おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと

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花色の天使

第74話 呑気な船旅

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 船旅は割と快適だった。

 船は風を帆に受けて進むのだが、何と言っても魔法の世界なので、自然の風では無く、風魔法を使える忍者軍団?の人達が頑張っていた。

 たまにルミィが手伝いに行っていたが、その度に「おぉ!」とか「凄い……」とか言ってて、こいつら大丈夫かと不安になった。

 が、正直に言って全員合わせてもルミィよりもしょぼかった。
 とは言え、数人で交代しながら休みなく頑張ってくれてるし、アルマに魔力量のボーナスを2回も受けているチートと比べるのは流石に可哀想か。
 
 急いでも無いので、のんびり海を眺めて楽しむ。

「トキオ、何をしているのですか?」

 少しラフなワンピース姿のルミィが、時夫を物珍しげに見てくる。

「見てわかんないか?釣りだよ釣り」

『空間収納』に色々入れて来たのだ。
 因みにゾフィーラ婆さんは部屋でせっせと編み物をしている。
 刺繍も洋裁も和裁も何でも出来るらしい。そういえ仕事をしていたとか。
 ボケた振りをしている時が不幸そうに見えたわけじゃ無いが、それでも、正体がバレてからの方が楽しそうで良かった。

「お!ヒット!引いてる引いてる!!」

 慎重に……慎重に……。

「うらぁ!」

 なかなか大きめの魚だ!
 食べられるのかな?

「なんて言う魚なんですかねぇ?」

「さあ?」

 そもそもあちらの世界の魚も詳しくなかった。
 ……こいつ毒とか無いよな?
 噛みついたりしないよな?

「調理担当に任せましょう!」

 ルミィがテクテク歩いて行く。
 長い金色の髪が海風にたなびいて輝いているのを、時夫はボンヤリ眺める。
 ……眺めるんならちゃんと正面から見れば良いのにな。俺ってば恥ずかしがり屋さん!

「………………」

 アルマに思考盗聴されてないよな?

 時夫は気を取り直して、また糸を垂らす。

「連れて来ました!」
「わあ!珍しいやつですよ!大丈夫!食べられます!」

 ルミィご戻って来て、コックの人の良さげなおっさんが喜んでるが、時夫はそれどころじゃない。

「くそ!めちゃくちゃデカいの連れちゃったんじゃ無いか!?」

 生活魔法のカリスマは諦めて、伝説の釣人《アングラー》でも目指すべきか!?

「トキオ!頑張って!」

 ルミィが応援してくれている!うおー!!!
 
 その時、船がグラリと大きく揺れる。
 時夫は堪らず竿を手放す。立っていられないほどにデッキが傾く。

「きゃっ!」

 よろめいて来たルミィを何とか片膝をついてしっかり抱き止める。
 良い匂い……じゃ無くて。
 調理担当は滑って行って、途中で引っかかって無事。

「『滑り止め』」

 極大の摩擦を船のデッキ全体に発生させた。
 これで、かなり斜めっても滑り落ちなくなる。

「これは……クラーケン?」

 でっかいイカを釣り上げてしまった。

「……食えるのかな?」

「そんな場合じゃないでしょう!」

 時夫は脳内でイカ刺しを思い描いたが、確かに醤油もないし、ルミィの言う通り諦めた方が良さそうだ。
 醤油……この世界に無いのかな?
 チート情報収集装置アルマの力で作ったらだいひっとで大金持ちとか……いや、金よりも普通に醤油をかけたイカ刺しが食えれば俺は……。

 時夫はでかいイカを鋭い目付きで睨みつけながら、時夫は必死にどうするべきか思考を巡らせていた。

 「あ、ちょっと……」

 必死に焼きイカ、イカリング、塩辛について考えてるところなのに、忍者軍団が勝手に攻撃を加えている!

 ルミィもブツブツ詠唱を唱えている。
 あ!スミを吐いた!いや、ルミィが風で防いだ。
 詠唱はやり直しだ。

「『エアーエッジ』!」

 風の刃が踊り狂いながらイカの足を切り落とす!

 そして、

「『ウィンドスラッシュ』!」

 ルミィが杖に風の刃を纏わせて、イカ本体を真っ二つにした。

「おおー!!!」「流石だ!」

 忍者軍団が拍手してる。
 なんか呑気な集団だな。

 お、イカの足が一本だけデッキに残ってるぞ。

 調理担当がようやく立ち上がって、こちらに近づいて来たので、聞いてみる。

「なあ、これ食える?」

 そんな訳で、時夫が思い描いたものとは違ったが、その日のディナーにはイカ料理が並ぶことになった。
 
 
 
 
 
 
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