喜んでいた。
 イケメンじゃないし、お国に恩を売れるだろうから。

「で、その子供達は?」

 そう、問題のぶーたれてる美少年達だ。全員ダボダボの大人の服を着ていて態度が悪い。

「バトリーザが死んだ際に、色々あって魔法が暴発して、ああなりました」

 細かい説明はしない。
 何故なら、時夫は若返る効果を持つ金粉入りスライムを所持しているからだ。
 それがあればイケメンじゃ無くても……目の前の禿げたビール腹の町長でも若々しくなれるのだ。
 多分何としても欲しいと言い出すだろう。

「こちらの町の住人なんですから、こちらで面倒見てください。
 見た目はあの通りですけど、中身は大人なので、普通にある程度は働けますし、こき使ってやってください」

「なるほど……わかりました。町長として私がしっかり面倒見ましょう」

 少し小狡いところもあるが、町長自身はそこまでの悪党ではなさそうだ。
 まあ、時夫が騙されているだけでも、酷い目に遭うのは元イケメンのガキどもなので何の問題も無い。

「それで、若さを失った女性達はどちらに?
 バトリーザの呪いを解けるかも知れません」

 これも事前にコッソリ移動しながら話し合ったのだ。
 バトリーザの老化は呪いの様なもので、死後であれば神聖魔法の力で呪いは解けるかも知れないと。

「わかりました。町民に声を掛けて、女性は明日集まる様に言っておきます。
 今夜は遅いので、もうお休みになられては?
 良ければ我が屋敷にまた来ていただいても、おもてなしさせて貰いますよ?」

「いえ、仲間たちと一緒に居たいので、宿の方に行きますよ。
 では、明日はよろしくお願いします」
 
 宿に戻ってきた。
 ルミィが攫われそうになっていた女性に声を掛けている。
 女性はルミィに抱きつき、感謝を述べているようだ。良かった。怖かっただろう。
 その間に時夫は女性の護衛を任されていた冒険者達に謝礼を支払おうとした。
 しかし、むしろ前金も返されてしまった。

「この国の憂いを断ち切ってくれたんだ。
 むしろ金を払っても良いくらいだ。
 ……俺はケイン。こっちはキース。
 最も古いとされる邪教徒の一人を討伐したパーティに名前を覚えておいて欲しい」

 手を差し出された。こっちの世界にも握手の習慣ってあったんだな。
 時夫は笑って握手に応じる。

「俺は時夫。時田時夫だ。あっちはルミィで、あのちびっ子がイーナだ。
 俺らも目的があって邪教徒討伐に来たんだけど、役に立てたって言うんなら良かったよ」

 キースが、ちょっと待っててくれと、部屋から何か持ってきた。

「旨い酒だ。お礼の代わりになるかはわかんねぇけど、オススメだ。
 お近づきの印に受け取ってくれ」

 大きな傷跡のあるおっかない顔なのに、キースは子供みたいな人懐っこい顔で酒瓶を渡してきた。

「ありがとう!いただくよ!」

 酒なんて、こっちの世界に来てから全然飲んでなかったなぁ。

 一旦3人で時夫の部屋に集まって、明日の予定を確認する事にした。
 話が終わった頃に、イーナがちょこちょこと先ほど貰った酒瓶に近づく。
 つま先立ちになって瓶を手に取り、ラベルを確認する。

「あら、良いお酒ね。でも、私は流石に飲めないわ。
 とても美味しいけど、結構アルコール強いから気をつけた方が良いわ」

「ふーん……まあ、俺は酒強くも無いけど、弱くも無いかな。ルミィは?」

「あんまり頂く事は無いですけど、弱くは無いと思います」

「そう……なら大丈夫かしら。
 私、子供の体だからか、もう眠くなってきたわ。先に休ませて貰うわね。お休みなさい」

「おう、お休み」「はい、おやすみなさい、ゾ……イーナさん」

 イーナは欠伸を噛み殺すような表情で去っていった。

「ルミィ酒は好きか?」

「それ飲んだ事無いので興味はありますよ」

 時夫は収納からグラスを二つ取り出す。酒のつまみになりそうなものも幾つか。

「よし!ちょっと予定外はあったけど目標達成!カンパーイ!」

「乾杯です!いえーい!」

 イーナは今日はオネムで無理だったけど、今度イーナも含めて討伐記念パーティでもやると良さそうだなぁ。

 時夫は気分良く、食べて飲んだ。
 ルミィも少し酔ってきたのか、きゃーきゃー楽しそうにはしゃぐ。

 そして、翌朝。

 時夫は床で起きた。

「ぐ……身体がカチカチに痛い。何故床に……」

 何なら頭も少し痛む。
 上体を起こす。

「…………………………」
 
 ……記憶が一部戻ってきた。たしかルミィと飲んでて……。

 ハッとして自分の衣服の乱れを確認する。
 衣服の乱れ……無し!

 もう一度確認する。

 衣服の乱れ……………………無し!!!

 しょんぼりしながら、念の為もう一度確認。
 きっちりしっかり着ている。
 ボタンも全部ちゃんと閉めてるし、ベルトもきちっと締めてある。

「ル……ルミィは!?」

 そっちも確認しないと!!まだ昨晩何かあった可能性は否定しきれない!!!

 立ち上がりベッドを見ると、ベッドの上に仰向けになり、真っ直ぐ足を伸ばして、手を胸の上で組んだルミィが横たわっていた。

 姿勢が良すぎる!!

 着衣の乱れどころかシーツも髪も乱れてないし、身体が真っ直ぐすぎる。

 口元に手を翳して呼吸確認。胸元が乗せた手と一緒に僅かに上下してるのも確認。
 よし!生きてる!!!

 じゃなくて……。
 どうやら男女間のトラブル的な間違いは一切起きていなさそうだ。

 時夫は自分が酒に酔って記憶が無くなっても紳士であるという事実を確認できた。

「流石俺様日本男児……」

 自分で自分を褒めてみた。
 しかし、心は空虚であった。

「でも、ルミィの寝顔見るの初めてか」

 ルミィの方が早起きで、時夫をよく起こしにきてくれるから、ルミィは時夫の寝顔なんて見慣れてそうだが。

 伏せられた長いまつ毛。
 血色の良い頬。
 形の良い唇。

 時夫は手を伸ばして……引っ込めた。

「流石俺様日本男児」

 床で寝たせいで身体が凝ってるし、散歩にでも行こう。
 
 良かった。何もして無くて。
 どうせそのうち日本に帰るくせに、無責任な事して無くて良かった。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...