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そろそろ良い加減少しはスローライフをしたい
第67話 ある教会の幸運
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レメド共同墓地。
その墓地を管理するのは少し離れた場所にある聖バトリーザ教会だ。
この教会は自治体からの依頼で共同墓地の世話を行っている。
そこの代表のシスタークラレッサは、突然の他国の貴族の訪問に驚きながらも、多額の寄付金に喜びを隠し切れない。
最近は聖女の活躍にも関わらず、この国の魔物は減るどころか増える一方で、寄付金の集まりが悪くなっている。
自治体の方も最低限の墓地の管理費用は払ってくれるものの、とても増額を求められる状況に無く、日々食べる物が少しずつ貧相になって来ていたのだ。
その上で、魔物に荒らされた墓石の修繕まで申し出てくれた。
なんとこの若い紫の髪の貴族は、神に仕える身でもあるらしく、滞在の間は貴族と平民では無く、同じ神に仕える者として振る舞いたいと、教会の者たちと同じ装いで過ごす事を望んだ。
なんと心清らかな人なのだろう。
……とは言え、流石に同じように過ごさせる事はしない。
貴族が満足する程度の手伝いをさせて、食事も普段よりも豪勢にした。
それ以上の額は既に受け取っているのだ。
シスタークラレッサは大事なお客様を十分に苦労体験をさせて差し上げた。
そして、この奇特な貴族は護衛を一人付けていたが、なんとその大男は大工の経験があり、魔物に荒らされ砕けた墓石なんかを無料で修繕してくれるという。
「ギル……これを使いなさい」
「はい……ご主人様」
貴族様は見たことも無い大きく澄んだ魔石を護衛に渡した。
それで修繕を存分に行えと。
「私も墓地に参りましょう」
そして、シスターは貴族様を放置することも出来ないので、貴族と護衛と共に墓地の方に向かった。
「なるほど……荒れてますね」
風が出て、シスターは頭巾が飛ばされないように手で押さえる。
貴族の紫の髪も風にたなびく。
若い貴族は、いくつか墓地の惨状を見た後、修繕を命じる。
筋骨隆々の護衛は割れた墓石を魔法で補修し、砕けたカケラを丁寧に合わせ目を確認しながら元通りにして行く。
大柄で粗野かと見た目から思い込んでいたが、なかなか丁寧な仕事振りだ。
なるほど、この貴族が好んで連れ歩く訳である。
そして、この国では昔から墓のそばには必ず木を植えるのだが、男はその木の方も整えているようだ。
「もしかして、大工だけで無く庭師の仕事も?」
「ええ……家のことは大抵任せられます」
ヨソの国の貴族の名前に詳しくないのが残念だ。これ程の者を召し抱えているのならば、きっと高位の名のある貴族に違いない。
しかも、修繕や木の世話が終わるごとに墓に向かい祈りを捧げる様は、この男の主人も伊達や酔狂で教会巡りとやらをしているのでは無いかも知れないとシスター思わせるだけの説得力があった。
しばらく教会の活動について貴族と二人で立ち話をする。
「あの……離れたところにある小屋は?」
「ああ……雑多な道具を入れております」
マズイ……クラレッサは内心冷や汗をかく。
あそこにはあまり人を近づかせないように脅されている。
ここの墓地までクラレッサが付いて来たのも、この貴族達を見張る為である。
そこらの平民ならいざ知らず、他国の貴族に何かあっては厄介な事になる……。
「あまり片付けをしていませんので……」
「そうですか。ところで、教会で行なっている貧しい者達への施しについて、もう少し詳しく……」
「では、教会に戻り、お茶でも飲みながら……」
良かった。建物への興味は失ったようだ。
クラレッサは視線を感じて、そちらをサッと見る。
やはり、自分たちは見張られていたようだ。
貴族に隠れるように、視線の主に何でもないことを首をかすかに振って示す。
「ギル……教会へ行きます」
声をかけられた大男は頷き、すぐに我々の後をついてくる。
歩きながら墓地を振り返る。
あの恐ろしい視線の主はいなくなっているように思える。
墓地は前よりも多少は綺麗に見れるようになっていた。
倒れていた墓石も元通り。
枯れかけた木は太く青々とした葉をつけている。
いざという時に取っておいた茶葉を使って、茶を入れ少し話をした後に貴族達は去って行った。
クラレッサは今日の幸運を神に感謝した。
祈りながら、ふと考える。
私は今どちらの神に祈っている?
