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そろそろ良い加減少しはスローライフをしたい

第66話 伊織の本当の居場所

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 時夫は淡々とスライムを『空間収納』に収めていった。

 もちろん着る物なんて全て溶かされているので、裸である。
 ギルド長ゴリマッチョバージョンの裸である。
 ルミィはちゃんとあっち向いているので、ギルド長の貞操は守られているから安心して欲しい(?)

 哀れなスッポンポンのフィリーくんは、しゃがみ込んでメソメソ泣いている。

「怖いスライムはもう居ないよ」

 時夫は優しく声をかけてあげた。
 ギルド長は地声がデカいから大きい声を出すのはちょっと大変だった。

「う……ぐすん……ひっく……裸のゴリマッチョ怖いよぅ……」

「『フォームチェンジ』!」

 時夫(裸バージョンネックレス付き)になってあげた。

「もうゴリマッチョはいないよ」

 時夫は優しく声を掛けてあげた。

「う……ぐすん……ひっく……裸の頭のおかしい変質者怖いよぅ……」

「誰が変質者だ!!」

 時夫は思わず怯える十代未成年を怒鳴りつけた。

「ひいぃ……」

 さらに縮こまった。
 ヤバい。今の時夫の絵面は犯罪すぎる。

「ほら、トキオ、早く服着てください。予備の着替えあるんでしょう?」

 ルミィが顔を両手で隠しながら近づいてきた。
 指の間は開けている。

「いや、コイツ一応見張っとかないと……」

 ルミィがあまり見ないように顔を逸らしつつ、フィリー坊やに予備のマントを投げてやった。

「あ……ありがとう……おひめさま……」

 マントを羽織ってフィリーは少し落ち着いたようだ。
 ルミィもフィリーの身体が隠れたからちゃんと杖を向けて監視してくれそうなので、時夫もルミィに背を向けて予備の服を着る。

「おい、お前は予備の服ないの?」

「そんなの持ってない」

『空間収納』あまり使えないんだろうか?
 それとも生活魔法だから、プライド高いお貴族様として覚えなかったのかな?
 便利なのになぁ。

「仕方がないから、俺の服をくれてやるよ。
 俺背が低いし、お前とは手足の長さが違うから、ツンツルテンでも許せよ。
 パンツは買ってから使ってない奴だから安心しろ」

 服一式をポイっと渡す。
 フィリーが服を着るまで待ってやってから、いい加減聞いておきたかった質問をする。

「で、伊織ちゃんの居場所を教えてくれ」

 制服もスライムで溶けて無くなったのか、『探索』に引っ掛からなくなっている。
 手掛かりはコイツしか居ない。

「それは…………」

 フィリーは言い淀む。
 時夫は速やかにギルド長に変身した。
 そして、上半身の服に手を掛ける。

「や、やめてくれ!話すから……」

 フィリーは怯えている。トラウマになってしまったのか。
 仕方ないので、変身を解く。

「イオリはラスティアが他の天使のところに連れて行った」

 なんとも悪い知らせだ。

「他にも邪教徒がいっぱいいるのか……どんな奴だ?」

「墓守の天使ドミナ。
 薄気味悪い奴だよ。
 死体を操る奴なんだけど、昔ニホンジンを操ったら、途轍もなく強かったらしくって、もう一度ニホンジンの死体を欲しがっているんだ」

 偽聖女以外の邪教徒がいるというだけで、かなりのバッドニュースなのに、ドミナという奴はもしかすると伊織を殺すかも知れないのだ。

「ニホンジンの死体……タイラーでしょうか?」

 ルミィがポツリと呟いた。
 カズオ爺さんと一緒にこの世界に呼び出されて来た平さん。やはり生きのびてはいなかったか。
 会ったこともなくても、同じ日本人の死に少しの悲しみを覚える。
 死後も安らかに眠ることも許されずに利用されたなんて……。

「……お前は伊織ちゃんが殺されて操られても良いと思ったのか?」

 時夫は淡々と聞いたつもりだったが、声が少し低くなってしまった。

 フィリーは少し怯えるような声音で、言い訳をする。

「唯一神ハーシュレイは、イオリの死を望んでいない。
 だから殺しはしないと思う。
 ただ……貴方のことは殺したがっている」

 フィリーは短い袖が気になるのか、指先で忙しなく引っ張りながら、言葉を探している。

「……どういうことだ?俺が他の邪教徒を殺しているからか?」

「うーん……負けた天使にはあの神は興味は無いよ。
 女神ハーシュレイは強い存在が好きなんだ。
 強い存在を自分で作りたがっている。
 貴方は聖女だから、もう改造がこれ以上はできないけど、イオリはあまり手を付けていないニホンジンだから、神の力が良く馴染むし、天使にしたがってるんだよ」

 そういえばハーシュレイは人間魔改造の罰で、この世界の神の座を降ろされようとしているんだったか。
 そして、伊織ちゃんはその素体として魅力的であると。

「待ってくれ。お前は俺の質問に答えてない。
 なんで俺を殺したがる?邪教徒殺したからじゃないならなんだ?」

「ああ、うん。貴方を殺したがってるのがドミナなんだ。
 イオリはハーシュレイが目をつけていて手を出せないから、貴方を呼ぶエサか人質にするつもりなんだよ。
 そして、貴方の死体はドミナの操り人形になる予定らしいね」