その墓地を管理するのは少し離れた場所にある聖バトリーザ教会だ。
この教会は自治体からの依頼で共同墓地の世話を行っている。
そこの代表のシスタークラレッサは、突然の他国の貴族の訪問に驚きながらも、多額の寄付金に喜びを隠し切れない。
最近は聖女の活躍にも関わらず、この国の魔物は減るどころか増える一方で、寄付金の集まりが悪くなっている。
自治体の方も最低限の墓地の管理費用は払ってくれるものの、とても増額を求められる状況に無く、日々食べる物が少しずつ貧相になって来ていたのだ。
その上で、魔物に荒らされた墓石の修繕まで申し出てくれた。
なんとこの若い紫の髪の貴族は、神に仕える身でもあるらしく、滞在の間は貴族と平民では無く、同じ神に仕える者として振る舞いたいと、教会の者たちと同じ装いで過ごす事を望んだ。
なんと心清らかな人なのだろう。
……とは言え、流石に同じように過ごさせる事はしない。
貴族が満足する程度の手伝いをさせて、食事も普段よりも豪勢にした。
それ以上の額は既に受け取っているのだ。
シスタークラレッサは大事なお客様を十分に苦労体験をさせて差し上げた。
そして、この奇特な貴族は護衛を一人付けていたが、なんとその大男は大工の経験があり、魔物に荒らされ砕けた墓石なんかを無料で修繕してくれるという。
「ギル……これを使いなさい」
「はい……ご主人様」
貴族様は見たことも無い大きく澄んだ魔石を護衛に渡した。
それで修繕を存分に行えと。
「私も墓地に参りましょう」
そして、シスターは貴族様を放置することも出来ないので、貴族と護衛と共に墓地の方に向かった。
「なるほど……荒れてますね」
風が出て、シスターは頭巾が飛ばされないように手で押さえる。
貴族の紫の髪も風にたなびく。
若い貴族は、いくつか墓地の惨状を見た後、修繕を命じる。
筋骨隆々の護衛は割れた墓石を魔法で補修し、砕けたカケラを丁寧に合わせ目を確認しながら元通りにして行く。
大柄で粗野かと見た目から思い込んでいたが、なかなか丁寧な仕事振りだ。
なるほど、この貴族が好んで連れ歩く訳である。
そして、この国では昔から墓のそばには必ず木を植えるのだが、男はその木の方も整えているようだ。
「もしかして、大工だけで無く庭師の仕事も?」
「ええ……家のことは大抵任せられます」
ヨソの国の貴族の名前に詳しくないのが残念だ。これ程の者を召し抱えているのならば、きっと高位の名のある貴族に違いない。
しかも、修繕や木の世話が終わるごとに墓に向かい祈りを捧げる様は、この男の主人も伊達や酔狂で教会巡りとやらをしているのでは無いかも知れないとシスター思わせるだけの説得力があった。
しばらく教会の活動について貴族と二人で立ち話をする。
「あの……離れたところにある小屋は?」
「ああ……雑多な道具を入れております」
マズイ……クラレッサは内心冷や汗をかく。
あそこにはあまり人を近づかせないように脅されている。
ここの墓地までクラレッサが付いて来たのも、この貴族達を見張る為である。
そこらの平民ならいざ知らず、他国の貴族に何かあっては厄介な事になる……。
「あまり片付けをしていませんので……」
「そうですか。ところで、教会で行なっている貧しい者達への施しについて、もう少し詳しく……」
「では、教会に戻り、お茶でも飲みながら……」
良かった。建物への興味は失ったようだ。
クラレッサは視線を感じて、そちらをサッと見る。
やはり、自分たちは見張られていたようだ。
貴族に隠れるように、視線の主に何でもないことを首をかすかに振って示す。
「ギル……教会へ行きます」
声をかけられた大男は頷き、すぐに我々の後をついてくる。
歩きながら墓地を振り返る。
あの恐ろしい視線の主はいなくなっているように思える。
墓地は前よりも多少は綺麗に見れるようになっていた。
倒れていた墓石も元通り。
枯れかけた木は太く青々とした葉をつけている。
いざという時に取っておいた茶葉を使って、茶を入れ少し話をした後に貴族達は去って行った。
クラレッサは今日の幸運を神に感謝した。
祈りながら、ふと考える。
私は今どちらの神に祈っている?
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