 とんでもなく薄気味悪い計画を立てられていた。

「それで……ドミナってやつはどこにいるんだ?」

「北の方にずっと行ったところにあるレメド共同墓地だよ。
 ドミナはあそこに住んでいる」

「わかった。……で、ルミィ、コイツどうする?」

 連れて行くのは論外だ。
 今は大人しくとも、邪教徒仲間と合流したらりまたこちらに攻撃をしてきかねない。

「そうですねぇ……暫く何処かに縛って閉じ込めておいて、大人しくしといて貰いますか。
 飲まず食わずでも何日かは生き延びるでしょう」
 
 ルミィは鬼畜だった。
 飲まず食わずの糞尿垂れ流しを、この苦労知らずの顔した優男に強いるつもりらしい。

「ちょ……それは……」

 フィリーが絶句してる。
 時夫はこの坊やに少し同情した。

 フィリーがふと顔を上げ、ノロノロと立ち上がる。
 そして、杖を握りしめて駆け出した。

「おい!」

 速度的にも時夫とルミィからは逃げられないのに。
 しかし時夫達はすぐに足を止めた。

 フィリーの隣に月明かりに照らされた華奢な影。

「なんたらの天使……なんとかティラ……」

 時夫が祖父の仇の名を呟き損ねる。

「贖罪の天使!ラスティア!」

 そう、それをさっきから時夫は言っている。

「伊織ちゃんはどうした!?」

 時夫はとりあえず凄む。

「ドミナって天使に渡しちゃった。うっかり殺さないと良いけどなぁ?ふふふ」

 ラスティアは楽しげに時夫を揶揄う。

「……何しに来た?」

 ラスティアはニッコリ人懐っこく笑う。

「お仕事」

 愛くるしい顔の天使は一言で答えた。

「殺しに来たのか?」

「そうそう!それが私が唯一神からユスティアの分まで仰せつかってるお仕事!」

 ラスティアは細身の剣を鞘からスッと出す。
 時夫とルミィは身構えた。

「ラスティア……この人達かなり強い。今日は諦めても……」

 フィリーがラスティアに撤退を提案した。
 しかし、

「ううん。そんなのカンケーないよ!」

「……え?」

 ヒュッ……サクリ……

 光が一閃した。

 緑色の長い髪が月の光の中でサラサラ流れる。
 赤とも黒ともつかない液体を首から撒き散らしながら、フィリー・ゴールダマインは地面に倒れ伏した。

 とても助かるような怪我では無いのだけは、時夫にもわかった。

「なぜ……仲間割れを……」

 時夫が呆然と呟く。
 ルミィは詠唱を小声で始めている。

「ん?だって私の仕事は裏切り者を殺すことだよ?
 コイツ……」

 一旦言葉を切って、ラスティアは緑色の頭を蹴る。

「さっきアナタ達に情報漏らしてたっぽいもんね!
 そうなるんじゃ無いかなーって思って、ドミナに偽聖女様を引き渡してから急いで来て大正解だったね!
 あ、そうそう、お店の制服で追いかけるってよく思いついたよね!
 あらかじめ何かあった時のため~って決めてたの?」

「いや、たまたま思いついたんだ。俺も伊織ちゃんも……」

 しかし、罠に使われてしまった。
 結果的には居場所はわかったが……これからコイツを逃せば、コイツから情報漏れを聞いたドミナという奴は伊織を連れてどこかへ行ってしまうだろう。

「そっか……まあ良いや。今日はもう帰るね!
 じゃあ、ドミナは私ほどじゃ無いけど強いから頑張ってね!」

 ラスティアは笑顔で立ち去ろうとする。

「待て!逃すかよ!」

「えー?早くイオリちゃん探しに行きなよ。
 ドミナが間違って殺しちゃうかもだよ?」

 ラスティアは不思議そうに時夫を見る。
 なぜ引き止められているのか分からないと表情で告げている。

「だって……お前を逃したら、そのドミナって奴に居場所バレたから逃げろって言うんだろ?」

 時夫の言葉を聞いて、ラスティアはクスクス笑った。

「なんでそんな面倒なことを私がするの?
 それ私の仕事じゃ無いよ。
 ……あ、もしかして私がドミナのこと心配するとか思ってるんでしょ?
 私、他の天使は死んでくれた方が良いし、イオリちゃんは今のところそんなに邪魔じゃ無いから生きてても良いよ」

 ニコニコと安心させるように明るくラスティアは説明した。
 そうだった。コイツは双子の姉を仕事を楽に終わらせるために見殺しにしている。
 人の心なんて無いし、仲間意識なんてない奴なんだ。

「じゃあ……疑問はもう無いかな?
 私は帰るね。じゃあね!」

 時夫は祖父の仇をそのまま逃した。
 今は伊織を探さないといけない。
 伊織を日本に帰してやることはカズオ爺さんとの大事な約束だ。

 


 
 

 

 
 

 
 
 
 
 
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